映画紹介:The Red Machine(「レッド暗号機」)

ドイツの暗号機エニグマを取り上げた映画としては『イミテーションゲーム』(2014),『エニグマ』(2001),『U-571』(2000)などがあるが,日本の暗号機「レッド」を扱う映画The Red Machineがインディーズで制作されていた(2009;米国公開2010).残念ながら日本では見られないが,ネット上でわかる範囲でその内容を紹介したい.派手なアクションなどはなく,キャラクターのかけあいで筋を運ぶ往年のスタイルの映画だというが,一部では高い評価を得ており,日本でもぜひ発売してほしい.

あらすじ

1935年のワシントンDC.アメリカ海軍は最新の暗号機によって暗号化された日本の海軍武官の通信文が解読できずにいた.そこで海軍中尉エリー・コバーンが接触したのは名泥棒エディー・ドイルだった.ドイルは釈放と引き換えに海軍武官・島田宅から暗号機の秘密を盗み出すことに協力することになる.もちろん秘密が漏れたことがわかれば日本も暗号システムを変更するので,痕跡を残さずに情報を得る必要があった.

謹厳なコバーンは海軍武官の島田とは因縁があった(いまだに中尉ということもその過去と関連するらしい).七年前,軍国化を進める日本の国情を探りに表向きは大使館の文化担当官として東京に滞在し,スパイ活動をしていたのだ.島田が漏らした外交機密を利用したことで,親しくしていた夫人なおみをも傷つけることになった.コバーンは利用するつもりではなかったことをなおみにわかってほしいという気持ちをまだ抱いていた.

コバーンは任務のため,ドイルは自由の身となるためにしぶしぶながら協力し合う.だが,そのうち二人は,自分たちを利用しようとする人々を出し抜こうと考える……

歴史との関係

筆者の癖で,歴史ドラマを見るといつも「どこまで史実?」と考えてしまう.レビューによると,あくまでも「真実だといわれている噂」(Hinman)とのことで,登場人物などは女性暗号解読官のアグネス・ドリスコル以外は全部フィクションだという(Kendall). だがベースになっている史実はある.

第一次大戦のころから旧来の暗号はどう工夫しても解読を防ぎようはないという認識が広まり,1920年代には各国で暗号機の開発が進められた.日本も1930年のロンドン軍縮会議でプロトタイプを使用し,その後改良を経たものが1932年から使用された.これがいわゆる「レッド暗号機」で,外務省では暗号機A型,海軍では九一式印字機と呼ばれた.(別稿(英文)参照)

これは機械式暗号としてはごく単純なもので,イギリス,アメリカ,ドイツのチームによって解読された.「レッド」というのはアメリカ陸軍の解読チームによる呼称だが,それとは別にアメリカ海軍もアグネス・ドリスコルの主導で「レッド」の海軍版を解読していた.俗説では海軍チームのほうはワシントンのオールバン・タワーズ (Wikipedia) という豪華なマンションの日本の海軍武官の部屋に侵入して得た情報をもとにしたとも言われている(Machine Cryptology and Modern Cryptanalysis p.218, Emperor's Codes p.53).少なくとも,1935年にアメリカ海軍が暗号機の情報を求めてオールバン・タワーズの海軍武官宅に侵入したというところまでは事実らしい(Layton p.79; Budiansky p.83-84).(なお,こう書くといかにもアメリカが無法国家のように聞こえるかもしれないが,少なくとも当時にあっては,機密情報入手のために外国の公館に侵入することは日本も含め各国で行なわれていた.)

ちなみに,映画で使われるレッド暗号機そのものに関しては,同時代の暗号機を参考にして,クリーヴランドの質屋でみつけた古いワイヤレコーダー(鋼線式録音機)をベースに作ったという

参考リンク

オフィシャルサイト

IMDb, The Red Machine

Tyler Hinman, Inside The Red Machine: Movie Explores WWII Espionage & Codebreaking

Roger Ebert氏のレビュー

Mary Claire Kendall, Roger Ebert Gives "The Red Machine" A Big Thumbs Up



©2014 S.Tomokiyo
First posted on 3 April 2014. Last modified on 5 April 2015.
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