ライプニッツの暗号機構想,初の実機製作

科学者・哲学者ライプニッツが暗号解読に関心を示し,イングランドの数学者にして暗号解読の達人であったジョン・ウォリスに教授を乞うたことはよく知られている(別稿参照)が,ライプニッツは暗号作成機も構想していた.このほど(2012年12月)1670年代のライプニッツのメモをもとにニコラス・レッシャー教授によって実際に作成された暗号機が米国ピッツバーグ大学で公開された.

これは「ステップ・ドラム」(段付歯車;英step drum; 独Staffelwalze)により同じ文字を入力しても暗号文に(一見)不規則な変化が生まれ,解読を難しくするという.「ステップ・ドラム」というのはライプニッツが発明した加減乗除ができる機械式計算機(参考)のために考案されたもので,円筒(ドラム)の表面上に軸に沿って1〜9に比例する長さの棒状の歯が付けられており,入力された数字に応じて何ステップ回転するかが変わるというものだった.この機構に着目したことが実機作成の鍵になったという.

ライプニッツは暗号機構想を1679年に主君 (参考) のハノーヴァー公に,1688年には神聖ローマ皇帝レオポルト一世に提案し (講演録),皇帝へのメモではこの複雑な暗号機について詳述しているという (YRBFYR OTHN).だがライプニッツの構想は顧みられることなく,結局暗号機が作成されることはなかった.

レッシャー教授自身による解説が暗号機公開に際して頒布されるブックレット"Leibniz and Cryptography"にまとめられているとのことである.

参考文献

"YRBFYR OTHN: Pitt Professor Resurrects History’s First Sophisticated Wartime Coding Machine", 5 December 2012 (online) ※ピッツバーグ大学のページ.タイトルの「YRBFYR OTHN」は作成された暗号機で"decipher this"を暗号化したものだという(文字数が異なる理由はよくわからない).

"Leibniz's Reconstructed Cipher Machine on Display at University of Pittsburgh", German Missions in the United State, 19 December 2012 (online)

Project: Leibniz Encryption, 26 September 2012 (online)によればコンピューター上でのアルゴリズムの実装なら今回の実機作成に先立ってAnastas, LLCによって公開されたという.

Leibniz's Greatest Secret, 6 September 2011(online)※レッシャー教授の2011年の講演録



©2012 S.Tomokiyo
First posted on 29 December 2012. Last modified on 29 December 2012.
Articles on Historical Cryptography
inserted by FC2 system