権利章典(1689年12月)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

権利章典:Bill of Rights
名誉革命直後の1689年2月の権利宣言を法制化したものでイギリス憲法の基本文書の一つ.実質的に,下記の前文とIV以降を除いたものが権利宣言である.

臣民の権利と自由を宣言し,王位の継承を定めるための法


合法的に,余すところなく,自由な仕方でこの王国の人民のすべての身分を代表する,ウエストミンスターに集まりたる聖俗貴顕ならびに庶民は,一六八八年〔現在の言い方では一六八九年〕二月の第十三日に,ご臨席あそばされた当時オレンジ公夫妻のウイリアムおよびメアリーとの称号ならびに名前によって知られていた両陛下に,上下両院によって作成された書面による宣言を謹呈した.その文言は次のようなものである:

先の国王ジェームズ二世は自ら登用したもろもろの邪悪な顧問官・判事・大臣たちの助言により,この王国のプロテスタント信仰,法制,自由を転覆・根絶せんとして,
一 法律や法律の執行を議会の同意なく免除したり,効力を停止したりする権限を僭取し,
二 先述の僭取されたる権限を是認することを免れようと丁重に請願したことを理由としてもろもろの高位聖職者を逮捕ないし迫害し,
三 教会問題のための委員による裁判所と呼ばれる裁判所を設置するための辞令を国璽のもとに発し,それを執行させようとし,
四 議会の承諾によらない時期・方法において,国王大権の僭称のもとに,王室のために王室の使用に供する資金を調達し,
五 議会の同意なく平時においてこの王国内に常備軍を募り,維持し,法に反して兵士の宿営を行ない,
六 カトリック教徒が法に反して武装され登用されているそのときに,プロテスタントである善良なる臣下の武装解除をさせ,
七 議会において奉仕する議員の選出の自由を侵し,
八 議会によってのみ扱われるべき問題や主張について王座部裁判所での迫害やその他もろもろの恣意的にして違法な手続きを行ない,
九 近年においては偏って堕落しており不適格な人物が選出されて裁判において陪審として奉仕し,特に自由土地保有者でない者が大逆罪の裁判においてもろもろの陪審員とされた.
十 刑事告訴された人物に対して過大な保釈金が要求され,臣下の自由のためにつくられた法の恩恵を受けることを妨げる結果となった.
十一 過大な罰金が課され,不法にして残虐な刑罰が科された.
十二 罰金や没収財産に対して,それを課されるべき人物に対する有罪宣告ないし判決の前に権利の付与や約束が行なわれた.
これらすべては知られている法や成文法,そしてこの王国の自由に完全に,真っ向から反するものである.
先述の国王ジェームズ二世が国政から退位し,それによって王座が空位となり,オレンジ公殿下(全能なる神の恩寵によりこの王国を教皇主義と専制支配から解放する輝かしい使徒となられた)は(聖俗貴顕ならびに庶民の主要な人物たちの助言により)プロテスタントなる聖俗貴顕への書状を書かしめ,各州,都市,大学,特権都市,そして五港への書状を書かしめて,権利によって議会に送られ一六八八年一月二十二日にウエストミンスターにて会し着席するそれらを代表する人物の選出を求め,彼らの宗教,法律ならびに自由が二度と転覆の危険にさらされることのないような体制をつくらんとした.それらの書状に基づき,選挙がなされた.
そしてそれに基づき,聖俗貴顕ならびに庶民はそれぞれの選挙の書状に従い,今余すところなく自由にこの国民を代表するものとして集い,先に述べられた目的を達成するための最善の手段をこの上なく真剣に考慮し,まず(その父祖たちが同様な場合に通例なしたように)古来からの権利と自由を擁護し,主張するために宣言する:
一 議会の同意なくして国王の権限によって法律の効力を停止したり,その執行を停止したりするとされた権力は違法である.
二 最近僭取され,実行されたように,法律ないしその執行適用を免除することは違法である.
三 教会問題についての裁判所を設立することは違法にして悪質である.
四 議会の同意によらない国王大権による資金集めは違法である.
五 国王に請願することは臣民の権利であり,そのような請願を理由とした拘禁ないし訴追は違法である.
六 議会の同意なくして王国内に平時に常備軍を募り,維持することは違法である.
七 プロテスタントの臣下が自衛のために武器を所持することは合法である.
八 議員の選挙は自由であるべきである.
九 議会における言論,討論は自由であり,いかなる裁判所でも議会の外においても弾劾されたり問題に問われたりするべきではない.
十 法外な保釈金や法外な罰金を科してはならない.また残虐で尋常でない処罰を科してはならない.
十一 陪審員はしかるべき方法で選出し,大逆罪の裁判に関わる陪審員は自由土地保有者であるべきである.
十二 刑罰の確定前の罰金などは違法であり,無効である.
十三 問題を改善し,法を修正,強化,保持するために議会は頻繁に開催されるべきである.
そして聖俗貴顕ならびに庶民は,前記事項をその全体としても個々のものとしても自分たちの疑うことのない権利であり自由であると主張し,要求し,そして断固求めるものである.そして前記事項のいずれかにおいて人権の侵害となるようないかなる宣言,審判,行動または手続きも,いかなる形においても今後は重きをおいたり前例としたりしてはならないものとする.
人民の権利のそのような要求に向けては,彼らはとりわけオレンジ公殿下の宣言によって勇気づけられている.この宣言は完全な是正および改善を得るための唯一の手段と言える.
それゆえ,前記オレンジ公殿下がここまで殿下によって進められてきた解放を完成させ,さらにここに主張されたる権利が侵害されたり,その宗教,権利,自由に対する侵食が試みられたりすることから人民をお守りくださるであろうと完全に信じて:
II 前記のウエストミンスターに集まりたる聖俗貴顕および庶民はオレンジ公夫妻ウイリアムおよびメアリーがイングランド,フランス,アイルランドおよびそれらに属する属領の国王であるとし,またそう宣言されるものであり,前記の王国とそれらの属領の王冠と王としての威厳を前記の公と公妃はその寿命および後継者の寿命の間,保持するものと決議する.そして王権の唯一にして完全なる行使は,前記公および公妃両名の共同の寿命の間は両名の名において,前記オレンジ公にのみ存し,公によってのみ執行されるものとする.二人の没後は前記の各王国および属領の王冠と王としての威厳は前記公妃自らの子孫に次がれるものとし,そのような世継ぎのない場合にはデンマーク公女アン,そしてその自らの子孫に,そしてそのような世継ぎのない場合には前記オレンジ公自らの世継ぎに次がれるものとする.聖俗貴顕ならびに庶民は前記公および公妃に本件をつつがなく受け入れることを祈念するものである.
III そしてこの次に述べられる宣誓が,忠誠と至上権の宣誓が法によって要求されるかもしれないすべての人物によって,従来の宣誓に代わって行なわれること.そして前記した従来の忠誠と至上権の宣誓は廃止されること.
私ABは,国王ウイリアムおよび女王メアリー両陛下に対し,信義を尽くし,真の忠誠を果たすことを誠実に約束し,誓います.よって神よ助けたまえ.
私ABは,教皇またはローマ教皇庁のいずれかの権威によって破門されたり資格剥奪になった君主がその臣下や他の何人かによって廃位されたり殺害されたりしてもよいとする憎むべき教義や立場は心より忌み,嫌悪し,否定することを誓います.そしていかなる外国の君主,人物,高位聖職者,国家,有力者もこの王国内においていかなる司法権も,権力も,優位性も,卓越も,権威も,教会上のものだろうと精神上のものだろうと持たず,また持つべきではないことを宣言します.よって神よ助けたまえ.

IV これを受け,前記両陛下は,前記宣言に述べられている前記貴顕および庶民の決議ならびに望みに従い,イングランド,フランス,アイルランドおよびそれに属する属領の王国の王冠および王としての威厳を受諾された.

V そしてそれを受け,両陛下は議会の両院である前記聖俗貴顕ならびに庶民が会期を続け,両陛下の同意のもとにこの王国の宗教,法,そして自由について,それらが将来再び転覆させられる危険にさらされることのないよう決着をつけるための有効な備えをなすことをよしとしたもうた.これに対し前記聖俗貴顕と庶民は同意し,それに従って立法化を進めた.

VI 今,前記事項に従って,議会に会したる前記聖俗貴顕ならびに庶民は,前記宣言および条項,節,問題そしてそれに含まれる物事を議会の権威によってしかるべき形で作られる法律の効力によって批准し,追認し,確立するために,前記宣言において主張され,述べられている権利と自由とは全体としても個々のものとしても,この王国の人民の真実の,由緒ある,疑う余地のない権利と自由であり,そのようなものとして尊重され,猶予され,宣告され,みなされ,考えられることを祈念するものである.そして前述の各事項は全体としても個々のものとしても前記宣言において表明されているとおりに確固として厳密に掲げられ,遵守されるべきであり,そしてありとあらゆる官吏と大臣は両陛下とその後継者に対し未来永劫同じことに従って仕えるべきであることを祈念する.

VII そして前記聖俗貴顕と庶民は,いかに全能なる神がこの国民に対するその驚くべき神慮と慈悲深き寛大さによって,前記両陛下のご身体がその先祖の玉座において我らに君臨するよう,この上なく幸福に手配し,守ってくださったことを真剣に考慮し,それについて衷心より感謝と称揚を神に捧げるものであるが,ここに国王ジェームズ二世は国政から退位し,前述のように両陛下が王冠と王としての威厳を受け入れことにより,前記両陛下は我らの主権君主と君主妃,イングランド,フランス,アイルランド,およびそれに属する属領の国王と女王となり,これまでそうり続けてき,そして今そうであり,また本王国の法によりそうであるべきものである.その二人の君主としての身体に,王としての身分,前記王国の王冠と威厳が,すべての名誉,称号,肩書き,王権,国王大権,権力,司法権,権威も両名に属し付随するのと同時に,最も完全に,正当に,そして全体的に授けられ,組み込まれ,結び合わされ,結合されている.

VIII この王国における,王位への僭称された肩書きを理由とするあらゆる疑問や意見対立を防止するため,そして,この国民の統一性,平和,平穏,安全が神のもとにすっかり要素とし,依存するその継承を確かなものに保つため,前記聖俗貴顕と庶民は以下のことが法制化され,確立され,宣言されることを両陛下に懇願するものである.前記王国と属領の王冠と王権による政府が,それに属し付随する財産全体および個々とともに,前記両陛下の存命中,そしてその子孫の存命中は前記両陛下とその子孫のものであり,またそうあり続け,王権と政治権力の全体的で完全にしてまったき行使は両陛下の存命中は両陛下の名のもとに国王陛下にのみ存し,行使されるものとする.二人の没後は前記王冠と財産とは女王陛下の身体の子孫のものでありそうあり続けるべきものである.そしてそのような子孫がない場合には,デンマーク公女アン殿下に,そして国王陛下の身体の子孫へと継がれるものとする.そしてさらに,前記聖俗貴顕と庶民は前述の人民すべての名において,恭しくも忠実に,自らもその後継者と永代にわたる子孫も臣従し,そして忠実に前記両陛下とそしてここに明記されて含まれている王位継承の制限とを,命と財産をなげうってでも力の限りそれを覆そうとするあらゆる人物に対して支持し,維持し,守るものである.

IX カトリックの君主,またはカトリックと結婚した国王または女王によって統治されることはこのプロテスタントの王国の安全と福利と相容れないものであることは経験によって明らかになっており,前記聖俗貴顕と庶民はさらに次のことが立法化されることを祈念する.ローマ教皇庁あるいはローマ教会に帰依し,あるいはそれと霊的に交わっている,またはその意思のある者,またはカトリック教の告白をする意思のある者,またはカトリックと結婚する者,は何人たりともこの王国とアイルランドそしてそれに属する属領またはそのいかなる一部分についても王冠や政治権力から除外され,それを継承し,保有し,あるいは享受すること,または同領内で何らかの王権,権威,司法権を有し,用い,行使することは永遠にできないものとする.そしてそのような場合が起こった場合には例外なく,これらの王国の人民は忠誠の義務を解かれるべきであり,ここにそう定めるものである.そして前記王冠と政治権力は折に触れて,前述のように〔カトリックに〕帰依し,交渉をもち,あるいは告白するか結婚するかした前記の人物または人物たちが自然に亡くなった場合に相続し,享受するはずのプロテスタントの人物または人物たちに継承され,享受される.

X そして今後この王国の主権者として王冠を継承し王位につくこの王国のすべての国王および女王は,彼または彼女が王位について以降最初の議会の会期の第一日には上下両院議員の集まる上院議場の彼または彼女の玉座に着席し,あるいは彼または彼女の戴冠式においては彼または彼女が戴冠の宣誓(これが最初に行なわれるべきことである)を行なう際に彼または彼女に対して前記宣誓を司る人物または人物たちの前で〔着席して〕,チャールズ二世の治世第三十年に制定された「カトリック教徒が議会のいずれの院にも出席できないようにすることにより国王の身体と政体をより効率的に護持するための法律」〔いわゆる一六七九年の審査法〕と名づけられた制定法で述べられている宣言を行ない,署名し,そして聞こえるように繰り返すものとする.しかし,この王国の王冠を継承した時点で国王または女王が十二歳未満であるような場合には,その国王または女王が前記の十二歳の年齢に達したあと最初に行なわれることとして,彼または彼女の戴冠式において,または最初の議会の会期の第一日に上述の仕方で同じ宣誓を行ない,署名し,聞こえるように繰り返すものとする.

XI 両陛下が満足し,よしとされることはすべてこの現議会の権威によって宣言され,立法化され,確立されるべきであり,この王国の法として永遠に存続し,残り,そうであり続けるものとする.そして同じことは前記両陛下によって,議会に会した聖俗貴顕と庶民の助言と同意を得てそれによって,そしてその権威によってしかるべく宣言され,立法化され,確立されるべきである.

XII そしてさらに前述の権威によって宣言され,立法化されるべきことは,議会のこの現会期以降,いかなる立法またはその一部に反する適用免除も認められず,そのようなものは,しかるべき制定法で認められた適用免除,そして議会のこの現会期の間に通過される一つ以上の法案によって特に定められるような場合を除いては無効であり,効力をもたないものとみなされる.

XIII 本法は,西暦一六八九年十月二十三日以前に認められたいかなる特許,認可,恩赦をもいかなる形でも弾劾したり無効化したりするものではない.それらは本法が制定されなかった場合と同じ法的な効力をもち,また持ち続けるものとする.


(C) 2003.10. 友清理士; 訳文の最終修正日2004.12.3
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