英蘭条約(1689)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

名誉革命直後の英蘭条約(1689):
名誉革命によってオランダ人のオレンジ公ウイリアムがイギリス王位についた.これはオランダの立場からすればルイ十四世のフランスの覇権主義に対抗するためにイギリスを同盟に引き込むという意味があった.
ここでは名誉革命直後にイギリス・オランダ間で結ばれた条約3つを紹介する.

大ブリテンの国王,女王たるウイリアムとメアリーおよび連邦議会の間の艦隊準備に関する条約.一六八九年四月二十九日締結.

第一条
両陛下は大型軍艦五十,フリゲート艦十五,火船八を準備し,一万五五〇〇の有効兵力を配置する.

第二条
連邦議会は大型軍艦三十,フリゲート艦九,火船四を準備し,一万五七二の有効兵力を配置する.

第三条
艦隊はイギリス国王が指定する場所で合流する.

第四条
前記艦隊は三個戦隊に分割される.その一つは大型艦五十,フリゲート艦六,火船八からなり地中海を担当.第二は大型艦三十,フリゲート艦八,火船四からなりアイリッシュ海と英仏海峡を担当.第三はフリゲート艦六からなりカレーとドーヴァーの間が担当.

第五条
各戦隊における両国の艦船の割合が均等になるようにする.

第六条
各戦隊には一年分の必要物が備えられるものとする.

第七条
各戦隊はイギリス国王の艦隊の提督が指揮する.

第八条
軍議は両国の士官によって行なわれ,すべての事項は多数決で決する.

第九条
士官,兵,水兵に対する裁きは自国人によって行なわれる.

第十条
裁きが士官,兵,水兵どうしの問題である場合は,両国士官からなる軍議の管轄とする.

第十一条
戦利品は両国艦隊の間で,艦船数に比例して分配される.

第十二条
戦利品の分配は,それを獲得した軍艦の属する海軍省が行なう.

第十三条
両国の艦が奪取に貢献した場合には,砲数が最大の艦が属する海軍省の管轄とする.

第十四条
両国の軍艦の艦長には,機会があれば相手国の船舶を護衛し,西インドにおける植民地を救援する命令が下される.

第十五条
この条約は調印後六週間以内に批准される.


イングランド国王ウイリアム三世の委員たちと連合諸州の大使たちによって一六八九年八月十二/二十二日にロンドンで締結されたフランスとの通商禁止に関する協定.

フランス国王がネーデルラント連邦共和国の連邦議会や大ブリテン国王の他の同盟国に対して宣戦を布告し,陛下も前記フランス国王に対する宣戦布告を発した今,前記大ブリテン国王および前記連邦議会の諸閣下が共通の敵に対してできる限りの損害を与えることは,正当にして公正な平和に同意させ,キリスト教世界の平穏と安息を回復させるような条件に従わせるために適当である.そしてこの目的のためには両国はあらゆる力を行使し,とりわけフランス国王の臣民とのすべての貿易,通商を有効に中断し,中止するよう命令を発し,前記国王とその臣民が戦争に供するあらゆる種類の補給を妨げられるようにすることが必要である.そうしなければ戦争の続行によってきわめて危険となり,多くのキリスト教徒の流血の原因となる.前記大ブリテン国王および前記連邦議会の諸閣下は,その目的達成を助けるため,それぞれの艦隊にフランス沿岸に向けて出帆し,フランス国王に属するすべての港,避難港,水道を封鎖するよう命じている.

第一条〔フランスとの通商の禁止〕
大ブリテン国王陛下と連邦議会の諸閣下との間で以下のことが合意され,締結された.国王,連邦議会いずれの国民も自らの船舶についても他の王国,国,領土の船舶についても,フランス国王の臣民との間で取引をしたり,あらゆる通商を行なったりすることは,その方法を問わず認められないものとする.前記国王もしくは前記連邦議会の避難港や国土にも,またいかなる国にも,フランス国王陛下に従う属領や領土の産物である商品や品物を輸入せず,また前記の国土や領土に商品や品物を運び入れたりもしないものとする.違反した場合には前記商品や品物のみならずその輸送に使われた船舶をも没収されるものとする.

第二条〔第三国の通商の禁止〕
ヨーロッパのいくつかの国王,君主,諸邦はすでにフランス国王との戦争状態にあり,すでにフランスとのすべての通商を禁じているか,まもなく禁止することになっており,前記大ブリテン国王陛下と前記連邦議会の諸閣下との間で,次のことが合意された.もし,この戦争の継続中に他のいずれかの国王,君主,諸邦がフランス国王の臣民との間で取引をしたり,通商を行なったりすることを企てる場合,またはその船舶がフランス国王に従う港,避難港,水道に向かっているのに出会った場合には,前記船舶,商品,品物は,上述の場合には,大ブリテン国王および連邦議会の諸閣下の軍艦や私掠船の艦長もしくはその他の国民によって攻撃され,拿捕され,適正な裁判官の前で合法的な戦利品と裁定される.

第三条〔第三国への通知;批准〕
前記大ブリテン国王および連邦議会の諸閣下の間で,できるだけ早くこの条約と協定をフランスと戦争状態にないヨーロッパのすべての国王,君主,諸邦に通知し,前記国王,君主,諸邦には同時に以下のことを伝えることが合意され,締結された.その国民の船舶がこの通知が与えられる前に海上でフランス国王に従う港,避難港,水道に向かっているのがみつかった場合には,大ブリテン国王と連邦議会の諸閣下の船舶によってただちに引き返すことを求められる.それらの国王,君主,諸邦もしくはその国民に属する船舶が前記港からフランス商品を積んで出てくるところをみつかった場合には,前記船舶は前記港に引き返し,前記物品と商品を残してくるように求められ,従わない場合には没収される.そしてそれらの国王,君主,諸邦もしくはその国民の船舶が前記の通知よりあとに海上でフランス国王に従う港,避難港,水道に向かっているかそこから出てくるのをみつかった場合には,それは拿捕され,積み荷ともども押収され,正当な戦利品と見なされる.そしてすでにフランスと戦争状態にある君主については,前述と同じようにできるだけ早く通知が行なわれ,同時に共通の利益に資するようなこの方法に同意し,同じ目的に向けて命令を発し,執行するよう求めることが合意され,締結された.
この条約は陛下と連邦議会の諸閣下によって批准され,批准書は六週間以内に交換される.ただし,その期限内に国王陛下と前記連邦議会との間で攻守同盟が締結され,調印された場合にはこの条約はその中で確認され,そこに含まれるものとする.その間,この条約のすべての条項は,双方の側においてあたかも批准書が交換されたかのように逐一誠意をもって執行されることが合意され,締結された.
一六八九年八月十二/二十二日,ホワイトホールにて作成.

カマーゼン スヒンメルペニンク
ハリファックス ヴァンデル・オーヘ
シュローズベリー N・ウィトセン
ノッティンガム W・デ・ナッサウ
ウォルヘム アルナウト・ヴァン・シッテルス
デ・ウェーデ

秘密条項
双方によって,この条約のすべての内容についてただちに通知が行なわれることが合意された.通知先は国王陛下の宮廷にもしくは連邦議会のところに滞在している関係国王,君主,有力者の使節だけでなく,外国国王,君主,諸邦の宮廷にそれぞれ滞在している者も含めるものとする.そしてさらに,一方もしくは他方の当事国がこの条約もしくはその条項のいずれかの執行を理由として不利をこうむることがあった場合には,英国国王陛下および連邦議会の諸閣下はその点に対して互いの保証人となることを約束し,その義務を負う.


大ブリテン国王ウイリアム三世と連合諸州の連邦議会の諸閣下との間の友好と同盟の条約.一六八九年八月.

今後,海陸を問わずどこにおいてもあらゆる場所で,ヨーロッパの内外を問わず,大ブリテン国王およびその継承者およびその諸王国を一方とし,ネーデルラント連邦共和国の連邦議会の諸閣下およびその属領,州,国民を他方として,誠実で確固として永遠の友好とよき交流がうち立てられるべきである.
そしてこの友好とよき交流がよりよく確認され,いかなる主張に基づくものにせよ両国の間に生じるかもしれないあらゆる困難が取り除かれるために,前記大ブリテン国王と前記連邦議会の諸閣下との間で次のことが合意された.平和,友好,同盟,連盟,通商,海事に関する以下に名を挙げて特定するすべての条約は双方によって承認され,確認される.すなわち,一六六七年七月二十一/三十一日にブレダにて締結された平和と連盟の条約.
同時に同地にて締結された航海と通商の条約.
一六七三/四年二月九/十九日にウエストミンスターで締結された平和と友好の条約.
一六七九年十月十日にロンドンで締結された海事条約.一六六七/八年二月十七日の前記海事条約のいくつかの条項について説明した一六七五年十二月二十/三十日にハーグで締結された宣言書も含む.
一六七四/五年三月八/十八日にロンドンで締結された,イングランドとオランダの東インド会社間に生じるかもしれない紛争を防止し,調停する条項.
一六七七/八年三月三日にロンドンで締結された防衛同盟.
一六八九年四月二十九日に締結された,イングランド,オランダ艦隊の間の協調の条約.
一六八九年八月十二/二十二日に締結された,フランスとのあらゆる通商を禁じるための条約.
前記諸条約のすべて,そしてそれに含まれるあらゆる条項はこの条約によって有効に承認され,確認されるものであり,それらが互いに,またこの条約の規定と矛盾したり反したりしない限り,ここに一語一語挿入されているかのごとくにもともとの効力をもち,有効であり続ける.そのような〔条約により異なる規定がされている〕問題においては,より新しい条約で規定されている論点と問題がしかるべき時期に実行され,古いほうの条約については顧慮しないものとする.さらに,国王陛下とその継承者および連邦議会の諸閣下とその国民と住民との間には,互いの平穏,平和,友好,中立を海陸を問わず支援し,護持するために,そしてそれぞれが享受している,または享受する権利がある,または,これから結ばれる,もしくは共同して他の国王,共和国,都市との協調において将来締結される平和,友好,中立の条約によって今後獲得する,または獲得される互いのすべての権利と管轄権,自由を維持するために,厳密な同盟と誠実な連盟があるべきである.ただし,そのすべてはヨーロッパの領域内のみにおいてのこととする.また,国王陛下もしくはその父祖たちと前記連邦議会の諸閣下がすでに他の国王,共和国,君主,諸邦と結んだすべての条約―これは批准書の交換前に相互に提出しあうものとする―のみならず,将来,互いの協調の上に共同の同意によって結ぶすべての条約についても互いの保障者となり,前記諸条約を護り,現在もしくは今後大ブリテン国王陛下とその継承者ならびに連邦議会の諸閣下に属する領土,都市,地点の保有において,それらの領土,都市,地点がどこに位置するものであろうと,互いを助け,継続的に保護することを約束し,その義務を負う.国王陛下および前記連邦議会が前述したようななんらかの場合になんらかの敵対行為もしくは公然たる戦争により悩まされ,もしくは攻撃された場合には,それがいかなる主張に基づくものであろうと,一六七七/八年三月三日に締結された先に言及された条約に規定するところに従って双方ともに行動するものとする.
そして前記大ブリテン国王および前記連邦議会は現在フランスと戦争状態にあり,大ブリテン国王および連邦議会は,あらゆる国王,君主,諸邦,そしてとりわけ前記フランス国王に対して,海陸を問わず,互いを支援,防衛し,また互いの国土や国民がその所有物,免除,自由,そして航海と通商および他のありとあらゆる権利において相手を維持する相互的な義務を負っているため,また,ヨーロッパの安息と平穏を確立する公正にして名誉ある平和を実現するのを助けるため,大ブリテン国王と前記連邦議会の諸閣下は,前記同盟者のいずれも,前記フランス国王や同盟者のいずれか一方が悩まされたり攻撃されたりしている他の国王,君主,諸邦と停戦,休戦,講和をすることは,共同してもしくは共通の同意によって〔でない限り〕しないものとすることが合意された.そして前記大ブリテン国王と前記連邦議会はすでにこの年については軍勢を協力させて前記のフランス国王に対する条約に合意しているため,両国はただちに,共通の敵に対して最大の成功を収める行動に最も適切と考えられる兵や軍艦の数や動員に関する他の条項や規定についてただちに協議することが合意され,締結される.
さらに,前記国王と前記連邦議会との間で,前述したように共同して,共通の同意によってフランス国王との間に講和が締結されたのちに,締約国のいずれか一方が再びフランス国王によって攻撃された場合には,一六七七/八年三月三日にイングランドと前記連邦議会の諸閣下との間でウエストミンスターにて締結され,またこの条約によって承認され,確認されている同盟と保証の条約がその際にはその完全な効力をもって発動され,そのすべての点,条項において,同じか同様の条約が新たに,もしくはフランス国王との講和締結後に締結されたかのように執行されるものとする.ただし,一点だけ変更がなされる.この条約の条項に言及されている事例に従って戦争が勃発した場合,前記同盟者のいずれも前記フランス国王や他のいずれの襲撃者とも停戦に合意しない.共同して,共通の合意によってでなくては.あらゆる国王,君主,諸邦でそう望むものは,批准書の交換前もしくはその後六か月以内に前記国王と連邦議会の共通の同意があればこの条約に含められる.
この条約は前記国王と前記連邦議会によって承認され,批准されるべきであり,批准書は双方によってしかるべき正式な形において,六週間以内に,もしできうるならばそれより早くに交換される.その証として,我ら大使等はそれぞれの全権委任状の効力により本状に署名し,印章を捺した.
ホワイトホールにて.一六八九年八月.


テキストは Gallica - Jenkinson, Charles. A collection of all the treaties of peace, alliance and commerce を用い,若干改行を加えた.
(C) 2004 友清理士; 訳文の最終修正日2004.3.28
革命の世紀のイギリス〜イギリス革命からスペイン継承戦争へ〜    歴史文書邦訳プロジェクト   

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