オランダ連邦議会によるオレンジ公の遠征支援決議(1688)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

1688年6月付けでイングランド貴顕から来寇の要請を受けたオレンジ公ウイリアムは軍備を整え,ドイツ諸侯の協力を取りつけてきた.連邦大将軍であるウイリアムだったが,オランダ連邦議会の管轄下にある軍に関しては,連邦議会の許可がなければイングランド遠征に率いていくことはできなかった.これまで軍備はフランスの侵攻に備える防衛のためとの口実のもとに行なわれていた.9月末にウイリアムが遠征計画を開示すると議会も承認し,10月18日(オランダでの新暦では10月28日)には連邦議会の名で諸外国にアピールするための支援決議をした.

連合諸州の連邦議会がオレンジ公ウイリアムのイングランド親征にあたって船舶および兵員の援助に関わる理由を述べた決議.1688年10月28日.

真剣な討議の末,外国の宮廷にある我が国公使のすべてに対し,連邦議会の諸閣下がオレンジ公ウイリアム殿下がイングランドに赴く計画を遂行するにあたり船舶と兵員を支援することに決めた理由を通知し,同時に公使らが駐在先の宮廷においてその理由を適当と思われる仕方で活用するよう命令と指令を伝えることが適当であり時宜にかなったものと考えられるに至った.そして以下のことを通知する.上記の結果として,連邦議会の諸閣下は前記公使らに次のことを書いた.
全世界に悪名高く知れわたっているように,イングランドの国民は長いこと,国王がその大臣らの邪悪な助言と説得により疑いなく彼らの基本法を侵害し,法に違反しローマカトリック教を導入することによって彼らの自由を抑圧し,プロテスタントの宗教を破滅させ,すべてのことを恣意的な支配のもとにおこうと努めていると不平を述べていた.この悪行がさらに推し進められれ,それから恐れられる災厄の危険が増すようなことがあれば,国王に対する不信と反感が生まれ,王国中に全般的な混乱と無秩序が危惧される.そのためにかの王国のさまざまな貴顕その他の重要人物から殿下に対してなされた度重なる申し立て,繰り返される請願,切迫した要望に基づき,また同王国の繁栄が公妃殿下および公に関わってくることであることに鑑み,またこうした対立や不和の報告を受けていながら静観して王位から排除される危険を冒すわけにはいかないことから,前記オレンジ公は同王国の支援を余儀なくされたのであり,オレンジ公はもっともな理由から国民の救援に赴き,かの国に対してあまりに重荷となっている政府に関して国民にあらゆる可能な支援をする決意をした.そしてさらに,殿下が託されている我が国の繁栄が前記王国が平和であり続けることに大いに関わってくるものであり,国王と国民の間の不信と疑念が除かれるべきであるとの確信から,殿下は,かような重要かつ称賛すべき計画を成功させ,よこしまな人々から妨害を受けることがないようにするためにはいくばくかの軍勢を率いてかの王国に渡ることが必要であると理解し,その意図を連邦議会の諸閣下に知らしめ,その支援を要請した.
連邦議会の諸閣下はそれに関し慎重に討議したのち,また次の事情を考慮した.しばしば確言されてきたようにフランスとグレートブリテンの両王は互いに親密な理解と友好の関係にあり,両国の間にきわめて厳密かつ秘密の同盟がある.また連邦議会の諸閣下は両陛下が共同して我が国から同盟国を奪おうと努めており,フランス国王でさえもが彼らに対する軽視のほどを何度か示してきたという情報を受け,知らされた.そのためもしグレートブリテン国王がひとたび意を通すことができ,人民に対して絶対権力を実現したならば,両王が国家の利害とプロテスタントの宗教に対する憎悪で一致して我が国を蹂躙し,できうるならば破滅させんと努めることが危惧される.そこで連邦議会の諸閣下は殿下が計画を遂行することを認めることとし,若干の船舶および兵員を補助としての性格において与え,その計画を支援することを決意した.
そしてその目的遂行において,殿下は諸閣下に対して,神の恩寵と恵みによりイングランドに遠征せんと決意したのは,決してかの王国を侵略したり荒廃させたり,国王を廃位したりする意図や計画をもってではなく,ましてや自らがその支配者たらんとしたり合法的な継承者を妨げようとしたりローマカトリック教徒を追放したり迫害したりするものでもなく,ひとえにただ国民を救い,侵害された法と特権を回復し,またその宗教と自由を保護するためであると断言した.そしてこの目的のために殿下は,慣習に従って法と政府の基本法によって資格があるとされている人物による自由にして合法的な議会が招集され,貴族,聖職者,ジェントリー,人民の安全のために彼らが必要とみなす事項に関して討議し決議できるよう事態を整えるべく努め,彼らの権利,法,特権が二度と破られ,侵害されない目的に向かって努めるものと決意している.
連邦議会の諸閣下は,神の祝福により,かの王国において静穏と連帯が回復され,それによりキリスト教世界の共通の福利およびヨーロッパの平和と静穏の再建と維持の目的に効果的に一致する状態におかれるようになることを期待し,またそれを確信するものである.
そして連邦議会の諸閣下のこの決議の抄本が作成され,代理人ローセンボームによってこの地に駐在している外国公使たちの手に通知のため届けられるものとする.彼らはそれをいかようにも利用してよい.

J・V・ハールソルテ
そして下に
H・ファーヘル


翻訳にあたってのテキストは次の箇所にある英訳を用いた.改行は訳者による.
http://visualiseur.bnf.fr/Visualiseur?Destination=Gallica&O=NUMM-93746

(C) 2004.10.24 友清理士; 訳文の最終修正日2004.10.24
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