対仏大同盟条約(1689)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

対仏大同盟:Grand Alliance
ルイ十四世の拡張政策を警戒し,1686年,神聖ローマ皇帝ならびにドイツ諸侯の間でアウクスブルク同盟が結ばれていた(ドイツに領土を持っているスペイン王,スウェーデン王も参加)が,これにイギリス,オランダが加わって大同盟となった.
ここに訳出するのは名誉革命で王位についたイギリス国王ウイリアム三世が皇帝・オランダ間の同盟に加わることを示す証書であり,全文引用の形でもとの条約が含まれている.

対仏大同盟条約(1689)(ウイリアム三世の参加証書)

皇帝と連邦議会との間の同盟条約(一般に大同盟と呼ばれる).一六八九年五月十二日,ウイーンにて締結.大ブリテン国王は別記条項とともにこれに一六八九年十二月九日に参加.

神の恩寵により大ブリテン,フランス,アイルランドの国王,信仰の擁護者等たるウイリアム三世.本状を目にするすべての各人にご挨拶申し上げる.最もやんごとなき,最も力あり,最もうち勝ちがたい君主にして主レオポルト―神の恩寵によりローマ皇帝として選ばれた者,常なる尊厳者,ドイツ,ハンガリー,ボヘミア,ダルマティア,クロアティア,スラヴォニア等,国王等―と連合諸州の連邦議会の諸閣下との間に,さる友好とより緊密な同盟の条約が去る五月十二日,ウイーンにて結ばれ,締結された.皇帝側の代表者はケーニヒセッグ伯レオポルト・ヴィルヘルム―帝国の副宰相等―,シュトラトマン伯テオドール・アルテーテ・ハインリヒ―宮廷宰相―でいずれも皇帝陛下の全権で国務評議会議員,連邦議会の代表者はヤーコプ・ホップ―アムステルダム市の評議員で記録官,連邦議会会議におけるホラント・西フリースラント州代表―であった.その条約の文面は次の通りである.

以下のことを知らしめ,宣言するべし.数年前に神聖なる皇帝陛下と連合諸州の連邦議会の諸閣下との間でハーグで締結された相互防衛のための条約は今なお完全に効力をとどめているのではあるが,それにもかかわらず,皇帝陛下も前記連邦議会も,先のフランスによる侵略以来キリスト教世界全体を脅かしている共通の危険の大きさ,ならびにフランスにはもろもろの条約の遵守において必ずしも信をおけないことを考え,前述の条約の規定と以前の連合とをより緊密でより確固とした結びつきによって強化し,公共の平和を保持,回復するためのより有効な手段を検討することが必要であると判断した.よって,両当事者によってその目的に向けて選任された全権,すなわち皇帝陛下の側からは国務評議会議員ケーニヒセッグ伯レオポルト・ヴィルヘルム―帝国の副宰相等―およびシュトラトマン伯テオドール・アルテーテ・ハインリヒ―宮廷宰相―,連邦議会の側からはヤーコプ・ホップ―アムステルダム市の評議員で記録官,連邦議会会議におけるホラント・西フリースラント州代表―が選任され,相互に全権委任状を交換しあったのち,以下の通り締約し,協定した.

第一条〔友好と協力〕
皇帝陛下と連邦議会の間には永遠に,変わらぬ,恒久的な,侵されざる友好とよき交流があり,またあり続けるべきである.そしてその各々は互いの利益を熱心に推進し,力のあたう限り相手に損害,不都合となるあらゆることを防止する義務を負う.

第二条〔攻守同盟〕
そしてフランス王が最近,いかなる合法的な大義や口実もなしに,この上なく嘆かわしく,この上なく不当な戦争において,連邦議会のみならず皇帝陛下をも攻撃したことに鑑み,その戦争中は,両締約国の間に防衛的のみならず攻撃的でもある同盟が必要である.その効力により,双方とも,前記フランス王および特別に勧告してもフランス国王から離反することを拒むその同盟者たちに対して,海陸を問わず総力をもって敵対行動をとるものとする.そしてまた,両者は,共通の敵の撃滅のために,共同してもしくは個々に,より効果的に戦争を遂行するための情報を互いに伝えあうものとする.

第三条〔単独講和の禁止〕
一方がこのフランスとの戦争から退き,または単独でフランスやその追従者と何らかの協定,平和条約,停戦を結ぶことは,いかなる口実においても,他方の同意と承諾なくしては認められないものとする.

第四条〔目標〕
いかなることがあっても,ウエストファリア条約とオスナブリュック,ミュンスター,ピレネーの各条約の定めた状態が神の助けと共同の武力によって勝ち取られ,教会のことも国家のこともその趣意に従って以前の状態に復されるまではいかなる平和もありえない.

第五条〔交渉における共同〕
講和もしくは休戦の交渉が双方の合意によって着手される場合,取り決められるすべてのことは,どちらの側においても善意をもって伝えられる.また,双方とも,他方の同意と満足なくしていかなることも締結しない.

第六条〔講和後の防衛条約〕
このたびの戦争が双方の合意によって終結し,和平が締結されたのちは,神聖なる皇帝陛下とその世継ぎと継承者および連合諸州の連邦議会の両者の間には,しばしば言及されているフランス王室およびその追従者たちに対する恒久的な防衛条約が存続する.その効力により,両当事者は結ばれる平和が確固として恒久的なものとなるよう,最大限の努力を払うものとする.

第七条〔講和が破れたときの相互支援〕
しかし,もしフランス王室が前記講和に反して同盟せる当事者の一方もしくは両方を再び攻撃するようなことがあれば,それがなされるのがいつの時点であろうとも,双方は誠意をもって総力をもって,現在と同じように,海陸両面において,互いを支援し,あらゆる種類の敵対行為と暴力とを撃退し,すべてのことが前述した講和の条件に従って以前の状態にまで復され,難を受けた当事者に賠償が与えられるまで決して引き下がらないものとする.

第八条〔互いの権利の保護〕
さらに,皇帝陛下と連邦議会は,いつの時においても,あらゆる手段により,また総力をもって,フランス王室およびその追従者たちに対して互いのすべての権利を保護し,防衛する.また,前記権利において互いに妨げになるいかなることもしない.

第九条〔両国間の領土問題の平和的解決〕
締約国の間で,その属領の境界をめぐって対立があるか,今後生じた場合には,双方によって派遣される委員もしくは使節によって友好的なしかたで調整され,決着されるものとし,いかなる形でも武力を用いることはしない.そして,決着がつくまでの間はそれについて何ら新たなことは行なわれないものとする.

第十条〔新たな参加国〕
この条約の一員には,皇帝陛下,スペイン王室,連邦議会によって,イングランド王室の参加が招請される.また,いずれかの当事者のすべての同盟者および連盟者でこれに加わることを適当と考えるものは,同様に加盟が認められる.

第十一条〔批准〕
この条約は双方によって四週間以内,もしくはできるならより早くに批准される.

その証として,そしてここに述べたことの信用と誠意をより強く確証するため,同じ文面の文書二通が作成され,両当事者の全権によって署名され,印され,相互に交換された.
一六八九年五月十二日,ウイーンにて作成.

(捺印場所)レオポルト・ヴィルヘルム,ケーニヒセッグ伯
(捺印場所)T・A・ハインリヒ,シュトラトマン伯
(捺印場所)J・ホップ

連合諸州の連邦議会の諸閣下はその特命大使である我らに最近神聖なる皇帝陛下と締結された同盟の写しを送り,我らが諸閣下の名において大ブリテン国王にこの同盟への参加を招請するものとした.我ら下名の特命大使は,これが我らに送られたものの真実にして正確な写しであることを断言する.その確証として,この宣言を行なった.一六八九年九月十日/二十日.

A・スヒンメルペニニック,    N・ウィトセン
ヴァンデル・オーヘ
アルナウルト・ヴァン・シッタース デ・ウェーデ

そして連邦議会がその特命大使たちを通じて,第十条の効力により,余に前述の条約による同盟に参加するよう招請した.余は公共の平和と静穏を回復し,保持するために必要でこの上なく有用であるありとあらゆる手段をとらえることを何にも増して望んでおり,それだけになおさら進んで,皇帝陛下および前記連邦議会に対する余の誠実な愛情と友好の証を与えるべく,これに加わるものである.したがって,以下の通り通知する.余は前記条約を精査し,熟慮した上でこれを受け入れ,承認し,批准することにし,本状によりここに,余,余の世継ぎと継承者について,これをそのすべての条項とともに受け入れ,承認し,批准するものである.そして,前記条約を熱心に,侵すことなく遵守し,実践し,そのいずれの条項にも違反することなく,余の力の及ぶ限りそれが違反されることも許さないことを約し,国王の言葉において約束する.ただし,神聖なる皇帝陛下と前記連邦議会とが余を前記条約に受け入れ,最善のしかたで書かれた必要な文書をそれぞれ余に対して与え,届けることを前提とする.そのさらなる証拠と証として,余は本状に余のイングランドの国璽を捺さしめた.余の手により署名.主の年上記と同じ一六八九年,余の治世第一年十二月九日.余のハンプトンコートの宮廷にて発行.

ウイリアム 国王

別記条項

フランスは,この上なく厳粛に継承権を放棄したにもかかわらず,いまだに,スペイン国王陛下が合法的な子孫なく没した場合に,スペインの王室の継承を王太子のために武力によって主張するつもりであることを,いくつかの場所や宮廷において公然と宣言し,また前記王太子をローマ王にすることを公に狙っている.連合諸州の連邦議会は,これらの主張のいずれもがその国家に対していかなる打撃を与えるか,公共の営みと静穏にいかなる害を与えるかを熟慮し,この別記条項において,以下のことを約束する.これは一語一語条約本文に挿入されているかのごとく有効である.第一に,現在のスペイン国王が合法的な子孫なく没した場合には(そのようなことがなからんことを),その全力をもって神聖なる皇帝陛下もしくはその世継ぎが,法的に同家に属するスペイン王室の継承をその諸王国,属州,属領,権利とともに取得し,フランスやその追従者が直接間接を問わずこの継承を妨害するのに抗してその平穏な保有を獲得し,確かなものとするのを支援し,敵が繰り出してくる武力は武力によって退ける.
連邦議会は同様に,その同盟者たる帝国の選帝侯たちに対して,最もやんごとなきハンガリー国王たる皇帝陛下の長男ヨーゼフがすみやかにローマ王に選ばれるよう,あらゆる友好的な影響力と努力を行使する.そしてもしフランスが脅迫もしくは武力によってこの選出を妨げ,妨害し,あるいはいかなる形であれ乱すならば,それに対抗して,あたう限りの力をもって神聖なる皇帝陛下を支援する.
イングランド王室も同様にしてこれらの条項の合意事項に参加するよう招請される.一六八九年五月十二日,ウイーンにて作成.署名,
                (捺印場所)T・A・ハインリヒ,シュトラトマン伯
                (捺印場所)J・ホップ

連合諸州の連邦議会の諸閣下はその特命大使である我らに
最近神聖なる皇帝陛下と締結された別記条項の写しを送り,我らが諸閣下の名において大ブリテン国王にこの同盟への参加を招請するものとした.我ら下名の特命大使は,これが我らに送られたものの真実にして正確な写しであることを断言する.その確証として,この宣言を行なった.一六八九年九月十日/二十日.

A・スヒンメルペニニック,    N・ウィトセン
ヴァンデル・オーヘ        W・デ・ナッサウ
アルナウルト・ヴァン・シッタース デ・ウェーデ

[これら別記条項は条約そのものと同様にして承認された.]


(C) 2004.5. 友清理士; 訳文の最終修正日2005.1.18
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