大同盟条約(1701)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

大同盟条約:Treaty of Grand Alliance
1700年にスペイン王カルロス二世が世継ぎなく没し,その遺言によってスペイン王位はフランス王の次男に提供された.ブルボン家の力が強大になるのを防ぐべく,1701年9月,イギリス,オランダ,皇帝は大同盟を締結した.
スペイン継承戦争はこの年イタリア方面で勃発し,翌年にはイギリス,オランダも参戦し,ネーデルラントにおいても戦端が開かれる.
なお,1702年にイギリス参戦の条件として名誉革命で王位を追われたジェームズ二世の息子をイギリスの王位継承から排除する追加条項が締結された.

大同盟条約(1701)

しばらく前にこの上なく栄光ある追憶のうちなるスペイン国王カルロス二世が後嗣なく没し,神聖なる皇帝陛下は亡き国王の諸王国ならびに諸属州の継承を,法的に自らの至尊の家系に属するものとして主張した.しかし,フランス国王は同じ継承を孫のアンジュー公のために狙い,亡き国王のとある遺言状により権利があると僭称して,全遺領すなわちスペイン王領を前記アンジュー公のために奪取し,武力をもってスペイン領ネーデルラントならびにミラノ公国に侵攻し,カディスの港において艦隊を準備し,若干の艦船をスペイン領西インド諸島に派遣した.このことおよび他の多くのことによってフランスとスペインの王国はあまりに密接に統合され,塗り固められ,以後単一にして同一の王国であるとしか考えられようがないほどである.そのため手遅れにならないうちに手を講じないと,皇帝陛下は自らの主張についての満足を得るあらゆる希望を失い,神聖ローマ帝国はイタリアおよびスペイン領ネーデルラントにおいてそれに属する封土についての権利を失うことになるであろう.イングランド人,オランダ人が地中海,西インド諸島その他の地域において享受している航海と通商の自由な往来も完全に破壊されることになるだろう.そしてネーデルラント連邦共和国は,彼らとフランスとの間に彼らが防壁と呼ぶスペイン領ネーデルラントの諸州があるために享受できている安全を奪われることになるであろう.最後に,このようにして統合されたフランスおよびスペインはほどなくしてあらゆる国にとって強大なものとなり,全ヨーロッパに対する覇を唱えることもたやすいこととなるであろう.したがって,このようなフランス国王の行動によって,皇帝陛下は自分個人の利益のみならず帝国の諸封土をも守るべく,軍隊を派遣する必要に駆られることになった.大ブリテン国王は自国の軍勢を連邦議会の支援に送ることが必要と考えるに至った.連邦議会はすでに実際に侵略がなされたのと同じ状態にある.そしてオランダの国境はあらゆる方面において,フランスの隣国という地位から防護してきた防壁と呼びならわされている防柵が破壊され,取り払われたことによって危機にさらされている.そのため前記議会は,その共和国の安全と防衛のために,戦時においてすべきであり,することのできるあらゆる手だてを尽くす必要に駆られている.そしてかほどに危うい情勢は戦争そのもの以上に危険なものであり,フランスとスペインは現状を利用して両国の間の統合をより強く確固としたものにしようとしている.ヨーロッパの自由を抑圧し,通商の自由を奪うためである.こうした理由から神聖なる皇帝陛下,神聖なる大ブリテン国王陛下,ネーデルラント連邦共和国の連邦議会の諸閣下はそれから生起しうる甚大なる害悪を除去するため,そして力のあたう限り事態の改善に努めることを望んでいることから,大いなる共通の危機を退けるためには相互の間での厳密なる連合と同盟が必要と考えるに至った.この目的のため,以下の同盟条項に合意した.

第一条〔友好〕
神聖なる皇帝陛下,神聖なる大ブリテン国王陛下,ネーデルラント連邦共和国の連邦議会の諸閣下の間には,一定して永続的で侵すべからざる友好と交友が存し,持続するべきである.各締約国は力のあたう限り互いの利益を推進し,起こりうる不都合や損害を防ぐ義務を負う.

第二条〔目的〕
神聖なる皇帝陛下,神聖なる大ブリテン国王陛下,連邦議会は全ヨーロッパの平和と全般的な安寧を何にも増して真摯に望んでおり,その実現のために何にも増して効果的なのは,皇帝陛下にそのスペイン継承についての主張に関して公平かつ合理的な満足を獲得し,大ブリテン国王と連邦議会はその諸王国,諸属州,諸属領ならびに臣民の航海,通商に関しての個別にして十分な安全保障が得られるようにすることであると判断した.

第三条〔平和的解決の努力〕
したがって同盟諸国は,まず第一に,その全力をもって友好的な手段およびゆるがない確固とした合意によって,皇帝陛下には前記継承について公平かつ合理的な満足を獲得し,大ブリテン国王陛下とネーデルラント連邦共和国の連邦議会の諸閣下には先に触れた安全保障を獲得するよう努めるものとする.そして同盟諸国はその目的のため,誠意を尽くして休むことなく,批准の文書が交換された日から起算して二か月を費やすものとする.

第四条〔相互支援〕
しかし,もし期待や意図に反して期限までに前述したようにことが運ばなかった場合には,同盟諸国は,先に触れた満足と安全保障が得られるよう,後日その目的のための協定において合意される分担に従った武力の限りを尽くして互いを支援することを,相互に契約し,約束するものとする.

第五条〔ネーデルラントとイタリアにおける目標〕
同盟諸国は,前述の満足と安全保障を得るために,とりわけスペイン領ネーデルラントを回復すべく最大限努めるものとする.最近,フランス国王が武力によって奪取するまでそうであったように,連邦議会の安全保障のために,フランスをオランダから隔てる,防壁と呼びならわされている防柵とするためである.同様にしてミラノ公国およびその付属領は帝国の封土であり皇帝陛下のものである世襲諸国の安全保障への貢献として.加えて,ナポリとシチリアの両王国,そしてトスカナの地中海沿岸の土地や島のうちスペイン領に属し,同じ目的のためになり,また大ブリテンおよびオランダの臣民の航海と通商の利となるようなものの回復に努める.

第六条〔西インド諸島〕
大ブリテン国王陛下ならびに連邦議会の諸閣下が共通の助言に基づき,両国の航海と通商の利益や拡大のために軍事力によって西インド諸島におけるスペイン領に属する土地を奪取することは適法であり,そのようにして獲得した土地は彼らのものになるとする.

第七条〔戦争となった場合の相互連絡〕
同盟諸国が,皇帝陛下の前述した満足ならびに大ブリテン国王陛下と連邦議会の安全保障を獲得するために,必要に駆られて戦争に突入せざるを得ない場合には,共通の大義に関わるあらゆる物事と同様戦争遂行に関することについても,相互にその意図を誠実に伝えあうものとする.

第八条〔単独講和の禁止〕
締約国はいずれも,ひとたび戦争が開始されたならば,共同して,他の締約国の共通の助言に基づいてでない限り,敵と和平の交渉をすることは許されないものとする.そして,以下の条件が満たされない限りはいかなる講和も行なわないものとする.皇帝陛下に公平で合理的な満足が,そして大ブリテン国王陛下と連邦議会にその諸王国,諸属州,諸属領および航海と通商の個別の安全保障がまず得られること.さらにフランスとスペインの両王国が決して同一の政府のもとに統合されず,同一人物が両王国の国王になることがなく,そして特にフランスが決してスペイン領西インド諸島を領有せず,またその地に直接間接を問わず輸送のためにいかなる名目であろうと船を出すことは許されないというしかるべき保証を得る配慮をすること.そして最後に,大ブリテン国王および連邦議会の臣民に,スペイン,地中海,そしてヨーロッパと他の地を問わずこのたび薨去したスペイン国王がその薨去の時点において有していたあらゆる土地や地点における海上および地上の通商に関し,亡きスペイン国王の死以前に用い,享受していた,あるいは両者もしくは一方の臣民が条約,協定,慣習,その他なんらかのしかたで獲得したなんらかの権利によって用い,享受したことがあるのと同じ特権,権利,免責特権,免除を行使し,享受する完全なる自由が与えられることを条件とする.

第九条〔講和後の通商・防壁についての合意〕
前記の合意もしくは講和がなされるのと同時に,同盟諸国は,大ブリテン国王陛下および連邦議会の臣民が先に薨去したスペイン国王の遺領から新たに獲得する土地や属領において航海と通商を維持するために必要と考えられるすべてのこと,ならびにいかにして前述した防壁もしくは防柵によっていかにして連邦議会の安全を保障するかに関して相互に協定するものとする.

第十条〔宗教についての合意〕
そして同盟諸国が望むらくは武力によって獲得するであろう地点において宗教に関して議論が生じる可能性があるので,同盟諸国は相互の間で宗教の実践に関して前条で述べられたのと同時に協定するものとする.

第十一条〔相互支援〕
フランス国王もしくは他の何人かが同盟諸国のいずれか一国を本同盟を理由として侵略したような場合には,同盟諸国はいかなる攻撃国に対してであれ全力を尽くして互いを支援し,救援する義務を負う.

第十二条〔講和後の防衛条約〕
しかし,何度も言及されてきた満足と安全保障に関して今協定が成立したり,必要から戦争に突入したのち再び平和が回復されたりした場合には,そのような締結された協定もしくは講和以後は,締約各国の間で前記協定もしくは講和の維持のための防衛的な同盟が永遠に存続するものとする.

第十三条〔第三国の参加〕
全般的な平和に関心を寄せるあらゆる国王,諸侯,都市は本同盟の輪への加盟を認められるものとする.しかし,神聖ローマ帝国にとって公共の平穏が保たれ,帝国の封土の回復が何にも増して切迫した問題であるので,前記帝国は特別に本同盟の輪に加わるよう招聘されるものとする.さらに,同盟諸国が,共同して,あるいはいずれか一国が単独で,適当と思ういずれかの国に本同盟の加盟国となるよう望むことは適法である.

第十四条〔批准〕
本条約は六週間で,もしくは可能であればより早くにすべての同盟諸国によって批准されるものとする.

ハーグにて.一七〇一年九月七日.
(捺印場所)マールバラ



(C) 2004.10. 友清理士; 訳文の最終修正日2004.10.21
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