イギリス・ヘッセンの傭兵条約(1776)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

イギリス・ヘッセンの傭兵条約(1776)
1775年4月にアメリカ独立戦争が勃発.イギリスは反乱鎮圧のために送る軍勢をヨーロッパ諸国に求めた.しかし,ロシアやオランダとの交渉は不発に終わり,国王ジョージ三世はハノーヴァー(ジョージ三世はハノーヴァー選帝侯でもある)の兵をジブラルタル守備隊として送り,ジブラルタルにいたイギリス兵をアメリカに送った.さらにブラウンシュヴァイク公,ヘッセン・カッセル方伯と兵の提供条約を結んだ.ここに訳出するのはその後者である.
なお,背景やその内容については The Hessians に詳しい.


イギリス・ヘッセンの傭兵条約(1776)

英国国王陛下は現ヘッセン・カッセル方伯殿下の兵一万二〇〇〇の部隊を軍務に用いることを希望し,陛下にいたく愛情を抱く方伯もその愛情の証を示すことを何にも増して望んでいることから,陛下は同盟に関するこの件をとりまとめるため,カッセルに全権使節にして陛下に仕える大佐ウイリアム・フォーシット卿を遣わすことを適当と考えるに至った.殿下のほうでは同じ目的のため国務大臣にして中将,勲爵士団の騎士マルティン・エルンスト・フォン・シュリーフェン男爵を指名した.この両名は,必要な全権委任状を携え,以下のことに合意した.先に大ブリテンとヘッセンの間で締結された諸条約が本条約の基礎となる.現状況に適応できる限りにおいてそれを採用し,あるいは別の取り決めが必要な点については新たな条項によって決定するためには,すべてのことは,別の規定がされるべきではなく,前述の条約の文面において宣されているとおり完全な効力をもって存続する.さらに,すべての個々の場合を述べることはできないが,本条約でも先行する諸条約でも厳密な規定がない件についてはすべて公正と信義に基づいて先の戦争中,戦後を問わずそのようなすべての場合に対処する際に取られるものと双方の間で合意されたのと同じ原則に従って決着されるべきである.

第一条〔友好〕
英国国王陛下とヘッセン・カッセル方伯殿下,そしてその世継ぎと継承者との間の本条約の効力により,緊密な友好関係,誠実で確固として変わらぬ結びつきが存し,互いに相手の利益を自らのものと見なすこととし,信義をもってそれを最大限に追求し,あらゆる困難,損害を互いに防ぎ,避けるべく尽力するものとする.

第二条〔旧条約の確認〕
この目的のため,次のことが合意された.以前の主として保証のためのすべての条約は本条約によってそのすべての点,条項,節において更新され,確認されたものと見なされ,本条約によって取り消されているのでない限りここに一字一句挿入されているのと同じ効力を有するものとする.

第三条〔部隊提供の内容と日時〕
英国国王陛下のための軍務につくことになる一万二〇〇〇のヘッセン兵部隊はグレナディエ四個大隊(各四個中隊よりなる),歩兵十五個大隊(各五個中隊と追撃兵二個中隊よりなる)からなり,その全体には将およびその他の必要な士官が付けられるものとする.この軍団は完全に装備され,テントその他必要とされるあらゆる装具も給されているものとする.一言で言えば,可能な限り最善の状態である.そして軍務に適し,英国国王陛下の兵站将校によって認められた者のみが登録されるものとする.以前はまず条約の調印が行なわれ,その後少しして部隊への移動命令の期日となるのが通例であった.しかし,目下の状況においては時間を無駄にできないため,本条約調印の日をもって移動命令の期日と解されるものとする.グレナディエ三個大隊,歩兵六個大隊(追撃兵一個中隊を含む)は二月十四日に英国国王陛下の兵站将校の閲兵を受けられる状態になるものとする.そして翌二月十五日には出港地に向けて移動を開始する.残りも可能なら四週間のうちに準備を整え,同様に出発するものとする.この軍勢は戦争遂行上の必要でない限り分離されないものとし,方伯殿下から指揮権を託された将の命令下にとどまるものとする.また第二陣は作戦が齟齬をきたすのでない限り第一陣が実際にいる場所にのみ移送されるものとする.

第四条〔大砲〕
この部隊の各大隊は,もし陛下がそう望むならば二門の野砲を,士官,砲兵その他の人員,それに付随する補給部隊とともに付与されるものとする.

第五条〔募兵金〕
前記一万二〇〇〇の軍団を武装し,準備するために方伯殿下が負担する費用をまかなうため,大ブリテン国王陛下は殿下に対して歩兵一名につき三〇銀行クラウン〔紙幣〕の募兵金を歩兵隊ならびに追撃隊,砲兵隊(もし含まれれば)を支払うことを約束する.その総計はこれまでの同盟において算定されてきたのと同じようにこの軍団を構成する兵の数にしたがって確定される.十八万銀行クラウン(換算は次項に同じ)の額がこの募兵金のうちから二月十日に支払われ,残りはこの軍団の第二陣が移動を開始するときに支払われるものとする.

第六条〔期限〕
これまでの条約ではみな,ある存続年限が規定されているが,今回は英国国王陛下としてはこれらの軍勢を必要以上の長い期間にわたって契約しないことを望み,その代わりにこの条約の調印の日から失効の日までの間,資金援助を倍にすることに同意した.すなわち,この一万二〇〇〇の部隊に対しては年四五万銀行クラウンということである.クラウンはオランダの五三ソル,あるいはイングランド通貨の四シリング九ペンス三ファージングとして換算する.また,資金援助はこの部隊が英国の負担下にある間この基準で続くものとする.英国国王陛下はまた方伯殿下に対し契約終了についてそれが発効する十二か月,すなわちまる一年前に通知することを約束した.この通知〔契約終了?〕はこの部隊が帰還し,実際に前記方伯の属領,すなわちヘッセン(本来そう呼ばれる部分)に到着する前になされることはないものとする.国王陛下はまたこの軍団に対し,給金その他の報酬をそれがヘッセン国境を通過した月の最後まで継続するものとする.殿下のほうでは,四年が経過したら,その時点までに送還されていない場合,兵を召喚する自由を留保する.あるいはその期間満了後に英国国王陛下との間にもう一期合意してもよい.

第七条〔兵の待遇〕
前記軍勢についての給金や待遇については平常のものも臨時のものもあらゆる面において英国国民の兵と同じ基準に基づくものとする.国王陛下の陸軍事務局は,遅滞なく方伯殿下の同事務局にこれらの兵が受けている給金および待遇についての厳密かつ誠実な実状を届けるものとする.その給金と待遇は,方伯殿下がこの軍団をこれほど短期間のうちに出発できる状態に整えるには特別の費用なくして不可能であることを考慮し,第一陣については二月一日に開始し,第二陣については出発する七日前に開始するものとする.そして減額や控除なくヘッセンの軍資金庫に納められるものとする.今後定められるとりきめに従ってここから給金は分配される.この支払額のうち,二万英ポンドはただちに支払われる.

第八条〔損失の補填〕
もし不幸にして前記軍団の連隊あるいは中隊のいずれかが海難事故その他の事情により完全もしくは部分的に損なわれ,もしくは失われた場合,または大砲その他の供給された備品が敵に拿捕されたり海上で失われたりした場合,大ブリテン国王陛下は必要な新兵募集ならびに前記野砲や備品の費用を支払うようはからい,それにより大砲や前記連隊,中隊を回復できるようにするものとする.そして前記新兵は一七〇二年の条約第五条の効力によってヘッセン士官に与えられた兵と同様の基準で準備されるものとする.このようにして軍団は常に保存され,提供されたのと同じ良好な状態において送還される.毎年必要とされる新兵は訓練され,完全に装備された上で出港地にいるイングランドの兵站将校のもとに英国国王陛下の指定する期日に送られる.

第九条〔派兵地域〕
ヨーロッパでは国王陛下はこの部隊を陸上では適当と思うどこでも用いることができる.ただし,地球上の他の地域では北アメリカがこの部隊を用いてよい唯一の地域である.海上での軍務にはつかないものとする.すべての事項においていかなる制約もなくイングランドの兵が受けているのと同じ給金,報酬を受けるものとする.

第十条〔相互防衛義務〕
方伯殿下がその属領において攻撃され,あるいは侵害された場合,英国国王陛下は可能なあらゆる救援を与えることを約束し,締約する.その救援は方伯が完全な安全と正当な補償を獲得するまで継続される.大ブリテン国王陛下がその諸王国,属領,領地,属州,都市において攻撃され,あるいは侵害された場合には,方伯殿下は同様にして可能なあらゆる救援を用意する.その救援は同様に国王陛下が良好で有利な平和を獲得するまで継続されるものとする.

第十一条〔相互防衛義務発生の条件〕
この同盟ときずなをより完璧なものとし,締約国が本条約によって期待できる救援の確かさに疑いがないようにするため,次のことが明示的に合意された.今後,この同盟条約および規定された救援に該当する事態が存するか否かは,単に,締約国の一方が現実に武力によって攻撃され,しかもその国が攻撃側に対して最初に公然たる武力を行使したのではないことをもって十分とする.

第十二条〔傷病兵〕
ヘッセン軍団の傷病兵はその医師,外科医,その他その国の軍団を指揮する将軍の命令下にあるその目的のために任じられた者に預けられる.その者たちには国王陛下が自国の兵に認めていることはすべて認められる.

第十三条〔脱走対策〕
ヘッセンの脱走兵が英国国王陛下に属する土地で発見された場合,どこであろうとも誠実に引き渡されるものとする.とりわけ,可能な限り,その国の何人たりともその君主の同意なしにアメリカに定住してはならない.

第十四条〔輸送費用〕
兵員ならびに備品に関するあらゆる輸送船は英国国王陛下の負担とする.また,前記軍団に所属する何人たりとも,地点間の距離に鑑み,手紙の郵税を支払う必要はないものとする.

第十五条〔批准〕
この条約は両締約国によって批准され,その批准書は可能な限りすみやかに交換される.その証として,下名の我ら,一方には大ブリテン国王陛下,他方には現ヘッセン・カッセル方伯殿下の全権委任状を携えて,この条約に署名し,我らの紋章の印章をそこに捺さしめた.

カッセルにて.一七七六年一月十五日.

(捺印場所)ウイリアム・フォーシット(捺印場所)フォン・シュリーフェン

テキストはDocuments in German History Projectにある英訳(原文はフランス語だがまだアップされていない)を使用した.

(C) 2004 友清理士; 訳文の最終修正日2004.3.28
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