ルイ十四世のフランス国民への呼びかけ(1709)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

ルイ十四世のフランス国民への呼びかけ
1709年初頭,スペイン継承戦争を戦っていたフランスは,どんな条件でも講和をしなければならない窮状に追い込まれていた.毎年のようにマールバラ公率いる同盟軍に敗北を喫してきたのみならず,昨冬の未曽有の厳寒で国民生活は限界に達していた.しかし,春の和平交渉では,ルイ14世の大幅な譲歩の姿勢にも関わらず,同盟側の要求はそれ以上で,合意に達することはできなかった.それに際してルイ14世が国民に向けて発したのがこの呼びかけである.

各州総督へ

私の王国において早期和平への期待が広く抱かれていることに鑑み,私の治世を通じて人々が私に示してきた忠誠心に応えるには,私が人々のために確保しようと務めてきた安寧を人々が享受するのをいまだ妨げているものが何であるかについて説明するべきだと思う.
この安寧をもたらすため,〔同盟諸国との和平交渉において〕私は私の国境諸州の安全にいたく反するような条件にでも同意してきた.しかし,私が,敵が私の力や私の意図に関して抱いているとする不信感を払拭する用意があり,それを望んでいるということを示せば示すほど,敵は要求をつり上げてきた.このようにして元来の要求に新たなものを加え,あるいはサヴォイ公もしくは帝国諸侯の名に隠れて策動することにより,彼らが目的としているのがほかでもなく,我が王位の犠牲の上にフランスの周辺諸国を拡大し,彼らの利害から新たな戦争を始めるときにいつでも我が王国の心臓部にやすやすと侵入できうる経路を開くことにあることは疑いようもなくなった.
私が現在遂行中であり,そして終わらせたいと願っているこの戦争は,たとえ今なされている提案に私が同意したとしても終わるものではない.私のほうは条約を履行しなければならない二か月という期限が切られており,その間に私は敵に対してネーデルラントおよびアルザスのいくつかの要塞を譲り渡し,破壊が要求されている他の都市の防備を取り壊すことになっているのである.その一方,敵は戦闘行為を八月一日まで停止することのほかは一切引き受けることを拒んでいる.もし我が孫たるスペイン国王が神によって与えられた王冠を守り,九年間にわたり自分のことを正統な国王であると認めてきた忠実な民を捨てるよりはむしろ死を選ぶという決意に固執した場合に抗争を再開する権利を自分たちには留保したのである.このような停戦は戦争以上に危険なものである.それは和平の締結を加速するよりはむしろ遅らせるであろう.それというのも,我が軍勢の維持に同じ費用が必要なばかりでなく,休戦期間が切れたときに,敵は私自身が彼らを招き入れた要塞という新たな利点をもって私を攻撃でき,その一方,私のほうでは私の国境諸州のいくつかを守る要塞を取り壊してしまっていることになるのである.
我が孫たる国王が自発的に今後王国なしで生き,一個人の境遇となることに自発的に同意しない場合,同盟と力を合わせて孫に退位を強制するという,私に対してなされた提案については言うまでもない.彼らが私にそのような同盟を彼らと結ぶよう求めることに隠れた意図がないと信ずることは不可能である.私の我が民に対する愛情は,私自身の子供たちに対する愛情に劣らず真実のものである.私は,忠実な家臣たちに戦争が与えた不幸も共にするものであり,全ヨーロッパに対して私の民に平和の福音を味わってもらいたいという私の誠実な願いを示してきた.ではあるが,私は民自身もそのような,正義に反し,フランスの名の名誉にももとる条件を受け入れることに反対であると確信するものである.


テキストは Charles Petrie, The Marshal Duke of Berwick にある英語版によった.John B. Wolf, Louis XIV にも一部省略があるが別の英語版がある.このあとにこれらの事実をできるだけ広く知らしめるよう求める指示が続いて締めくくられているという.
(C) 2007.9. 友清理士; 訳文の最終修正日2007.9.24
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