ネイメーヘン条約(ナイメーヘン条約)
(オランダ戦争の講和条約, 1678)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

ネイメーヘン条約(ナイメーヘン条約,ネイメーヘンの和,ナイメーヘンの和,ネイメーヘンの和約,ナイメーヘンの和約):Treaty of Nimeguen, Treaty of Nimegue, Treaty of Nimwegen, Treaty of Nijmegen; Treaties of Nimegen, Treaties of Nimegue, Treaties of Nimwegen, Treaties of Nijmgen
1672年のルイ十四世のオランダ侵攻に始まるオランダ戦争の講和条約(1678).フランスとオランダ,スペイン,帝国のそれぞれの二国間条約である.ブランデンブルク選帝侯は翌1679年6月のサンジェルマン条約でフランスと講和するが,これらも含めてネイメーヘン条約と総称することもある.

目次
フランス・オランダ間の平和条約
フランス・オランダ間の通商条約
フランス・スペイン間の平和条約
フランス・神聖ローマ皇帝間の平和条約

ネイメーヘン条約(フランス・オランダ間の平和条約) 1678年8月10日

(摘要)
第一条〔友好関係〕
フランス・オランダ間に平和が樹立される.

第二条〔拿捕品の返却〕
講和の公表後に奪取されたものは,バルト海,北海の場合は四週間,英仏海峡からセントヴィンセント岬までは六週間,地中海および赤道までは十週間,それ以遠は八か月を経過したのちになされたものはすべて返還されるものとする.

第三条〔友好と免責〕
フランス,オランダ国民間には友好が確立され,戦時中の損害についての遺恨はないものとする.

第四条〔相互協力〕
互いの利になることに努めるものとし,他方の不利になるような条約を結ばない.

第五条〔没収財産の返還〕
戦争のために没収された財産は返還される.

第六条〔個人への補償〕
オーヴェルニュ伯は,フランス軍に仕えたためにオランダ政府によって没収されたベルヘン・オプ・ゾーム侯爵領を返還される.

第七条〔現状確認〕
フランス,オランダ両陣営とも,ヨーロッパの内外を問わず,現在有している地点の領有を続ける.

第八条〔マーストリヒトの返還〕
ただし,フランスはマーストリヒトをその付属領とともに返還する.

第九条〔マーストリヒトの宗教〕
オランダは,一六三二年の降伏文書に従い,マーストリヒトでのカトリックを維持する.

第十条〔マーストリヒトの明け渡し〕
フランスはマーストリヒト退去にあたり,大砲,弾薬,物資を持ち去ることができるが,住民に害をなしたり,要求をしたりしてはならない.

第十一条〔捕虜の解放〕
捕虜は身代金なしで解放される.

第十二条〔マーストリヒトからの徴発〕
マーストリヒト総督による徴発は,この条約の批准まで行なわれるものとする.

第十三条
オランダはフランスの敵を助けることをせず,スペインがフランスと結ぶ条約を保証する.

第十四条〔事故による和平崩壊の防止〕
不注意等により条約が守られないことがあったとしても,友好を損なうことなく改善がなされるものとする.

第十五条〔戦争再発時の国民への猶予〕
フランス,オランダ間で戦争が再発した場合,両国民は相手国領から退去するのに六か月の猶予が認められる

第十六条〔オレンジ公〕
オレンジ公については,別に作成される文書が一語一語この条約に挿入されているかのごとくに有効とする.

第十七条〔イングランド王の参加〕
イングランド王もこの条約に含まれる.

第十八・十九条〔他の参加国〕

第二十条〔保証国〕
イングランド国王などがこの条約の保証者となる.

第二十一条〔批准書の交換〕
批准書は六週間以内に交換される.

別記条項〔オレンジ公領〕
オレンジ公領は,フランス国内やフランスの支配下にあるオレンジ公に属する他の領地とともに,この条約の批准後ただちにオレンジ公に返還されるものとする.

ネイメーヘン条約(フランス・オランダ間の通商条約) 1678年8月10日

(摘要)

第一条
両国国民は戦争前と同じ自由を有する.

第二条〔交戦の中止と拿捕免許状の発行停止〕
いっさいの交戦は中止され,いずれの側も敵国船拿捕免許状を発行しない.

第三条〔拿捕品の返却〕
(平和条約の第二条と同じ)

第四条〔拿捕免許状の無効化〕
敵国船拿捕免許状はすべて無効とする.

第五条〔個人の身体・財産の自由〕
両国国民は,国の負債のために,身柄を拘束されたり財産を差し押さえられたりはしない.

第六条〔通商と航海の自由〕
両国国民は通商および航海の自由を享受する.

第七条〔税の扱い上の対等〕
相手国に滞在している一方の国民は,相手国の国民が支払うもの以外の税を払う必要はないものとする.

第八条〔軍艦の寄港の自由〕
軍艦は相手国の港に自由に寄港できる.

第九条〔戦利品〕
軍艦は敵国から奪った戦利品を適当と考える場所で処分することができるが,それぞれ相手国から戦利品を奪った船をかくまうことはしないものとする.

第十条〔遺産没収の禁止〕
互いの国民にはオーバン法(外国人死者の財産が国に没収される)が適用されないものとする.

第十一条
港に避難してきた船は荷下ろしや税の支払いを強いられたりしない.

第十二条
船,人,品物のいずれもいかなる口実によっても没収されない.

第十三〜二十九条
1668年に三国同盟(イングランド・オランダ・スウェーデン)とともに締結されたイングランド・オランダ間の通商条約の第一条から第十七条までと同じ.

第三十条
両国とも,互いの国で軍艦,商船を建造させることができ,弾薬の購入もできる.しかし,相手国の敵国に対して,その敵国が攻撃側であった場合にはそのような許可を与えないものとする.

第三十一条
嵐などによって沿岸に避難した船は保護される.

第三十二条
海賊や亡命者を受け入れず,追求,処罰,追放する.

第三十三条
両国民は適当と思う者を弁護士,公証人などに用いることができ,帳簿の言語も自由とする.

第三十四条
両国は相手国に領事を駐在させる.

第三十五条
両国とも,自国の港内での拿捕行為を許さない.

第三十六条
不注意によってこの条約が守られなかった場合,決裂するのではなく,修復が行なわれるべきである.

第三十七条
もしフランス,オランダが不和になったとしたら,相手国に滞在している国民は退去し,所持品を引き上げるのに九か月の猶予が与えられる.

第三十八条
条約の有効期間は調印から二十五年間とし,批准書は六週間のうちに交換されるものとする.

別記条項
第七条による税の対等の規定にもかかわらず,フランス国内において外国人に課されているトンあたり五十ソルの課税はオランダ船に対しても有効とする.ただし,塩を積んだ船についてはこの半額とする.オランダも同様の外国船に対する課税を行なうことができる.

ネイメーヘン条約(フランス・スペイン間の平和条約) 1678年9月17日

(摘要)

第一条〔友好関係〕
フランス・スペイン間に平和が樹立される.

第二条〔交戦停止の継続〕
八月十九日に調印された交戦の停止は継続される.

第三条〔免責〕
戦時中の行為については忘れられるものとする.

第四条〔返還領土〕
フランスはスペインにシャルルロワの要塞,バンシュ,アト,アウデナールデ,コルトレイクの町を,それらの付属領とともに返還する.ただし,メーネン周辺とコンデの町は除く.

第五条〔返却領土〕
フランスは,リンブルフの町および公領,マース川以遠の土地,ヘントの町および城塞,ローデンヘルス砦,ワース地方,ブラバントのレーヴェ,サンギスランの町(その防備は取り壊されるものとする),そしてカタロニア地方のプイグセルダの町を返還することを約束する.

第六条〔返却領土の権利〕
上述の地点シャルルロワ,バンシュ,アト,アウデナールデ,コルトレイクはすべての権利等々とともにスペイン国王のもとにとどまる.

第七条〔相互返還〕
和平が宣言されるまでに奪取された地点はすべて相互に変換されるものとする.

第八条〔返還への着手〕
上述した地点の返還は遅滞なく,現状のまま行なわれる.

第九条〔法的措置の確認〕
上述した地点においてフランス国王のもとでなされた判決その他の法的行為は有効とする.

第十条〔ニューポールト〕
ニューポールトの東西の水門および西側の水門の端にあるフィールバウト砦は,ニューポールトの防備に属する他の部分とともに,スペインのものにとどまる.

第十一条〔フランシュコンテとネーデルラントの征服地の確定〕
フランス国王はブルグント伯領(一般にフランシュコンテと呼ばれる)を都市ブザンソンを含む付属領とともに保有し続ける.ネーデルラント地方のヴァランシエンヌ,ブシャン,コンデ,カンブレー,カンブレジ,エール,サントメール,イープル,ワルウィック,ワルネトン,ポペリンヘン,バユール,カッセル,バヴェイ,モーブージュも同様とする.

第十二条〔征服地の権利〕
前記したブルグント伯領その他の地点は,今後永遠にフランス国王のものとする.

第十三条〔ディナン〕
ディナンは皇帝との和平が締結されてから一年以内にリエージュからフランスに引き渡されるよう,スペイン国王は,リエージュを説得し,皇帝と帝国の同意を得るよう尽力する.説得できない場合にはシャルルモンをフランスに割譲する.

第十四条〔飛び地の交換〕
国境線を越えて相手領に含まれている飛び地がエクス・ラ・シャペル条約〔1668〕の遂行に困難を生じたことに鑑み,そのような問題が生じるのを防ぐため,サンブル川以遠のフランスに割譲される領土,あるいは本条約以前からフランス領だった土地に包摂されるスペイン領は,スペイン国王にとってより都合のいい場所にある土地と交換される.

第十五条
前記交換のための委員が任命される.

第十六条
交換に関する問題点の調整が不成立に終わった場合,物品に対して新たな課税を行なうことはできない.ただし,それらが別の属領やさらに遠方に移動される場合は別である.

第十七条
返還される地点からは大砲・弾薬を持ち去ることができる.

第十八条
双方で行なわれている徴発は十月十六日まで継続され,その時点での未払い分は三か月以内に支払われる.

第十九条
フランス国王は,スペイン国王に返還する地点に関し,返還の日までのすべての税を受け取るものとする.

第二十条
返還される地点に関係するあらゆる文書は同時に引き渡されるものとする.

第二十一条
両国民は,戦争前に有しており,戦争のために差し押さえられたあらゆる財産,爵位などを回復される.ただし,戦争中にそれから得られるはずであった利益については権利を主張しないものとする.

第二十二条
和平の宣言前に没収された債権,所有物,動産についても主張できない.

第二十三条
二十一条,二十二条の返却は,多くの下賜,没収などをみな無効として行なわれる.

第二十四条
法的に聖職禄を与えられた者は一代に限りそれを享受するものとする.ただし,それは聖職授与権者の権利を害するものではないものとする.

第二十五条
双方の国王によってその聖職禄に指名された高位聖職者は,戦争前に必要とされていたとおりの資格を有する者である限りそれを享受するものとする.

第二十六条〔ピレネー条約(1659)とエクス・ラ・シャペル条約(1668)〕
ピレネー条約はポルトガルに関する部分を除き,本条約によって無効になるものではない.エクス・ラ・シャペル条約についてもここで明記されているほかは無効とはされない.

第二十七条
スペイン国王はフランスやその同盟国に対する自分の同盟国を援助しないと約束する.

第二十八条
イングランド国王は調停者としてこの条約に含まれる.

第二十九条〔他の参加国〕
フランスの同盟者としてスウェーデン,ホルスタイン公爵,ストラスブール司教〔次のフュルステンベルクの兄弟〕,ヴィルヘルム・フォン・フュルステンベルクに加え,この戦争に加わっておらず,批准書の交換後六か月以内に指名される者がもし望めばこの平和条約に含まれる.

第三十条〔他の参加国〕
スペインの側からも同様に,この戦争に加わらなかった者で批准後六か月以内に指名される者がもし望めば含まれる.

第三十一条
そう望む君主はこの条約の保証者となることができる.

第三十二条
この条約はフランスの高等法院,パリの記録室に,そしてまたスペイン国王の大評議会その他の評議会および記録室に登録される.

ネイメーヘン条約(フランス・皇帝間の平和条約) 1679年2月3日
(摘要)

第一条〔友好関係〕
皇帝・フランス国王の間に平和が樹立される.

第二条〔ウエストファリア条約〕
ミュンスター条約がこの条約の基礎となる.

第三条〔相互の征服地〕
皇帝によるフィリップスブルク奪取,フランスによるフライブルク奪取は確認される.

第四条〔フィリップスブルク〕
フランス国王はその地へのあらゆる主張を放棄する.

第五条〔フライブルク〕
皇帝はフライブルクを永久にフランスに譲渡する.

第六条
フランス国王はいつでもブライザハからフライブルクへ行くのに帝国領土を自由に通過することができる.

第七条
フライブルクへの補給物資には新たな税も古くからの税も対象とならない.その他の商品については皇帝の臣民が支払う以上の税は課されない.

第八条
フライブルクの負債を確定するための委員が任命される.

第九条
フライブルクが奪取されたときに持ち去られた文書は返還される.

第十条
一年間は誰でも財産を持ってフライブルクを去り,あるいは動産,不動産を売却する自由をもつ.

第十一条
両国国王が対価物について合意すればフライブルクを返還してもよい.

第十二条
ロレーヌ公はその叔父〔先代ロレーヌ公〕が一六七〇年において有していた領土に復される.

第十三条
ナンシーおよびその周辺領域は永久にフランス王室の領土の一部に組み入れられる.ロレーヌ公はそれへのいっさいの権利を放棄する.

第十四条
ナンシーとフランス本土の交通の便のため,サンディディエからナンシーへ,ナンシーからアルサティアへ,ナンシーからフランシュコンテのブザンソンへ,ナンシーからメッツへ幅半リーグの4つの街道が双方の委員によって印される.

第十五条
前記の街道上に位置するあらゆる村,家屋,土地等々およびその付属物はフランス国王に属し,その範囲外のものはロレーヌ公のものにとどまる.

第十六条
ロングウィの市街と教務院長領はその付属領とともに永遠にフランス国王のものにとどまるものとする.

第十七条
ナンシーに対する考慮から,フランス国王はロレーヌ公にトゥールおよびその近郊を譲渡する.

第十八条
トゥールがナンシーより価値が低いことが判明した場合には,ロレーヌ公に対してなんらかの補償がなされる.

第十九条
トゥール司教を推薦する権利はロレーヌ公に属する.

第二十条
フランス王により聖職禄を得ている者をロレーヌ公は乱さないものとする.

第二十一条
フランス王のもとでのあらゆる法的な措置は有効とする.

第二十二条
ナンシーおよびバールにあった証書や文書はロレーヌ公に返還されるものとする.

第二十三条
ストラスブール司教やその兄弟と甥はあらゆる権利,名誉,歳入等を回復される.

第二十四条
両国のすべての臣民は戦争前に享受していた,あるいは戦争中に獲得した名誉,爵位,所領等を回復される.しかし,戦争中の利益については何らの要求も行なわれないものとする.

第二十五条
皇帝とスウェーデンの間の協定は,この条約に挿入されているかのごとく有効とする.

第二十六条〔まだ講和していないブランデンブルク,スウェーデンなどについて〕
皇帝とフランス国王は,フランス国王とスウェーデン国王を一方とし,デンマーク国王とブランデンブルク選帝侯,ミュンスター司教,リューネブルク両公〔ツェレ公とハノーヴァー公〕を他方とする平和と,そしてそのためにまず休戦を成立させるために最大限に努めるものとする.もしその調停が奏効しなかった場合には,皇帝と帝国は前記のフランス,スウェーデンの敵に対していかなる援助も,冬営地も与えないものとし,フランス国王はシャトレ,ユイ,ヴェルヴィエ,エクス・ラ・シャペル,デューレン,リニック,ニュイ,ゾンの各地に守備兵をおくことが当面認められるものとし,それらは戦争終結後に返還されるものとする.

第二十七条
前条で述べられた地点を除き,返還されるべき地点は講和条約の批准後一か月以内に善意をもって返還されるものとする.

第二十八条
リエージュ司教とブイヨン公爵の間のブイヨンの城および公爵領についての意見の相違は友好的に調停されるものとする.

第二十九条
あらゆる敵対行為はこの平和条約調印後ただちに中止されるものとする.十四日以内にそれに反するなんらかのことがなされた場合には,それは修復されるものとする.

第三十条
批准まで徴発の支払いは続けられるものとする.批准時までの未払い分は四か月以内に支払われ,回収のために力を行使されることがないよう,そのための担保が与えられるものとする.

第三十一条
ミュンスター条約におけるモンフェラートに関する規定はすべて完全に有効である.

第三十二条
イングランド国王は仲介者としてこの条約に含まれる.

第三十三条
双方によって六か月以内に指名される者も含まれる.

第三十四条
あらゆる君主,国家はこの条約の履行についての保証者となってよい.

第三十五条
批准書は調印後八週間以内に交換されるものとする.

第三十六条
帝国の機関がこの条約の調印に抗議ないし否認したとしても,それは受理されず,有効なものとみなされないものとする.
主としてA Collection of Treaties between Great Britain and Other Powersにより,一部フランス語原文を参照して補足した.

(C) 2003.10. 友清理士; 訳文の最終修正日2003.10.5
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