オレンジ公ウイリアムの軍勢がイングランドに上陸すると,ジェームズ二世はこれを迎え撃つべくソールズベリーに軍勢を集結させた.しかし,将軍チャーチル(のちのマールバラ公)は国王軍を去ってオレンジ公の陣営に身を投じる.翌晩にはジェームズの実の娘アンの夫デンマーク公も去った.そしてジェームズ二世がロンドンに戻ってみると,アン王女までもが去っていた.こうしてイギリスの名誉革命は本格的な戦闘なくなしとげられることになる. ここに訳出するのはチャーチル,デンマーク公が国王宛てに,アンが王妃宛てに残した置き手紙である. |
己の利に反する行ないをした者の誠意というものはなかなか信じてもらえないものです.最悪の時期における私の陛下への忠義(私のわずかばかりの奉仕はすでに過分に報われていると思っております)だけでは,私の行動を慈悲深く解釈していただくには不十分かもしれません.それでも,陛下のもとで賜わった多大なる恩顧は政体がいかに変わろうと二度と期待できないもので,それを考えると陛下も世間も,理に照らしてご納得いただけるのではないかと期待しております.陛下のまつりごとがあらゆる臣民にとって,とりわけ考えうる最大の恩義を個人的に負っている者にとって脅威となったときに,私が己の性向,義務,利益に反する挙に出ることにしたのは,高い理念に従っての行動にほかならないということを. |
新教の敵による不断の企みがフランスの残忍な熱意と圧倒的な武力の後押しを受け,キリスト教世界のすべてのプロテスタントの主権者が正当にも警戒し,団結し,その護持のため多大な犠牲を払う覚悟を決めた今,私だけが卑小にして卑劣な役割を演じるわけにいきましょうか.陛下ならびにヨーロッパのプロテスタントの宗教の安寧がよって立つべき諸法の実施と政府の確立によって陛下の迷いを解くという,かほどに有徳な努力への同調を拒むことができましょうか. |
王后陛下 |