オレンジ公の宣言(1688)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

オレンジ公の第三の宣言:Third Declaration of the Prince of Orange
1688年12月初旬,イングランドに上陸したオレンジ公の軍勢は確実にロンドンに迫りつつあった.国王ジェームズ2世の軍はすでに崩壊しており,ジェームズはなんとかオレンジ公と妥協しようとしたが,そんなころにロンドンに出回ったのが本宣言である.しかし,これは実はオレンジ公は全く関知していない偽物だった.
出典の Parliamentary History は次の証言を注として掲載している.
「これは一私人によってなされたかつてない大胆な試みだった.ファーガソンまたはジョンソンの手になるものと思われていたが,近年,ヒュー・スピーク氏が自分の功績だと名乗り出た.今となってはすっかり信じるにも,完全に否定するにもすべがない.しかし,オレンジ公が自分のものではないときっぱり否定したこの宣言の著者が誰であったにせよ,この宣言は微妙な局面にあって殿下に少なからぬ役に立った.ローマカトリック教徒は警戒して恐れを抱き,治安判事のうちにはこの宣言を公布させる者もあった.同様に,ある中隊長は大胆にも宣言を一部ロンドン市長に届け,証人を前にして,宣言を文字通りに遂行するよう求めた.そして下級の司法官憲たちも殿下の命令にすんなり従えるよう,市長の援助を希望していた.」エチャード〔←History of England (1720)の著者〕.

オレンジ公の第三の宣言(偽物)

余はこれまでの生涯を通じて,そしてとりわけこの最近我が身をさらした海上および陸上での明らかなる危難を通じて,世界に対し,プロテスタントの宗教への余の熱烈なる意気込みの崇高にして疑うべくもない証拠を示してきた.それゆえ,真のイングランド人,よきプロテスタントであれば,この祝福され,栄光ある企図を実行しないよりは,むしろそれを試みて余の尊い血を流し,滅せんとする余の堅い決意にいささかの疑いも差しはさむことはないと完全に信じている.これまでのところ順調にはこんできたこの計画は,イングランド,スコットランド,アイルランドを教皇主義と隷属から救い,自由な議会においてこれらの王国の宗教,法,自由を永続的な基礎の上に確立し,今後いかなる君主の権限によっても教皇主義と専制を導入することができないようにするためのものである.
この大いなる企図の遂行を助けるのに向け,余の正当なる期待はこれまで裏切られることなく,宗教を安泰にし,自由と財産を確保するために貴族,ジェントリー,そしてイングランドの民の同意が得られた.あらゆる階級,位階から多数の者が余に合流した.余から遠方にある他の者は武器を取って余の味方と宣言した.そしてとりわけ触れておかなければならないことは,隷属と教皇主義の尖兵として編成された軍において,神の格別なる叡慮により,士官も一般兵士もその多数が,宗教および名誉の,そして自分たちの祖国への真の愛情の切なる感覚に駆られ,加わっていた不法な軍務をすでに放棄して余のもとにはせ参じている.そして彼らは,軍にとどまっている者たちからの完全なる保証も余に伝えた.余が妨害されたり裏をかかれたりすることなく受け入れられるほど十分近づいたら,残りの者たちも必ずや彼らの例に続くであろう.
この目的のため,そして公共の安全とこれらの国民の救済のために余が着手したこの正当にして必要な企図をよりすみやかに遂行するため,余はできうる限りの迅速さで次の目的に向け前進する決意をしている.ただちに自由な議会が召集されること,国王との間で予備的な合意が調整されること,すべての者に完全なる満足と安全を与え,国王も民もともに以前の幸福なる状態に復せしめるのに必要な譲歩をする心づもりを国王がもっていることを,余ならびに全国民が安心して信ずることができるよう,法に従って万事が決着されること.そして余が,余の希望に最も合致する方法,すなわち宗教を裏切り,祖国の法を転覆せしめたことによって当然死に値する忌むべき犯罪人を除いては可能な限り血を流すことなくこのすべてを実現できるよう,宣言しておくことが適当と考える.余は,余自身の必要な防衛以外では暴力に訴えることはないであろう.よって,余は個人に対する傷害は,たとえそれがカトリック教徒であっても,その人物が法が規定する場所,条件,環境にいる限りは認めない.また余は決意し,ここに宣言する.公然と武装した,あるいは家もしくは身辺に武器を持つカトリック教徒,また文官・武官を問わずいかなる口実であろうと既定の国法に反して官職についているカトリック教徒はすべて,余ならびに余の軍勢によって,兵士や紳士としてではなく,強盗,略奪者,盗賊として扱われるものとする.投降は認められず,完全に余の兵士たちの判断に任されるものとする.さらに宣言する.これらのカトリック教徒を助け,援助しているのがみつかった者,あるいはその指揮下で行軍する者,あるいはその不法な辞令もしくは権威の履行もしくは遂行において彼らに加わったり従ったりした者は,みなその犯罪への加担者であり,法や国の敵であるとみなされるものとする.
そして余は,多大な数のカトリック教徒が最近ロンドン,ウエストミンスター,およびその近隣地域に赴いているとの確かな情報を伝えられたが,彼らがそこにとどまっているのは,自分たちの安全のためというよりは,死にものぐるいの試みとしてそれらの都市や住民に対して放火,急襲による虐殺,あるいはその両方を行なわんとする邪悪で野蛮な企みからであると信ずる理由がある.あるいは可能であればイングランドに上陸すべく企まれているフランス兵の一隊に加わるべく準備を整えんとするものである.そのようなフランス軍はイエズス会士の利害や権勢によってフランス国王から獲得されたものであり,その有害な協会の教唆によってフランス国王陛下が,宗教を同じくする隣接する諸君主の一と,ヨーロッパからプロテスタントの宗教を根絶すべく締結した盟約に添うものである.余は一方の宗教を防止し,他方を安泰とすべく適切な手配は行なったと希望するものであるが,神の助力により,あらゆる邪悪な企図や企みはうち破ることができるであろうことを疑うものではない.
しかしながら,イングランドの民,そしてとりわけ前記の人口の多い大都市をカトリック教徒の残虐な猛威と流血の復讐から保護したいとの大いなる心遣いから,イングランドのすべての州,都市,町,とりわけミドルセックス州,ロンドンおよびウエストミンスター市とその隣接地域のすべての統監,副統監,治安判事,大都市市長,市長,州長官,その他すべての行政官および文官・武官を問わず任官者に,以下のことを要求し,期待しないわけにはいかない.おのおのの州,都市,司法管区において,法律の権限と義務に従い,すべてのカトリック教徒を武装解除し,いつの時点でも,とりわけ現在において統治の平和と安全に対して危険この上ない人物としてその身柄を確保すべし.それにより奸計をなすあらゆる力を奪うばかりでなく,最大にして最良の安全保障である法がその効力を取り戻し,厳密に執行されるようにするのである.そして同様に,ここに宣言する.これらの法に従って義務を果たすことを恐れないすべての者を余は保護し,防衛することであろう.そして行政官その他についてはいかなる条件であろうと,余を援助し,余が求めたことを法に従って厳密に執行することを拒み,この局面にあって言いくるめられたり恐れをなしたりして義務にもとる者は,余はあらゆる人間のうちで最も罪重くかつ恥ずべき者,自分たちの宗教,法,祖国に対する裏切り者であるとみなすことであろう.彼らの背信と怯懦によって殺害されるプロテスタントの一人一人,焼かれ,あるいは破壊される家屋の一軒一軒について,彼らがそれを期待し,その手で求めるべく決意していたものとみなすことであろう.
一六八八年十一月二十八日,シャーボーン城の司令部にて,余の自署と印章のもとに発布.


テキストは Parliamentary History of England によった.
(C) 2004.6. 友清理士; 訳文の最終修正日2004.6.27
革命の世紀のイギリス〜イギリス革命からスペイン継承戦争へ〜    歴史文書邦訳プロジェクト   

inserted by FC2 system