対ポルトガル同盟条約(1703)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

対ポルトガル同盟条約
オーストリア,イングランド,オランダとポルトガルとの同盟条約(1703年5月16日にリスボンで調印).フランスと大同盟諸国とが戦っていたスペイン継承戦争においてポルトガルをフランス陣営から同盟陣営に引き入れた条約.功労者メシュエンの名をとってメシュエン条約とも呼ばれる.スペイン領全体をオーストリアのカール大公のために確保することを定めるなど,同盟陣営の戦争の目的を大きく変質させることになった.
なお,攻守同盟と恒久的な防衛同盟が締結されている.

オーストリア,イングランド,オランダとポルトガルとの同盟条約(1703年5月16日にリスボンで調印)

第1条
上記三か国の連合国は,神聖なるポルトガル国王陛下とともに,一致して皇帝陛下の次男である最もやんごとなき大公カールが,カトリック王カルロス二世によって保有されていたごとくに全スペインを保有する地位につけられるよう努めるものとする.ただし,神聖なるポルトガル国王陛下は攻勢的な戦争はスペイン自身以外で遂行する義務は負わない.

(中略)[兵力の提供義務について]

第17条
二大海運強国〔イングランドとオランダ〕は,ポルトガルの沿岸および港湾ならびに貿易および商船団を敵対行為から守るため,同国沿岸および港湾に十分な数の軍艦を有し,維持する義務を負い,前記港湾および船団が優勢な兵力によって攻撃されそうであるとの通知を受けたら前記連合国はそれが起こる前に,前記港湾または船団を攻撃する計画をなす敵の艦船および兵力に匹敵するかそれより優勢な数の軍艦をポルトガルに送る義務を負う.前記連合国の艦船がポルトガルの沿岸および港湾から去ったときに突発事項が生じることがありうるので,前記連合国はそれらの海域または港湾に,神聖なるポルトガル国王陛下が必要と判断するだけの数の艦船を残す義務を負う.

第18条
しかし,列強のいずれかがポルトガルの海外の属領および領土に対して戦争を仕掛ける場合,あるいは神聖なるポルトガル国王陛下が敵がそのような計画を有していると通知された場合,連合国は,敵の艦船を退けるのみならず,そのような戦争ないし襲撃を妨げるのに,優勢な兵力でないまでも匹敵する数の軍艦を神聖なるポルトガル国王陛下に,状況から必要になる都度,提供するものとする.しかし,前記海外の属州および領土において敵が何らかの町を占拠するか何らかの地点を確保して防備を固めている場合には,,そうした援助はそのようにして占拠された町または地点が完全に回復されるまで継続されるものとする.

第19条
すべての補助艦船は神聖なるポルトガル国王陛下の指揮に服するものとし,ポルトガルの海外の属州および領土に行くときには,神聖なる国王陛下の副王および総督が国王陛下の名において申しつけることを行うものとする.

第20条
しかし,前記二大国のこれら補助艦船に何らかの事情でポルトガルの艦船が合流する場合には,ポルトガルの戦隊または艦船の将官旗を掲げる権利を有する指揮官が信号を出し,軍議を召集するものとし,軍議はポルトガル提督の船室で行われるものとする.そして軍議の検討内容を実行に移すためにはポルトガルの提督から命令が発されるものとし,それを前記補助艦船のすべての艦長は自艦で実行するものとする.

第21条
全同盟国の相互の合意による以外は和平も休戦も結ばれることはないものとする.また,最もキリスト教的なる陛下〔フランス国王〕の王太子による二番目の孫〔アンジュー公フィリップ=フェリペ5世〕またはフランス出のいかなる公子がスペインに居続ける間は和平も休戦も締結されないものとする.そしてポルトガル王室は,現在スペインの内外に有しているすべての土地,王国,島,州,領土,城,都市,村およびその領土および付属領の完全なる保有および支配権を有するものとする.

第22条
また,最もキリスト教的なる陛下〔フランス国王〕がNorth Capeに属する国土およびアマゾン川とVincent Piso川の間に位置するマラニョンの州の追加的領土に対して有していると僭称するあらゆる権利を放棄しない限り,神聖なるポルトガル国王陛下と前記最もキリスト教的なる国王との間に前記国土の保有について結ばれた,仮のものであれ決定的なものであれいかなる条約にも関わらず,前記陛下との和平は結ばれないものとする.

第23条
(略)[スペイン王となったカール大公からのポルトガルへの支払いについて]

第24条
最もやんごとなき大公カールは,本条約で規定され,合意されたとおりに連合諸国が送るべきすべての補助兵力とともにポルトガルに来て,その地に上陸するものとする.神聖なるポルトガル国王陛下は最もやんごとなき大公およびすべての援軍の人員および艦船がポルトガルに到着するまで開戦する義務を負わないものとする.

第25条
さらに,最もやんごとなき大公がポルトガルに到着するや否や,神聖なるポルトガル国王陛下は大公を,国王カルロス二世が有していたごとくに,スペイン国王として承認し,遇する.ただし,それにもかかわらず,大公は,自らがスペイン国王である権利が合法的に自らに譲られ,移転された旨のしかるべき法的形態の事前の通知を神聖なるポルトガル国王陛下に与えるものとする.

第26条〜第29条
(略)

秘密条項
第1条
[カール大公がスペイン王位を確保したら,ポルトガル王に,エストレマドゥーラの都市バダホス,アルブケルケ,バレンシア,アルカンタラと,ガリシア王国のGuarda〔沿岸部のLa Guardiaのことか?〕,トゥイ,Bayonne〔沿岸部のBayonaのことか?〕,ビゴとを与える.]
第2条
[カール大公は同様にして,ポルトガル王に,ラプラタ川の北側の国土を与える.]



ポルトガルとの防衛条約(概要)

第1条
[これまでどおりの友好を続ける.]

第2条
スペインおよびフランスの国王が,現在または将来,一緒にまたはどちらかが別個に,ポルトガルの王国にヨーロッパ大陸において,あるいはその海外の属領において戦争を仕掛けるか,戦争を仕掛ける意図であると疑うに足る機会を与えるようなことがあった場合,グレートブリテン女王陛下および連邦議会の諸閣下は前記両王またはその一方との友誼を用いてポルトガルに対する平和の関係を遵守し,戦争を起こさないよう説得する.

第3条
しかし,友誼が成功せず,全く効果がなく,前記両王またはその一方がポルトガルに対して戦争を起こすとわかった場合,上述の列強たるグレートブリテンおよびオランダは,敵対的な軍勢をポルトガルに入れた前記の両王または王に全力をもって戦争を起こし,ヨーロッパで遂行される戦争に対しては一万二千の兵を供給して陣営にある時も行動中もその武装と給金を負担し,前記高き同盟諸国は自己の費用で時折新兵募集を行うことによってその数の兵を完備にしておく義務を負う.

第4条
[英蘭両国がポルトガルの沿岸を守る義務]

第5条
[ポルトガルが海外植民地で侵略を受けた場合]

第6条
[艦船はポルトガル国王の指揮下に]

第7条
[英蘭艦隊にポルトガル艦が加わった場合の指揮権]

第8条
[共通の利害の作戦の指揮権]

第9条
[英蘭が提供する兵の指揮権]

第10条
[ポルトガルの軍需物資の輸出]

第11条
スペインおよびフランスの国王がまたはどちらか一方が,グレートブリテン王国または連合諸州に戦争を仕掛けるようなことがあった場合,ポルトガル国王は前記両王またはその一方との友誼を用いて前記グレートブリテン王国および連合諸州に対する平和の関係を遵守するよう説得する.

第12条 〔★第3条と比較〕
しかし,友誼が成功せず,全く効果がなく,前記両王またはその一方がグレートブリテン王国または連合諸州に対して戦争を起こすとわかった場合,ポルトガル国王陛下は,同様にして,前記の両王またはその一方にに全力をもって戦争を起こすものとする.この場合,フランスまたはスペインの国王またはその一方がポルトガルに対して戦争を仕掛けるならば,前述のグレートブリテンおよび連合諸州の二大強国はポルトガル国王陛下にこれまでの諸条項で規定されている人員および艦船の同じ救援を提供するものとし,該諸条項で規定されているように万事は実行されるものとする.

第13条
戦争遂行の第二の仕方と同様〔英蘭が攻撃を受ける場合?〕,第一の仕方〔ポルトガルが攻撃を受ける場合?〕でも,ポルトガル国王陛下は自らの防衛および同盟諸国の防衛のために軍艦十隻を維持するものとする.ただし,スペインおよびフランスの両者またはスペインのみが高き同盟諸国〔英蘭両国〕に戦争を仕掛けるならば,ポルトガル国王陛下の十隻の軍艦はポルトガルの沿岸から出発する義務はないものとする.これは,その地点≪station≫にある間に前記軍艦は敵の兵力を分断するのに大いに有用であろうだろうからである.しかし,戦争を仕掛けたのがフランスのみである場合には,ポルトガル艦が高き同盟諸国〔英蘭両国〕を両国自身の艦隊と合同して支援するのは合法である.

第14条
いかなる和平も休戦も,同盟国三か国の共通の合意によらずして結ばれることはないものとする.この盟約は永続的かつ恒久的である.

第15〜20条
(略)



(C) 2007.9. 友清理士; 訳文の最終修正日2007.9.24
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