皇帝とスペイン王の間の講和条件
第一条〔スペインがサルディニアを放棄〕
一七一四年九月七日に締結されたバーデン条約〔神聖ローマ帝国とフランスとの間のスペイン継承戦争の講和条約〕や一七一三年三月十四日の条約によるイタリアの中立に反して持ち上がった混乱を鎮めるため,スペイン王は,本条約の批准書の交換の二か月以内に,〔一七一七年秋に占領した〕サルディニアを返還し,そのすべての権利を放棄する.
第二条〔フランスとスペインの分離のため皇帝がスペイン領を承認〕
ヨーロッパにおける持続可能な均衡を定着させるために見出すことのできる唯一の方法は,フランスとスペインの王国が決して合体したり,同一の人物,同一の系統のもとに統一されたりせず,両王国が以後永久に別個であり続けることであると判断され,そのため両王国の継承権をもちうる君主は両王国の一方の継承権を自分およびそのすべての子孫について放棄し,両王国のこの分離はコルテスと呼ばれるスペイン国会で基本法になり,一七一二年十一月九日にマドリードで受け入れられ,一七一三年四月十一日にユトレヒト条約によって強化されたところ,皇帝はかかる必要にして健全な法を完全なものとするため,フランスおよびスペインの王国の継承に関するユトレヒト条約で確立された事項を受け入れ,自分とその承継者,子孫について,スペイン王室の領土や属州のうちユトレヒト条約によってスペイン王が正当な保有者であると認められたものに対してはあらゆる権利を放棄し,そのことを文書化する.
第三条〔皇帝がフェリペ五世のスペイン王位を承認〕
全ヨーロッパの安全保障に鑑みて皇帝が行なった前記放棄により,またオルレアン公〔フランスの王位継承権者〕が,皇帝もその子孫もスペイン王国を継承しないことを条件に自らと子孫についてスペインに対する一切の権利を放棄したことを考慮し,皇帝はフェリペ五世をスペインおよびインディアスの合法的な国王であると承認する.
第四条〔スペイン王がイタリア・ネーデルラント等の皇帝領を承認し,シチリアを含めイタリアを放棄〕
先の二箇条における皇帝による放棄と承認の見返りとして,スペイン王は自らおよび承継者,子孫の名において,皇帝がイタリアまたはネーデルラントにおいて有するまたは本条約によって皇帝に帰属する王国,属州,領土に対する一切の権利を放棄する.スペイン王はまた,これまでスペイン王室に属していたイタリアにおけるすべての権利を放棄する.放棄されるものには,一七一三年に皇帝によってジェノヴァに譲渡されたフィナーレ侯領が含まれる.スペイン王はまた,これまで留保してきたシチリア王国のスペイン王室への返還の権利を放棄する.
第五条〔トスカナ大公領およびパルマ・ピアチェンツァは帝国封土としてスペイン王妃の男子が継承〕
トスカナ大公またはパルマおよびピアチェンツァ公またはその承継者が男子の継承者なく没した場合,その領土は種々の継承権のためイタリアにおける新たな戦争を引き起こしうる.一方では,次の世継ぎの没後は〔トスカナ大公には息子,パルマ公には弟があったが,その後に後継者が絶えると予想されていた〕,パルマ公女として生まれた現スペイン王妃が前記公爵領の権利を主張し,他方では皇帝と帝国が主張しているのである.それから起こる大きな紛争をなくすため,トスカナ大公およびパルマおよびピアチェンツァ公が現在有する都市および公領は将来,神聖ローマ帝国の男子封土として,すべての締約国によって承認されることが合意される.皇帝のほうとしては,帝国の長として,前記公領の男子継承者がなくなるのがいつであろうと,前記スペイン王妃の長男〔ドン・カルロス〕およびその嫡出の男子の子孫が,それがない場合には前記王妃の次男以下の子息およびその嫡出の男子の子孫が上記のすべての属州を継承することに同意する.その目的のため,帝国の同意も必要なので,皇帝はそれを得るべくあらゆる努力を払い,同意を得たら文書化する.前記公領を現在有する君主の権利はいささかなりとも損なわれるものではない.
皇帝とスペイン王の間で,〔トスカナ地方の〕リヴォルノが永久に,現在と同様の自由港にとどまってもよく,またとどまるべきであることが合意される.
スペイン王がイタリアにおけるこれまでスペイン王に属してきたあらゆる領土,王国,属州を放棄したことにより,スペイン王は息子である前記王子〔ドン・カルロス〕に〔現在のリヴォルノ州エルバ島にある〕ポルトロンゴーネの町を,エルバ島のうち実際に保有している部分とともに,与え,それらを彼に,トスカナ大公の男子の子孫が絶えたときに王子が,自分の領土を実際に保有できるよう譲渡する.
さらに上記公領はいずれも,スペインの君主によって所有されない.
トスカナ公領およびパルマ公領の現在の所有者またはその男子の継承者の存命中はいかなる国のいかなる兵力も(自国の兵力であれ傭兵であれ),皇帝,スペイン王,フランス王によって,またさらには上記で継承者に指定された王子によってさえも,それらの公領に導入されてはならず,いかなる守備兵も置かれてはならない.
しかしながら,継承者に指定された上記スペイン王妃の息子の地位を保全するよう,また封土が皇帝および帝国にとって不可侵となるよう,主要な都市(リヴォルノ,〔エルバ島の〕ポルトフェラーヨ,パルマおよびピアチェンツァ)に入れられる六〇〇〇を超えない守備兵はスイス諸州から取られ,スイス諸州は三締結国によって支払いを受ける.それでも,現在の所有者およびその男子継承者に対して問題を起こしたり請求したりすることはない.
しかしながら,そのような兵の数,支払いについてスイス諸州と合意できるまでに有益な〔調停〕作業が遅れることがありうるので,イギリス国王は前記作業および公共の平穏に対する熱意から,スイス諸州で集められる兵が任につくまで自らの兵力を上述した用途のために貸すことを,他の締約国がよいと考えるならば,拒否しないであろう.
第六条〔スペイン王が留保していたシチリアの放棄〕
スペイン王は〔ユトレヒト条約でサヴォイ公が獲得した〕シチリア王国についての皇帝を利する以下の取り決めに同意し,一七一三年六月十日付の割譲証書によって明示的に留保していた,シチリア王国のスペイン王室への返還の権利を放棄する.スペイン王はさらに,必要な限りにおいて同証書およびスペイン王とサヴォイ公との間のユトレヒト条約第六条,また一般に本条約によるシチリア王国の処置に反するあらゆることから逸脱する.ただし,条件として,サルディニアのスペイン王室への返還の権利がスペイン王に与えられる場合である.これについては,下記の皇帝とシチリア王との間の協定の第二条においてさらに説明される.
第七条〔相互の領土保証〕
皇帝とスペイン王は互いに,実際の領有しているまたは本条約により領有されることになるあらゆる王国および属州の双務的な防衛および保証を約束する.
第八条〔批准と恩赦〕
皇帝とスペイン王は本協定の批准書の交換後ただちに,そのすべての条件を実行に移す.批准証書は署名後二か月以内にロンドンで交換する.使節および全権代表は合意された会議の場所において三締約国の仲介のもとにすみやかに個別の講和の他の点について決定する.
特に皇帝とスペイン王の間で結ばれる講和条約において,先の戦争で両陣営に従った者には全般的な恩赦が与えられ,その者たちは先の戦争の勃発時またはいずれかの陣営に加わった時点と同じ所有権,権利等を享受する.戦争中の没収,逮捕,判決は無効とする.
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