四国同盟条約(1718)(抄訳)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

四国同盟:Quadruple Alliance
スペイン継承戦争はユトレヒト条約で一応の終結を見たが,スペイン王位を争った皇帝(オーストリア)とフェリペ五世(スペイン)は和解していなかったし,サルディニアを獲得したオーストリアとシチリアを獲得したサヴォイ公の間にも軋轢があった.イギリス,フランス,オランダはより安定な国際秩序を目指して一七一七年一月四日(旧暦では一七一六年十二月)に三国同盟を結んだが,スペインはサルディニア,シチリアに出兵した.このため三国同盟にオーストリアを加えて紛争を解決しようとして一七一八年八月二日(旧暦七月二十二日)にいわゆる四国同盟が結ばれた.ただし,「四国」同盟と呼び習わされてはいるものの,オランダは参加しなかった.
だが国際的な圧力にもスペインは矛を収めず,講和に応じるのは一七二〇年のハーグ条約においてとなる.スペインがイタリアの領土を放棄する;パルマ公家が断絶したらフェリペ五世の子ドン・カルロスが継承する;シチリアとサルディニアを交換してオーストリアがシチリアを領有し,サヴォイ公がサルディニア王となるといったハーグ条約の講和条件は四国同盟条約に沿ったものである.

目次
皇帝とスペイン王の間の講和条件
皇帝とシチリア王の間の講和条件
皇帝と三国の条約(四国同盟)
秘密条項
別記条項
サルディニア王の承認および加盟の証書



グレートブリテン国王兼ブラウンシュヴァイク・リューネブルク公兼神聖ローマ帝国選帝侯等のジョージ,フランス国王等ルイ十五世,ネーデルラント連邦共和国連邦議会は,一七一七年一月四日に三国同盟を締結したものの,その取り決めは,ヨーロッパの一部の君主の猜疑心を取り除けない限り,世の平穏が永続するほど包括的でも堅固でもなく,昨年イタリアで勃発した戦争の経験から確信して,一七一八年七月十八日(新暦)までの戦争終結のため,皇帝とスペイン王との間,また皇帝とシチリア王〔サヴォイ公〕との間の講和条約の条項について合意し,さらに皇帝に対し,公共の平和と平穏のために上記条項を受け入れて条約に加わるよう促した.


皇帝とスペイン王の間の講和条件

皇帝とスペイン王の間の講和条件
第一条〔スペインがサルディニアを放棄〕
一七一四年九月七日に締結されたバーデン条約
〔神聖ローマ帝国とフランスとの間のスペイン継承戦争の講和条約〕や一七一三年三月十四日の条約によるイタリアの中立に反して持ち上がった混乱を鎮めるため,スペイン王は,本条約の批准書の交換の二か月以内に,〔一七一七年秋に占領した〕サルディニアを返還し,そのすべての権利を放棄する.

第二条〔フランスとスペインの分離のため皇帝がスペイン領を承認〕
ヨーロッパにおける持続可能な均衡を定着させるために見出すことのできる唯一の方法は,フランスとスペインの王国が決して合体したり,同一の人物,同一の系統のもとに統一されたりせず,両王国が以後永久に別個であり続けることであると判断され,そのため両王国の継承権をもちうる君主は両王国の一方の継承権を自分およびそのすべての子孫について放棄し,両王国のこの分離はコルテスと呼ばれるスペイン国会で基本法になり,一七一二年十一月九日にマドリードで受け入れられ,一七一三年四月十一日にユトレヒト条約によって強化されたところ,皇帝はかかる必要にして健全な法を完全なものとするため,フランスおよびスペインの王国の継承に関するユトレヒト条約で確立された事項を受け入れ,自分とその承継者,子孫について,スペイン王室の領土や属州のうちユトレヒト条約によってスペイン王が正当な保有者であると認められたものに対してはあらゆる権利を放棄し,そのことを文書化する.

第三条〔皇帝がフェリペ五世のスペイン王位を承認〕
全ヨーロッパの安全保障に鑑みて皇帝が行なった前記放棄により,またオルレアン公
〔フランスの王位継承権者〕が,皇帝もその子孫もスペイン王国を継承しないことを条件に自らと子孫についてスペインに対する一切の権利を放棄したことを考慮し,皇帝はフェリペ五世をスペインおよびインディアスの合法的な国王であると承認する.

第四条〔スペイン王がイタリア・ネーデルラント等の皇帝領を承認し,シチリアを含めイタリアを放棄〕
先の二箇条における皇帝による放棄と承認の見返りとして,スペイン王は自らおよび承継者,子孫の名において,皇帝がイタリアまたはネーデルラントにおいて有するまたは本条約によって皇帝に帰属する王国,属州,領土に対する一切の権利を放棄する.スペイン王はまた,これまでスペイン王室に属していたイタリアにおけるすべての権利を放棄する.放棄されるものには,一七一三年に皇帝によってジェノヴァに譲渡されたフィナーレ侯領が含まれる.スペイン王はまた,これまで留保してきたシチリア王国のスペイン王室への返還の権利を放棄する.

第五条〔トスカナ大公領およびパルマ・ピアチェンツァは帝国封土としてスペイン王妃の男子が継承〕
トスカナ大公またはパルマおよびピアチェンツァ公またはその承継者が男子の継承者なく没した場合,その領土は種々の継承権のためイタリアにおける新たな戦争を引き起こしうる.一方では,次の世継ぎの没後は
〔トスカナ大公には息子,パルマ公には弟があったが,その後に後継者が絶えると予想されていた〕,パルマ公女として生まれた現スペイン王妃が前記公爵領の権利を主張し,他方では皇帝と帝国が主張しているのである.それから起こる大きな紛争をなくすため,トスカナ大公およびパルマおよびピアチェンツァ公が現在有する都市および公領は将来,神聖ローマ帝国の男子封土として,すべての締約国によって承認されることが合意される.皇帝のほうとしては,帝国の長として,前記公領の男子継承者がなくなるのがいつであろうと,前記スペイン王妃の長男〔ドン・カルロス〕およびその嫡出の男子の子孫が,それがない場合には前記王妃の次男以下の子息およびその嫡出の男子の子孫が上記のすべての属州を継承することに同意する.その目的のため,帝国の同意も必要なので,皇帝はそれを得るべくあらゆる努力を払い,同意を得たら文書化する.前記公領を現在有する君主の権利はいささかなりとも損なわれるものではない.
皇帝とスペイン王の間で,
〔トスカナ地方の〕リヴォルノが永久に,現在と同様の自由港にとどまってもよく,またとどまるべきであることが合意される.
スペイン王がイタリアにおけるこれまでスペイン王に属してきたあらゆる領土,王国,属州を放棄したことにより,スペイン王は息子である前記王子
〔ドン・カルロス〕〔現在のリヴォルノ州エルバ島にある〕ポルトロンゴーネの町を,エルバ島のうち実際に保有している部分とともに,与え,それらを彼に,トスカナ大公の男子の子孫が絶えたときに王子が,自分の領土を実際に保有できるよう譲渡する.
さらに上記公領はいずれも,スペインの君主によって所有されない.
トスカナ公領およびパルマ公領の現在の所有者またはその男子の継承者の存命中はいかなる国のいかなる兵力も(自国の兵力であれ傭兵であれ),皇帝,スペイン王,フランス王によって,またさらには上記で継承者に指定された王子によってさえも,それらの公領に導入されてはならず,いかなる守備兵も置かれてはならない.
しかしながら,継承者に指定された上記スペイン王妃の息子の地位を保全するよう,また封土が皇帝および帝国にとって不可侵となるよう,主要な都市(リヴォルノ,
〔エルバ島の〕ポルトフェラーヨ,パルマおよびピアチェンツァ)に入れられる六〇〇〇を超えない守備兵はスイス諸州から取られ,スイス諸州は三締結国によって支払いを受ける.それでも,現在の所有者およびその男子継承者に対して問題を起こしたり請求したりすることはない.
しかしながら,そのような兵の数,支払いについてスイス諸州と合意できるまでに有益な
〔調停〕作業が遅れることがありうるので,イギリス国王は前記作業および公共の平穏に対する熱意から,スイス諸州で集められる兵が任につくまで自らの兵力を上述した用途のために貸すことを,他の締約国がよいと考えるならば,拒否しないであろう.

第六条〔スペイン王が留保していたシチリアの放棄〕
スペイン王は
〔ユトレヒト条約でサヴォイ公が獲得した〕シチリア王国についての皇帝を利する以下の取り決めに同意し,一七一三年六月十日付の割譲証書によって明示的に留保していた,シチリア王国のスペイン王室への返還の権利を放棄する.スペイン王はさらに,必要な限りにおいて同証書およびスペイン王とサヴォイ公との間のユトレヒト条約第六条,また一般に本条約によるシチリア王国の処置に反するあらゆることから逸脱する.ただし,条件として,サルディニアのスペイン王室への返還の権利がスペイン王に与えられる場合である.これについては,下記の皇帝とシチリア王との間の協定の第二条においてさらに説明される.

第七条〔相互の領土保証〕
皇帝とスペイン王は互いに,実際の領有しているまたは本条約により領有されることになるあらゆる王国および属州の双務的な防衛および保証を約束する.

第八条〔批准と恩赦〕
皇帝とスペイン王は本協定の批准書の交換後ただちに,そのすべての条件を実行に移す.批准証書は署名後二か月以内にロンドンで交換する.使節および全権代表は合意された会議の場所において三締約国の仲介のもとにすみやかに個別の講和の他の点について決定する.
特に皇帝とスペイン王の間で結ばれる講和条約において,先の戦争で両陣営に従った者には全般的な恩赦が与えられ,その者たちは先の戦争の勃発時またはいずれかの陣営に加わった時点と同じ所有権,権利等を享受する.戦争中の没収,逮捕,判決は無効とする.


皇帝とシチリア王の間の講和条件

皇帝とシチリア王の間の講和条件
第一条〔シチリアをオーストリアへ〕
ユトレヒト条約によるシチリアのサヴォイ公家への割譲はシチリア王のいかなる権利に基づくものでもなく単に講和条約を堅固にするためになされたものであり,目的を達成することとはあまりにかけ離れ,むしろ皇帝がユトレヒト条約に加わることの大きな妨げであることが明らかになり,長く同じ統治のもとにあり両シチリア王国と呼ばれてきたナポリとシチリアの王国の分離は両王国の共通の利益および相互保存のみならず,全イタリアの安寧に反することが見出された.そのため,ユトレヒト条約を最初に結んだ諸君主は,たとえ当事者の同意がなくても,ユトレヒト条約のシチリア王国に関する,前記条約の主要部分ではない条項を破棄することが合法であると考えた.シチリアをサルディニアと交換する
〔すなわち,シチリアをオーストリア領に,サルディニアをサヴォイ公領にする〕ことにより,皇帝がいまだ放棄しておらず,〔一七一七年秋のスペインによる〕サルディニア占拠によるイタリア中立の破綻以来皇帝が武力により正当に回復してもよかったシチリアを正当に攻撃できるため,イタリアを脅かす戦争を防止しうる.加えてシチリア王〔サヴォイ公〕は,ヨーロッパの主要君主に保証されて,皇帝との厳粛な条約のおかげで確固たる領土を得ることができる.よって,シチリア王は,本条約の批准書の交換から二か月以内に皇帝にシチリア島および同王国をその全付属領とともに回復するとともに,同王国のあらゆる権利を放棄し,皇帝およびその男女の世継ぎと継承者にこれを譲る.そのスペイン王室への返還は完全に取り去られる

第二条〔サルディニアをサヴォイ公へ〕
返報として,皇帝はシチリア王
〔サヴォイ公〕にサルディニア島および同王国を,スペイン王から受け取るはずであったのと同じ条件で譲渡し,同王国のあらゆる権利を放棄し,シチリア王およびその世継ぎと継承者に譲り,シチリア王は以後,王国の称号およびシチリア王国と同様の王族の権威をもってこれを保有する.ただし,シチリア王に男子の世継ぎがなく,同様にサヴォイ家全体でも男子の世継ぎがない場合,サルディニア王国のスペイン王室への返還は留保される.

第三条〔サヴォイ公の既得権〕
皇帝はシチリア王に,一七〇三年十一月八日にトリノで調印された条約
(『スペイン継承戦争』p.76)〔スペイン継承戦争初頭にサヴォイが対仏同盟に加わった条約〕によりなされた,モンフェラート公領およびミラノで現に保有している部分〔トリノ条約で認められ,一七〇七年にフランス勢を駆逐(『スペイン継承戦争』p.177)したことでモンフェラートはサヴォイが獲得し,ミラノに関しては皇帝との間で係争が続いていた Frey s.v. Victor Amadius II〕を含むあらゆる割譲を確認する.皇帝はその保有においてシチリア王を妨害しない.ただし,前記条約に基づく他のあらゆる要求は無効とする.

第四条〔サヴォイ家のスペイン継承権〕
皇帝は,スペイン王,ベリー公,オルレアン公の放棄
〔スペイン王がフランス王位継承権を放棄し,フランス王位継承権者のベリー公,オルレアン公がスペイン王位継承権を放棄した(『スペイン継承戦争』p.357)およびユトレヒト条約に基づいてフェリペ五世およびその子孫が絶えた場合には,シチリア王および同家がスペイン王国およびインディアスを継承する権利を承認し,皇帝はこれに反する行動をしないことを約束する.ただし,スペイン王位を継承したサヴォイ家の君主は同時にイタリアの領土を保有し得ないものと宣言する.そのような場合,血縁の近さにしたがって傍系の君主に移譲される.

第五条〔相互の領土保証〕
皇帝およびシチリア王は,実際にイタリアにおいて領有しているまたは本条約により領有されることになるあらゆる王国および属州の双務的な保証を与える.

第六条〔批准〕
皇帝とシチリア王は本協定の批准書の交換後ただちに,そのすべての条件を実行に移す.批准証書は署名後二か月以内にロンドンで交換する.使節および全権代表は合意された会議の場所において三締約国の仲介のもとにすみやかに個別の講和の他の点について決定する.


皇帝と三国の条約(四国同盟)

皇帝は提案された講和を進め,戦争の災禍を避けるため,上記の協定を受け入れ,三締約国と以下の条件で条約を結んだ.
第一条〔同盟〕
皇帝,イギリス王,フランス王およびネーデルラント連邦共和国連邦議会の同盟により,平和を維持し,相互の利益を増進する.

第二条〔旧条約の確認〕
ユトレヒト条約
〔フランス,スペインとイギリス,オランダ等との間の一連のスペイン継承戦争の講和条約〕およびバーデン条約〔神聖ローマ帝国とフランスの間の講和条約〕は,逸脱することが公共の善のためになると判断された条項およびバーデン条約で廃止されたユトレヒト条約の条項を除いて完全に有効であり,本条約の一部をなす.皇帝とイギリス国王の間で一七一六年五月二十五日にウエストミンスターで結ばれた同盟条約およびイギリス王,フランス王,ネーデルラント連邦共和国の連邦議会の間で一七一七年一月四日にハーグで結ばれた条約〔三国同盟〕は完全に有効である.

第三条〔イギリス,フランス,オランダによる皇帝への協力〕
イギリス王およびフランス王およびネーデルラント連邦共和国連邦議会は,皇帝がユトレヒト条約,バーデン条約によって有するまたは本状条約により獲得するの領土について直接にも間接にも妨害しない.むしろその領土を守り,保証する.同様に,イギリス王,フランス王,連邦議会は,皇帝およびスペイン王の臣下で実際に反逆者であるまたは反逆者であると宣言される者に保護を与えない.

第四条〔オーストリア,イギリス,オランダによるフランスへの協力〕
他方,皇帝,イギリス王および連邦議会は,フランス王の領土を妨害しない.むしろこれを保護し,守る.侵略があったときには以下の定めに従ってフランス王が必要とする救援を提供する.
皇帝およびスペイン王,イギリス王,連邦議会は,一七一三年四月十一日に結ばれたユトレヒト条約に基づくフランス王国の継承権を保証し,一七一二年十一月五日にスペイン王および同年同月九日にスペインの国会で受け入れられ一七一三年三月十八日に立法化され,最後にユトレヒト条約によって確立された厳粛な法によってなされた放棄に基づく前記継承を堅持する.必要な場合にはこれを破る者に対して宣戦布告することによって全力で前記継承順位を守る.
さらに,皇帝およびイギリス王および連邦議会はフランス王の臣下で実際に反逆者であるまたは反逆者であると宣言される者に保護を与えない.

第五条〔オーストリア,フランス,オランダによるイギリスへの協力〕
皇帝およびフランス王および連邦議会は,グレートブリテンの王国の継承を,同王国の法
〔王位継承王〕によって確立されたところにより現在君臨するイギリス王家に維持し,保証する.また,ジェームズ二世の存命中に皇太子〔プリンス・オブ・ウェールズ〕の称号を帯び,同王の死後はグレートブリテン国王の称号を帯びた人物やその子孫にいかなる保護も与えない.同様に,前記人物またはその子孫に海上でも陸上でもいかなる救援,助言,支援も与えないことを約束する.前記人物またはその子孫によって,公然たる戦争または隠然たる陰謀とを問わず,暴動および反乱を起こしたりイギリス王の臣下に対して海賊行為をはたらいたりすることによってイギリス王の政府またはその王国の平穏を乱すよう命令または委託を受けた者に関しても同様である.海賊行為の場合,皇帝はネーデルラントの港にそのような海賊に受け皿を許容しないことを約束する.同じことを,フランス王および連邦議会もそれぞれの領地における港について約束する.他方,イギリス王も皇帝およびスペイン王,フランス王および連邦議会の臣下を悩ます海賊に対してはいかなる避難先も拒否する.最後に,皇帝,フランス王および連邦議会はイギリス王の臣下で実際にまたは今後反逆者と宣言される人物に保護を与えない.イギリス王が侵略を受けた場合には,皇帝およびスペイン王,フランス王および連邦議会は以下に規定する救援を与える.イギリス王の子孫がグレートブリテンの王国の継承において妨害された場合も同様である.

第六条〔オーストリア,イギリス,フランスによるオランダへの協力〕
皇帝およびイギリス王およびフランス王は連邦議会が実際に有している領土を保護し,保証する.皇帝およびイギリス王およびフランス王は連邦議会の臣下で反逆者であると宣言されているまたは以後宣言される者に保護を与えない.

第七条〔防衛同盟〕
四締約国
〔オーストリア,イギリス,フランス,オランダ〕のいずれかが侵略を受けるかその所領を擾乱される場合には,残り三国は受難国が損害について満足を得られ,攻撃者が敵対行為を控えるよう調停を行なう.そうした調停が不十分であると判明する場合には,申請後二か月以内に,同盟国は侵略された国に以下の救援を合同でまたは各個に与える.
皇帝:歩兵八〇〇〇および騎兵四〇〇〇
イギリス王:歩兵八〇〇〇および騎兵四〇〇〇
フランス王:歩兵八〇〇〇および騎兵四〇〇〇
連邦議会:歩兵四〇〇〇および騎兵二〇〇〇

害を受けた国が兵ではなく軍艦または輸送船もしくは資金援助を選ぶ場合には所望される船または資金が,兵力分担に比例して認められる.そうした計算のあいまいさを取り除くべく,一か月間の歩兵一〇〇〇は一万フローリンに,騎兵一〇〇〇は月当たり三万フローリンに
換算され,同じ割合は船についても守られる.
上記の救援が不十分と見出される場合には,締約国はより豊富な補給を寄与することについて遅滞なく合意するものとする.さらに,緊急の場合には,もてる全力をもって害を受けた同盟国を支援し,攻撃者に対して宣戦布告する.

第八条〔新加盟国,批准〕
全締約国が同意する君主および国家,特にポルトガル王は本条約に参加できる.
本条約は皇帝,イギリス王,フランス王および連邦議会によって承認され,批准され,批准証書は二か月以内にロンドンで交換される.


秘密条項

秘密条項
第一条〔皇帝がサヴォイ公との和平に同意〕
皇帝はイギリス,フランス,オランダによる講和条件に同意し,その条件のもとにスペイン王およびサルディニア王
〔サヴォイ公〕と恒久的な和平を結ぶことに合意する.

第二条〔スペイン王,サヴォイ公に与える猶予期間〕
しかしながら,スペイン王およびサルディニア王がまだ前記条件に同意していないので,皇帝ならびにイギリス王,フランス王および連邦議会は,両者が同意するのに,本条約の署名から起算して三か月猶予することに合意した.

第三条〔スペイン王およびサヴォイ公が拒む場合〕
しかしながら,スペイン王およびサルディニア王が皇帝との間の前記講和条件を拒絶する場合には,ヨーロッパの平穏が両名の拒否や私的な意図に依存するのは不合理なので,イギリス王,フランス王および連邦議会は,両名に前記条件の受け入れおよび実行を強いるために,皇帝と力を合わせることを約束する.その目的に向け,三国は皇帝に,本日調印された条約の第七条によって相互の防衛について合意したのと同じ救援を与え,フランス王が兵の代わりに資金を出すことに全員一致で同意する.前記第七条で規定される救援が提案される目的を達するのに十分でない場合には,四締約国は,皇帝がシチリア王国を征服し,イタリアにおける皇帝の王国および属州が安全になるまで,より豊富な補給を皇帝に与えることについて遅滞なく合意するものとする.さらに,イギリス王,フランス王,連邦議会が本条約により皇帝に与えた救援のためスペイン王およびサルディニア王またはそのいずれか一方が前記締約国のいずれかに戦争をしかけてきた場合には,前記締約国の残り二国は前記スペイン王およびサルディニア王またはその戦争を仕掛けてきた一方に対してただちに宣戦布告し,皇帝がシチリアを保有し,イタリアにおける王国および属州に関して安全になり,また本条約のために侵略されたり損害を受けたりした締約国に正当な満足が与えられるまで武器を置かない.

第四条〔スペイン王,サヴォイ公の一方が拒む場合〕
皇帝との講和条件に同意していない二王のうち一方のみが受け入れた場合,その王も,前記条件を拒否する王に合意を強いるために四締約国と力を合わせる.

第五条〔スペイン王が同意し,サヴォイ公が拒否する場合〕
スペイン王が,公共の善への顧慮から,またシチリアとサルディニアの交換が全般的な平和の維持に必要であるとの説得のため,合意し,上記のように皇帝との講和条件を受け入れ,他方サルディニア王がそのような交換を拒否し,シチリア保持に固執する場合には,スペイン王はサルディニアを皇帝に回復し,皇帝は,シチリアが征服されてサルディニア王が皇帝との上記の条件の条約に署名し,シチリア王国の対価としてサルディニア王国を受け入れるまで,(最終的な宗主権を除いて)サルディニアをイギリス王および連邦議会の保護下に委ねる.しかしながら,皇帝が自力でシチリアを征服できない場合には,イギリス王および連邦議会は皇帝にサルディニア王国を回復する.その間,皇帝は同王国の歳入のうち同王国の維持に掛かる額を超える分を享受する.

第六条〔サヴォイ公が同意し,スペイン王が拒否する場合〕
しかしながら,サルディニア王
〔現シチリア王〕が前記交換に同意し,スペイン王が前記交換を拒否する場合には,皇帝は,他の締約国の救援を得て,サルディニアを攻撃する.他の締約国はそのような救援を皇帝に与えることを約束し,皇帝のほうはサルディニア王国全体を確保するまで武器を置かないこと,確保したらただちにサルディニア王に委譲することを約束する.

第七条〔スペイン王,サヴォイ公の両者が交換に反対する場合〕
しかしながら,スペイン王およびサルディニア王のいずれもがシチリアとサルディニアの交換に反対する場合には,皇帝は,同盟国の救援とともに,まずシチリアを攻撃し,これを征服した後,サルディニアに兵を向ける.サルディニアも征服したら皇帝は,サルディニア王が皇帝との講和条件に署名しサルディニア王国をシチリア王国の対価として受け入れることに同意するまで,これをイギリス国王および連邦議会の保護下に置き,同意が得られた後,シチリアはイギリス王および連邦議会によって皇帝に委譲される.その間,皇帝は同王国の歳入のうち同王国の維持に掛かる額を超える分を享受する.

第八条〔皇帝の要求の制限〕
スペイン王およびサルディニア王またはそのいずれか一方が上記講和条件を拒否し,そのため四締約国が武力によって対抗せざるを得なくなる場合,(前記両王に対する皇帝軍の戦果のいかんによらず)皇帝は前記講和条件によって皇帝に割り当てられた獲得分で満足するものと協定する.ただし,皇帝はミラノ公領のうちサルディニア王が現在有している部分に対して有すると僭称する権利を戦争またはそのような戦争の結果としての講和条約によって回復する権限は留保する.同様に,そのような戦争がスペイン王およびサルディニア王に対して執り行われる場合には,他の三つの同盟国は,皇帝がモンフェラート公領のうちサルディニア王が現在有している部分を委譲する,前記国王以外の他の何らかの君主を指名することにおいて皇帝に同意する権限を留保する.帝国の同意のもとに皇帝が,現在トスカナ大公およびパルマおよびピアチェンツァ公が有する都市の将来の授与を含む継承権授与状を与えうる,現スペイン王妃の子息以外の何らかの君主についても同様である.この宣言は,皇帝もオーストリア家のいかなる君主も,イタリアの王国,属国,属州を有する限り,前記トスカナ公領およびパルマ公領を要求したり獲得したりすることができないよう加えられる.

第九条〔シチリアを奪取できない場合の皇帝の免責〕
しかしながら,皇帝が,十分な数の兵力による努力および同盟国の救援その他の手段によってもシチリアを獲得できない場合には,締約国は,皇帝が,スペイン王およびサルディニア王と上述した条件で講和することに合意するこの条約による義務から解放されることを宣言する.それでも,本条約の他のすべての条項は有効である.

第十条〔皇帝による先行放棄〕
しかしながら,皇帝によるスペインおよびインディアスへのあらゆる僭称権ならびにスペイン王によるイタリアおよびオーストリア領ネーデルラントの王国,属領および属州へのあらゆる僭称権の放棄の目的はヨーロッパの安全保障と平穏なので,前記放棄は,互いに,皇帝とスペイン王の間に結ばれるべき講和条件の第二条および第四条のように行なわれる.スペイン王が上記の条件を受け入れることを拒絶したとしても,皇帝は自らの放棄の証書を送達させるが,その公表はスペイン王との講和に署名する日まで延期される.スペイン王が講和をかたくなに拒否し続ける場合には,皇帝は本条約の批准書が交換されるときに,イギリス王に前記放棄の厳粛な証書を届ける.イギリス王は,締約国の合意に基づき,皇帝がシチリアを有するまではこれをフランス王に呈示しないことを約束する.しかし,シチリアが得られたら,フランス王の要求があり次第,呈示と公表が行なわれるものとする.その放棄は,スペイン王が皇帝との講和に署名するか否かにかかわらず行なわれる.スペイン王が署名しない場合,締約国の保証が皇帝に与えられる

第十一条〔猶予期間における攻勢の自制〕
皇帝は,スペイン王およびサルディニア王に皇帝との講和条件を受け入れるために猶予される三か月の間,スペイン王やサルディニア王また一般にイタリアの中立に反するいかなる試みもしないことを約束する.しかしながら,三か月以内にスペイン王が前記条件を受け入れず,皇帝に対する敵対行為の遂行を続ける場合,またはサルディニア王が武力を持って皇帝がイタリアに有する属州を攻撃する場合には,イギリス王およびフランス王および連邦議会はただちに皇帝に防衛のために救援を提供する.救援が十分でない場合には四締約国は皇帝により強力な支援を皇帝に送るよう合意する.

第十二条〔守秘,批准〕
以上の十一か条は皇帝,イギリス王,フランス王および連邦議会によって,署名の日から三か月の間秘密にされる.ただし,全締約国がこの期間を短縮または延長することに合意する場合はその限りではない.
その批准書は前記条約の他の条項と同時に交換される.

ロンドンにて.一七一八年七月二十二日(新暦八月二日).


別記条項

別記条項 第一〔オランダが参加しない場合〕
連邦議会も本条約を受け入れると思われ,連邦議会は前記条約においては締約国と推定されている.
しかしながら,万一連邦議会が前記条約に参加する決議を行なわない場合でも,前記条約は有効である.

別記条項 第二〔オランダの負担の軽減〕
連邦議会が,リヴォルノ,ポルトフェラーヨ,パルマ,ピアチェンツァのためにスイス諸州に支払う分担が大きすぎると考える場合には,スペイン王が連邦議会の分担分を負担してもよい.

別記条項 第三〔スペイン王等の称号の承認の留保〕
皇帝と本日結ぶ同盟条約において,またそれに挿入される講和条件において,イギリス王,フランス王,連邦議会はスペインおよびインディアスの現在の保有者をスペイン王
〔直訳はカトリック王〕,サヴォイ公をシチリア王またはサルディニア王と称しているが,皇帝はこれら両君主が本条約参加するまでは両君主を王と認めることはできないところ,皇帝は,同盟条約より前に署名されたこの別記条項によって,王号を前記両君主に認めることではないことを宣言する.

別記条項 第四〔皇帝の称号の承認の留保〕
皇帝が全権委任状や本日結ばれた同盟条約において使っている称号のいくつかはフランス王には認められないものであるところ,フランス王は,同盟条約より前に署名されたこの別記条項によって,条約において与えられている前記称号によってフランス王が皇帝にいかなる権利を与えるものでもないことを宣言する.


サルディニア王の承認および加盟の証書

サルディニア王の承認および加盟の証書
条約,秘密条項および四つの別記条項が皇帝,イギリス王,フランス王の全権使節によって去る七月二十二日(新暦八月二日)にロンドンで締結され,署名されたところ,
また,いまやサルディニア王と呼ぶことが合意されたシチリア王は,加盟するよう招かれ,これを受け入れることを宣言したのみならず,使節に十分な全権を与えた.したがって,皇帝,イギリス王,フランス王の下名の全権使節はサルディニア王の本条約への加盟を認める.サルディニア王に対する秘密条項によって合意された事項は今般の加盟により完全に廃止される.他方,下名のサルディニア王の全権使節は提示され承認された全権委任状により,前記国王の名において,国王が条約に加盟することを約束する.


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(C) 2012.7. 友清理士; 訳文の最終修正日2012.7.11
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