王位継承法(1701)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

王位継承法:Act of Settlement
正式名称は「王位のさらなる限定ならびに臣民の権利および自由のよりよき安全のための法」(Act for the further Limitation of the Crown, and better securing the Rights and Liberties of the Subjects).
ウイリアム三世,アン女王の血統が絶えたのち,イギリス王位がプロテスタントのハノーヴァー家に継承されるのを承認するのと引き替えに,王権に対するさまざまな制限を加えた法.大陸でスペイン継承戦争(1701-14)が勃発した1701年,ルイ十四世のフランスとの対決に備えるウイリアム三世が承認.
下記のうち「内閣制から枢密院制への回帰」「国王政府からの議会の独立」はハノーヴァー家による継承(1714)前に廃止され,発効することはなかった.

法典コード:12 & 13 Wm III c. 2(「ウイリアム三世の治世第12−13年の法第2号」の意.1689年から数えて治世第12年は1700年であるが,1700年秋に始まり1701年初夏に終わる議会を「1700年の議会」と言うことがある.誤解を避けるため年が改まって以降は 12 & 13 のように書くらしい)

陛下および我々の最も仁慈深き女君主故メアリー女王(祝福された追憶のうちにある)の治世の第一年に,「臣民の権利と自由を宣言し,王位の継承を定めるための法」と題する議会法〔権利章典〕が制定され,そのうちで(なかんづく)以下のことが法制化され,確立され,宣言された.イングランド,フランス,アイルランドおよびそれに属する属領の王位ならびに国王統治権は,陛下および前記故メアリー女王が共に存命中は陛下と前記女王に,そして〔一方の没後は〕その長らえたほうにあり,そしてあり続けるべきで,そして陛下と前記女王の没後は前記王位および国王統治権は前記故女王の直系の世継ぎのものであり,そうとどまるべきである.そしてそのような子孫なき場合にはデンマーク公女アン殿下およびその直系の世継ぎに,そしてそのような子孫なき場合には陛下の直系の世継ぎに〔と継承順位が定められた〕.そしてそこではさらに法制化された.その時点でもしくはその後ローマ教皇庁もしくはローマ教会に帰依している,あるいはそれと霊的交わりをもつ,あるいはカトリックの信仰を告白する,あるいはカトリック教徒と結婚するすべての各人は除外され,その法により永遠に,この〔イングランド〕王国,アイルランド,そしてそれらに属する属領あるいはそのいかなる一部についても,王冠ならびに統治権を継承し,有し,享受することはできず,またその内ではいかなる王としての権力,権威,司法権も用い,行使することができない.そしてそのようなすべての各場合においてはこれらの王国の民はそれによりその忠誠の義務を解かれるものであり,解かれている.そして前記王位および統治権は適宜プロテスタントであり,前記したように帰依したり,霊的交わりをもったり,告白や結婚をしたりした前記の人物もしくは人物が自然に死した場合にそれを継承し,享受するはずであった人物もしくは人物らに伝わり,享受される.
その制定法およびそこに含まれる規定を作成したのち,陛下の公正なる企て〔名誉革命〕およびその目的のためのたゆまぬ努力に神の采配により成功が与えられたことによって宗教,権利,自由を完全に,妨げるものなく有し,享受できるように復された陛下の忠実なる臣民にとって,民がその平穏を(神の次に)感謝すべきであり,その父祖〔歴代オレンジ公〕が長年にわたって新教およびヨーロッパの自由の主たる主張者であり続けてきた陛下から,そしてこれらの王国の臣民にとってその思い出が常に貴重なものであり続けるであろう我々の前記最も仁慈深き女君主から後裔が生じるのを目にするのを期待し,望むことほど大いなる慶事はないものであるが,@その後,全能なる神は我々の前記した女君主,そしてまた最も期待された王子グロスター公ウイリアム(デンマーク公女アン殿下の唯一残った子)をお召しになり,陛下とその前記忠実なる臣民に言いようのない嘆きと悲しみを与えたもうた.臣民はみなそのような喪失のもとで切実に陛下および公女殿下のお命を長らえさせ,陛下もしくは公女殿下に前述した王冠と国王統治権を前記具陳された法に含まれている限定にそれぞれ従って相続できるような子孫をお与えになることが完全に全能なる神のおぼしめしに沿うものであることを思いつつ,そのような恵みを与えたまうよう常に神の慈悲を乞い願うものである.Aそして陛下の前記臣民はこれらの王国の現在ならびに将来の福利に対する陛下の気遣いと配慮を日々目のあたりにしており,特に国民の幸福と我々の宗教の安全のためにプロテスタントの家系への王位の継承のためにさらなる備えを用意することを王座より勧告されたこともその例である.Bそして王位に対するなんらかの僭称された称号に基づくそれに関するあらゆる疑義と競合を取り除くこと,そして前記具陳された法の限定が無効となった場合に陛下の臣民が保護を求めて安全に頼ることができるその継承における確かさを維持することがこの王国の安全,平和,静穏のために絶対に必要であり,それゆえに,プロテスタントの家系への王位の継承のさらなる備えのために,我々陛下の最も忠義にして忠実な臣民である聖俗貴顕および庶民〔上下両院議員〕は,この集会せる議会において,陛下に,この議会に集会せる聖俗貴顕ならびに庶民の助言と承認により,そしてそれをもって,そしてその権威により以下のことが法制化され,宣言されることを懇願し,そして法制化され,宣言されるものとする
〔1.ハノーヴァー家への王位継承〕
幸いなる追憶のうちにある我々の亡き君主ジェームズ一世の娘,故ボヘミア女王たる最も秀逸なる王女エリザベスの娘,ハノーヴァー選帝侯および公爵太妃たる最も秀逸なる王女ゾフィアが,前記イングランド,フランス,アイルランドの王国ならびにそれに属する属領および領土の主権者としての王冠と威光に対するプロテスタントの家系の,陛下,デンマーク公女アンののち,そして前記公女アンおよび国王陛下の子孫がそれぞれない場合の次なる継承者であるべきであり,ここにそう宣言する.我々の今上君主たる前記国王陛下およびデンマーク公女アン殿下が薨去してより,そしてそののちは,前記アン公女および陛下のそれぞれの子孫がない場合には,前記イングランド,フランス,アイルランドの王国およびそれに属する属領の王位および国王統治権は,それに属し付随する前記した王国の国王の地位と威光,あらゆる名誉,称号,爵位,王権,国王大権,権限,司法権および権威とともに,前記最も秀逸なる王女ゾフィアおよびその直系のプロテスタントの世継ぎに属するものであり,そうとどまり,そうあり続けるものである.そしてそれに向けて,前記聖俗貴顕ならびに庶民はこの王国のすべての民の名において,この上なく謙虚かつ誠実に自ら,そしてその子孫と末裔もともに恭順するものであり,そして陛下および公女殿下の没後,それぞれの直系の世継ぎがない場合には,この法において含まれ,明記されている王位の限定と継承に従って前記ゾフィア王女およびその直系のプロテスタントの世継ぎに従い,これに反するいかなる試みをする者に対しても,力の及ぶ限り,生命と財産をなげうって,維持し,お守りすることを誠実に約束する.
〔2.プロテスタント主義〕
常に定め,ここに法制化する.本法の限定の効力によって前記王冠を戴くもしくは継承するまたはそうすることのできるすべてのあらゆる人物および人物らで,現在もしくは今後ローマ教皇庁もしくはローマ教会に帰依する,あるいはそれと霊的交わりをもつ,あるいはカトリックの信仰を告白する,あるいはカトリック教徒と結婚するような者は,前記具陳された法によってそのような場合のために法制化され,確立されているような欠格を受けるものとする.そしてこの法の効力によりこの王国の主権者としての王位に至り,それを継承するこの王国のあらゆる国王および女王は,国王陛下および前記した故メアリー女王の治世第一年に制定された「戴冠式の宣誓を定める法」と題する議会法に従ってそれぞれの戴冠式において彼,彼女もしくは両方に対して戴冠の宣誓を執り行なわせ,最初に上に具陳,言及,参照された法における宣言を,そこで定められているしかたと形によって行ない,署名し,反復するものとする.
〔3.王権の制限〕
そして国王陛下およびデンマーク公女アン殿下が薨去してより,そしてそののちに,前記皇女および陛下のそれぞれのちを引く子孫がない場合に,我々の宗教,法,自由の安全を確かなものとするためにさらなるなんらかの備えがなされることが必要にして不可欠であるがゆえに,最も秀逸なる国王陛下により,議会に集会せる聖俗貴顕および庶民の助言と同意により,そしてそれをもって,そしてその権威により以下のことが法制化されるものとする
〔・イングランド国教会:〕今後この王冠を有することになる者は誰であろうと法により確立されたようにイングランド国教会の霊的交わりに加わるものとする.
〔・大陸の戦争に巻き込まれることの防止:〕この王国の王冠および主権者の権威が今後本イングランド王国の生まれでないなんらかの者に帰する場合には,この国は,イングランドの王冠に属するものでないいかなる属領や領土の防衛のためのいかなる戦争にも,議会の同意なくして従事することを強いられないものとする.
〔・君主の無断出国禁止:〕今後この王冠を有することになるいかなる人物も,議会の同意なくしてイングランド,スコットランド,アイルランドの属領の外に出ないものとする.
〔・内閣制から枢密院制への回帰:〕本法によるさらなる限定が発効する時点より,そしてそののちは,この王国の法と慣習により枢密院の管轄下にあってしかるべきであるこの王国のよき統治に関するあらゆる事項と事柄は,枢密院において遂行されるものであり,それについて行なわれるあらゆる決議は枢密院がそれを助言し,承認した上で署名するものとする.
〔・王領地の外国人への下賜の禁止:〕前述のように前記制限が発効したのちは,イングランド,スコットランド,アイルランドの各王国あるいはそれに属する属領の外で生まれたいかなる者も(その者が帰化されようと,国籍取得者とされようと,イングランド人の両親から生まれたのでない限り),自分自身にも,その人物のために委託されたいかなる人物もしくは人物らも,枢密院の一員となることはできず,議会の上下いずれの院の議員ともなれず,文官武官を問わず責任あるいかなる官職や地位を享受することもできず,王室からいかなる土地,保有財産,相続可能財産の下賜を受けることもできないものとする.
〔・国王政府からの議会の独立:〕国王のもとで有給の官職または地位を得ている,あるいは王室から年金を受けているいかなる者も,下院議員として奉仕することはできないものとする.
〔・裁判官の身分の保障:〕前述したように前記制限が発効したのちは,判事の辞令は罪科ない限りとされ,その給与は確認され,確立されるものとする.しかし,上下両院の奏上に基づけば罷免するのは合法である.
〔・議会による弾劾に対する恩赦の禁止:〕下院による弾劾に対しては,イングランドの国璽のもとのいかなる恩赦も適用できない.
〔従来の法の確認〕
そしてイングランドの法はその民にとっての生得権であり,この王国の王座に昇るあらゆる国王および女王は,その統治を前記法に従って行なうべきであり,そのすべての士官や大臣もそれに従ってそれぞれ彼らに仕えるべきである.よって,前記聖俗貴顕および庶民はさらに謙虚に祈る.確立された宗教,その民の権利と自由,そして現在有効なそのすべての他の法や制定法を確かなものとするためのこの王国のあらゆる制定法は認められ,確認されてよいものであり,そしてそれは国王陛下によって,前記聖俗貴顕および庶民の助言によって,そしてそれをもって,その権威によって,しかるべく認められ,確認されるものである.

テキストは基本的にAct of Settlement, 1701にあるものを使用し,ところどころ手元にある当時の文書のファクシミリで確認した.なお,ファクシミリには上記の前後にラテン語による宣言文がある.

(C) 2003.10. 友清理士; 訳文の最終修正日2003.10.2
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