王たる資格(1483)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

王たる資格:Titulus Regius
リチャード3世が王位につく資格を述べる文書.1483年6月,リチャードの王位就任を求めてグロスター公リチャードに提出され,リチャードが広く流布させた.リチャード自身が作成させたものと思われる.エドワード4世の事前結婚のため少年王エドワード5世に王位継承の資格がない,ウォリック伯エドワードは父クラレンスの反逆罪・私権剥奪により欠格,したがってリチャードが正統な王位継承者であるなどとする内容になっている.1484年1月に開会された議会で法典に取り入れられた.
リチャード3世を倒したヘンリー7世はその法典を写しも含めて破棄させた.以後,テューダー朝史観によりリチャード3世を正当化するこの法典は忘れられていたが,Sir George Buckがクロイランド修道院で書かれた当時の文書でこの法典の内容を突き止め,その後,破棄を免れた法典がロンドン塔で発見された(Daviot, Dickon p.101-102).

高貴なる殿下〔グロスター公リチャード〕におかれましては,このイングランド王国の我ら聖俗貴顕および庶民の考察,選択および請願をご理解いただき,我が国の共通にして公共の福利のために,また我が国の全人民の安逸および歓びのために,これに快く同意を下したまわんことを.
まず,我らが考察いたしますに,これまで過ぎ去りし時に,我が国は長年にわたって大いなる繁栄,名誉および静穏のうちにあり,それはその時君臨していた国王らが,堅固,叡知,智謀および経験が認められたさる聖俗貴顕およびその他の人物の助言と勧告を用い,これに従い,神を畏れ,司法の公正な施行および我が国の共通にして思慮ある福利に対するひたむきな熱意と愛情を有していたゆえにもたらされたものであり,その時,我らが主なる神は畏れられ,愛され,敬われており,その時は国内には平和と静穏があり,隣人どうしの間には協和と仁愛があり,その時は外敵の悪意は強く抑制および抵抗され,我が国は多くの偉大にして輝かしい勝利により名誉をもって防衛されており,その時は商品の通行は大いに使用および行使されており,上記の事情により我が国は大いに富み,商人および職人ならびにさまざまな職業において生活のために労苦するその他の貧民の福利も,自らと所帯の維持のために十分な利得を有しており,悲惨で耐えられない貧困を知らずに生きてきたものであります.ところがその後,この国の統治と管理を手にする者
〔エドワード4世〕がこびへつらいにうつつをぬかし,肉欲と情欲に導かれて,傲慢で邪悪で度外れて貪欲な者ども〔ウッドヴィル一族〕の助言に従い,上記したような善良で高潔で賢明な人物の助言を軽んじたとき,我が国の繁栄は日に日に低下し,幸運は悲惨に,繁栄は逆境に転じ,政治の秩序および神と人の法の秩序は混乱をきたしました.それにより,これに関して適切な対処のしかるべき備えがすみやかになされなければ,我が王国は極端な悲惨と荒廃に堕することになりかねません.神よ守りたまえ.
これに関し,なかでも,我らが考察いたしました具体的なこととして,先に薨去した国王エドワード4世の治世の時代が,イングランド全体が物言いをつける理由のある前記国王エドワード4世とエリザベス(一時騎士サー・ジョン・グレイの妻であり,のちに今日に至るまで何年もイングランド王妃を名乗ってきた)との間になされたよこしまで偽りの結婚のあと,あらゆる政治統治の秩序は転覆され,神および神の教会の法そしてまた自然のおよびイングランドの法,そしてまたその誉れある慣習および自由も転覆され,すべてのイングランド人があらゆる理性と正義に反して継承人において破られ,覆され,見下されています.そして我が国は身勝手と快楽,恐れと恐怖によって支配され,あらゆる面で公正と法はなおざりにされ,蔑まれ,そこから貧しく非力な人々の殺人,強奪,抑圧といった数多くの不都合と災厄が帰結し,誰も己の生命や土地,糧のことも,妻や娘,召使のことも安心できず,善良なすべての乙女と女は乱暴され,汚される恐怖にさらされました.これに加え,いかなる不和,内紛,キリスト教徒の血の流失そしてこの国の高貴な血筋の破滅がこの国において行われ,犯されたことかは,あらゆる真のイングランド人にとって大いに悲痛なことに,この王国じゅうで明白であり顕著であります.ここで我々がまた考察いたしますに,上名の国王エドワードとエリザベス・グレーとの間の前記偽りの結婚が厚顔無恥なことに我が国の貴顕の知らないところで同意もなくして,しかも民の一般の意見および民衆の声の言うところでは魔術と邪術によって前記エリザベスおよびその母ベッドフォード公妃ジャケッタによって犯されました.評判は我が国じゅうに知れ渡っており,以後は事情が要求するならばそのとき,適切な時間および場所において十分に証明されるでありましょう.ここで我々がまた考察いたしますに,前記偽りの結婚は私的かつ秘密裏に,私的な部屋,世俗な場所において,結婚予告の提供なしに行われ,公然と教会の前で,神の教会の法に則って行われたのではなく,教会の法にも,イングランドの教会の誉れある慣習にも反して行われました.しかも,前記偽りの結婚の契約の時点において,それ以前から,そして以後も長らく,前記国王エドワードは老シュローズベリー伯の娘であるエリナー・バトラー
〔Elianor Butteler; 現代の綴りではEleanor Buttler〕なる婦人と結婚し婚儀を結んでいました.国王エドワードは,前述したような態様および形での前記エリザベス・グレーとの前記偽りの結婚よりはるか前に,この婦人と結婚の先約を結んでいたのです.この陳述が真であり,まことの意味で真であったので,一見して明らかに,そして論理的帰結としても明らかに,生前の前記国王エドワードおよび前記エリザベスは神およびその教会の法に反して,不義の状態で,罪深く,忌わしくも共に暮らしてきたのであります.したがって,我が国の君主にして元首がそのような神に反する性向で我らが主なる神の怒りと憤りを買ったことからすれば,上記したような悪しき災厄および不都合が王国において臣民の間で用いられ,犯されるのも驚くには当たりません.また,一見して明らかに,そして論理的帰結としても明らかに,前記国王のあらゆる子孫および子息は庶子であり,イングランドの法および慣習に従い,いかなるものも相続したり相続を請求したりすることはかなわないのであります.
さらに,我らが考察いたしますに,その後,当時王冠と王の身分を保持していた前記国王エドワード四世
〔King Edward the iiijth, Kyng Edward the IIIIthの治世第十七年にウエストミンスターで開催された議会〔1477年11月に召集,1478年1月に開会〕に集ったこの王国の三身分により,同議会の制定せる法により,今は亡き前記国王エドワードの弟クラレンス公ジョージは有罪宣告され,大逆罪で私権剥奪されました.詳細は同法に含まれているとおりです.そのため,そしてその反逆により,前記ジョージのすべての子孫は,この王国古来の法および慣習により,相続によって何らかの形で有するまたは主張する可能性のあるこの王国の王冠および王たる位階へのあらゆる権利および主張を無効化および阻害されているのです.
これに関し,我らが考察いたしますに,殿下は前記王冠および王たる位階へのほかならぬ相続者である故ヨーク公リチャードの疑いなき息子および継承者であり,権利として相続によりイングランドの国王であり,この時点で上記陳述をしかるべく考察したところ,権利により前記王冠および王たる位階を相続により請求しうる人物は殿下のほかには現存していません.
殿下こそは国内で生まれ,その理由により,殿下こそはこの国の繁栄および公共の福利に関心があると思案する次第でございます.この国の三身分すべては上述した殿下の出生および系統をより確かなこととして知っており,また知りうるのであります.また我らが考察いたしますのは,大いなる叡智,賢慮,正義,気高い勇気,そしてこの王国の救済および防衛のために殿下がこれまでにしてきたと我らが経験により知っている,さまざまな戦いにおける目覚ましい誉れある行動の数々であり,また,キリスト教世界における三大王家,すなわちイングランド,フランスおよびヒスパニア王家の子孫としての,殿下の生まれと血筋の偉大なる高貴さおよび秀逸です
〔先のヨーク公リチャードの「疑いなき息子」「国内で生まれ」とともに,エドワード4世,クラレンス公ジョージがヨーク公妃セシリーの不義の子であったと仄めかしている〕.
こうした陳述を真摯に考察いたしました結果,我らは,衷心より我が国の平和,平穏および公共の福利ならびに我が国古来の名誉ある状態および繁栄への復帰を望み,殿下の偉大なる賢慮,正義,気高い勇気および高徳を何よりも信頼する気持から,我らにあるあらゆる資格において,この我らの書状により,高貴にして力ある君子である殿下を我らの国王にして君主等に選ぶことにしたものであり,相続により殿下こそそのように選ばれるのが当然であると確信しております.ここに我らは,謹んで,高貴なる前記殿下に,我らこの国の三身分によるこの選出に基づき,また殿下の真の相続により,殿下が御身の上に前記王冠および王たる位階を,それに付随し,相続および合法的な選出により殿下に属すべきあらゆるものごとともに受け入れることを望み,願い,要請するものであります.受け入れられる場合には,我らは真の忠実な臣民および臣下として殿下に仕え,補佐し,この問題においても他のいかなる正当ないさかいにおいても殿下と生死を共にすることを約束いたします.我らは,神および人の法,すべてのイングランド人が相続されているこの王国の自由,いにしえの政体および法に反する新たな強奪および賦課によって抑圧され,虐げられてきたこれまで長らくの隷属と束縛のうちに生きるよりは,我らの生命を危険にさらし,死の危機に瀕してでもあえて立場を鮮明にする決意を固くしております.我らの主たる神が,すべての王の中の王が,その無限の仁慈と永遠の叡慮をもちてこの世のすべてのものを根源的に支配している神が,殿下の魂を安んじ,殿下がこの問題でも他のいかなることでも神のご意思と御心にかない,この国の共通にして公共の福利になるすべてのことをなすことを認めたまい,それにより,大いなる暗雲,困難,風雨および嵐ののちに,正義と恩寵の太陽が我らの上に輝き,真のイングランド人すべての安逸と歓びとならんことを.
我らが君主,国王リチャード三世が王冠およびこのイングランド王国の王たる位階においてそれに付随・付属するあらゆるものとともに有している権利,資格および身分は公正かつ合法であり,神の法と自然の法に基づいており,前記王国のいにしえの法および誉ある慣習にも基づいており,前記した法および慣習に通じたあらゆる人物によってそのように解釈され,評価されてきました.しかしながら,それにもかかわらず,我が国の民衆のほとんどは前述の法および慣習について十分な学識がなく,そのためこれについて根拠の真実および正義が隠され,すべての民衆に明確に知られず,その結果,疑われ,疑問視されることがありえます.そしてこれに関し,いかに議会裁判所にそのような権限があり,我が国の民衆がそのような性質および性向であることでしょうか.経験が教えるところによれば,議会に会したこの王国の三身分によって,そしてその権威によってなされた何らかの真実または正義の表明および宣言は,他のあらゆることより先に最大の信頼と確実をなし,人心を鎮め,あらゆる疑問および扇動的な言辞の機会を取り除くのです.
したがって,前記要請にあたり,現在のこの議会に会したこの王国の三身分,すなわち我が国の聖俗の貴顕および庶民の同意およびその権威により,表明し,宣告し,宣言するものであります.我らが前記君主たる国王は,合法的な選出,聖別および戴冠によるほか,血筋と相続の権利により,過去も現在もこのイングランド王国の真実にして疑いなき国王であり,この同王国内および王国外で国王に付属され,統一され,帰属するあらゆるものを有する.そしてこれに関し,前記要請にあたり,前述した同意および権威により,布告し,制定し,確立するものであります.この王国の前記王冠および王たる位階ならびにそれらおよび同王国または同王国外で国王に付属され,統一され,今帰属する他のものの相続は,我らの前記君主たる国王の人物のうちに,その存命中は存在し,その死後はその身体からもうけられた世継ぎに存在するものである.そして特に,前記要請にあたり,前述した同意および権威により,布告し,制定し,確立し,表明し,宣告し,宣言するものであります.我らの前記君主たる国王の息子である高貴で秀逸なるエドワード王子は我らの前記君主たる国王の法定継承者であり,我らの前記君主たる国王の死後は,前述の王冠および国王たる位階を,前述の国王に統一され,付属され,帰属するあらゆるものとともに継承し,王子自身ととの身体から合法的にもうけられた世継ぎに属するものとして有するものである.


テキストはhttp://www.richard111.com/titulus_regius.htmをメインに適宜http://www.r3.org/bookcase/texts/tit_reg.htmlを参照した.

(C) 2007.9. 友清理士; 訳文の最終修正日2007.9.2
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