ウエストミンスター条約(1654)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

ウエストミンスター条約:Treaty of Westminster
共和制イングランドとオランダとの間で戦われた第一次英蘭戦争(1652-54)の講和条約.イギリス艦隊がオランダ沿岸を封鎖するほどの優位を占めるなか,ウエストミンスターで講和条約が結ばれた.

イングランドの護国卿たるオリヴァー・クロムウェルとネーデルラント連邦共和国との間の平和と連合の条約.一六四五年〔正しくは一六五四年〕四月五日,ウエストミンスターにて.

〔第一条 和平〕
第一に―イングランドの共和国と連合諸州の連邦議会との間で確固として侵されざる平和が来たるべきであることが合意された.

第二条〔敵対行為の中止〕
以後,あらゆる敵意と敵対行為は中止される.

第三条〔免責〕
双方の陣営のすべての敵対行為と損害は忘れられる.

第四条〔捕虜の解放〕
双方の捕虜はすべて解放される.

第五条〔敵に対する合同〕
両共和国は互いの権利と免除を,海陸を問わず,公共の自由のあらゆる公然たる敵から護る義務を負う.

第六条〔互いの利に反することの禁止〕
いずれの共和国も他方に反することを試みない.また,いずれかの敵である人物を利したり,支援したり,かくまったりしない.

第七条〔互いの敵の支援の禁止〕
いずれの共和国も他方の謀反人を援助したりかくまったりしない.いずれの共和国の国民も,謀反人に武器,物資などを援助すればその行為がみつかった国に対する反逆罪で有罪と見なされる.

第八条〔互いの敵に対抗する上での支援〕
両国は,相互に支援しあうものとし,その費用は支援を必要とする国の負担とする.

第九条〔互いの敵の援助の禁止〕
両国とも相手の敵を受け入れたり,その物資を隠匿したり,武器を援助したりしない.

第十条〔互いの敵の国外追放〕
いずれかの共和国が覚え書きその他によって,申請国の敵もしくは謀反人が相手の属領内に潜んでいると通知した場合には,そのような覚え書きを受け取った国はまず二十八日以内に,それらの人物に出国を命じる宣言を出す.そしてもしそれらの人物がそのような宣言が発されてから二週間以内に出国しなければ,彼もしくは彼らは死および家財,動産の没収をもって処罰される.

第十一条〔互い敵の保護の禁止〕
イングランド共和国の謀反人もしくは公敵は,いかなる身分や位階の者であっても,連合諸州の属領内にかくまわれてはならない.連合諸州の国民のいずれかがこの協定に反してそのような人物をかくまい,支援し,援助した場合には,そのすべての動産,町,村等を失う者とする.イングランド共和国の国民が連合諸州の謀反人や公敵をかくまった場合も同じである.

第十二条〔自由往来〕
いずれの国の国民も,通常の関税等を支払い,それぞれの国の法に従う限り,相手国の属領内を自由に通過し,戻り,滞在し,旅することができる.

第十三条〔海の主権〕
連合諸州の船舶は,イングランド共和国の軍艦と英国の海で出会ったときには,これまで習わしであったように旗を降ろす.

第十四条〔海賊による強奪品の返還〕
通商の自由の保護のため,いずれの国も海賊をかくまったり,海賊行為によって他方の国民から奪取された財貨を隠匿したりせず,それぞれの海事裁判所において正式な所有者であるしかるべき法的な証拠が示されたら,ただちにそれを正式な所有者に返還する.

第十五条〔第三国との条約〕
もしいずれかの国が他の国王等と同盟を結ぶときは,もう一方がもし望めばその条約に含められる.

第十六条〔事故による和平崩壊の防止〕
この条約に違反する者が出た場合には,裁きが行なわれる.喜望峰のこちら側についてはそのような裁きが要求されてから十二か月以内に,喜望峰以遠については十八か月以内になされる.

第十七条〔互いの国内での通行・交易の自由〕
一方の国の国民は他方の国を自由に通行できる.四十人未満の場合は武装していてもいなくてもよい.

第十八条〔避難船の扱い〕
一方の国の船舶が荒天もしくは敵により他方の港に追い込まれた場合,積み荷を降ろしたり販売したりしない限り,税金を課されることなく自由に出港できる.また,その地の法令や慣習に従っている限り,臨検されたり,乗員を連れ去られたりしない.

第十九条〔船員の強制徴募禁止〕
商人も船員もその船等も,いずれかの国の港等で止められ,一般的もしくは個別的な命令によって戦争のために駆り出されることはない.ただし,ここに含まれる何ものも,その国の法に従って通常行なわれている留置や逮捕を妨げるものではない.

第二十条〔武器の携行〕
商人,船員等は,海上でも陸上でも,その船や身体の防衛のための必要に応じて攻撃的もしくは防衛的な武器を携行し,用いることができる.ただし,宿や宿舎に来た際には,再び乗船するときまでその武器は放棄する.

第二十一条〔相手国商船の保護〕
いずれの国の軍艦も,他方の商船と出会ったときには,同じ進路をとる限り,あらゆる襲撃者に対してこれを護衛するものとする.

第二十二条〔領域内での拿捕への対策〕
いずれかの共和国もしくは中立国に属する船舶が,いずれかの,もしくは第三国の港において拿捕された場合には,両国は所有者の負担においてこれを奪還する義務を負う.

第二十三条〔臨検〕
いずれの側の臨検者もそれぞれの共和国の法に従って身を律し,法が認める以上のものを取ってはならない.

第二十四条〔傷害修復の手続き〕
もし一方の共和国の国民に対して他方の国民から傷害がなされた場合には,まず一般的な法律手続きによって救済が図られる.それが拒まれたときには,障害を受けた当事者は拒絶後三か月を経過したのちに敵国船拿捕免許状を受けることができる.

第二十五条
特許状や特別委任状を受ける者は,いずれかの共和国からそれを受ける前に,それを認可する裁判官に十分な担保を提出しなければならない.

第二十六条〔相手国への入港〕
両国の国民は各共和国の港に,商船であろうと特別任務を帯びた船であろうと軍艦であろうと自由に入港できる.ただし,軍艦が自発的に入港する場合には,その数は八隻を超えないものとし,必要以上に長く滞在しないものとする.

第二十七条〔アンボイナ事件〕
連邦議会は,イングランド共和国がアンボイナにおけるイングランド人の虐殺と呼んでいる事件について,関与した者もしくは共犯者に対して正義を行なうよう配慮する.

第二十八条〔デンマーク〕
一六五二年五月十八日以来のデンマーク国王の属領におけるイングランド人の財産の差し押さえと占有に関し,連邦議会はそれを所有者に償い,しかるべき調査の費用をまかなうために五〇〇〇イングランドポンドと二万ライヒスターラーを殿下がただちに指名する人物に支払う義務を負う.この額は認定される賠償総額から差し引かれ,十四万の賠償額の裁定証書に,認定を管理するロンドンにおける適当な人物によって記載される.

第二十九条〔デンマーク〕
前条の内容が調整され,オランダ人がデンマークで差し押さえられていた物品等の返還をすれば,その王国に対するすべての敵対行為は中止され,デンマーク国王はこの条約と連盟に含められる.

第三十条〔損害調査委員会〕
一六一一年,そして一六五二年五月十八日の,そしてまた東インド,グリーンランド,モスクワ,ブラジル等における傷害や損害を調査する権限を与えられた双方四名ずつの委員が指名され,来たる五月十九日にロンドンにて会合する.もし前記の相違点が五月十八日から起算して三か月以内に調整がつかない場合には,問題はスイス連邦の仲裁をあおぐことにする.スイスはその目的のための委員を派遣し,六か月以内に裁定を下す.それまでの間は,委員たちの多数が決めたことが双方に対して拘束力をもち,しかるべく実施される.

第三十一条〔条約の遵守〕
両当事国は誠実にこの条約を実施し,執行する.

第三十二条〔オランダの要職につく者の条約遵守〕
連邦議会は,大将軍,総督等に任じようとする者がこの条約を確認する義務を負い,熱心にそれを遵守する宣誓をし,他の者によってしかるべく執行されるようはからうことに合意する.

第三十三条〔批准〕
本状は二週間以内に批准され,その時以降,すべての敵対行為は双方において中止される.

   批准 一六五四年四月十九日,ウエストミンスターにて.
連邦議会によってハーグにて         ヒュージー
一六五四年四月二十二日 署名        オリヴァー・P――
議会の議長
  N―― ライシュ


(C) 2004.5. 友清理士; 訳文の最終修正日2004.5
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