ウイリアム三世の議会演説(1701)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

ウイリアム三世の議会演説
1700年,スペイン王カルロス二世が没すると,フランスのルイ十四世は孫のアンジュー公をスペイン王フェリペ五世と宣言した.さらに1701年9月にフランスで亡命生活を送っていたジェームズ二世が死去すると,ルイ十四世はその息子をイングランド国王ジェームズ三世として承認することにした.なお,演説中で言及されている外国との同盟とは同じ九月にハーグで調印された大同盟条約のことである.
この年12月31日,ウイリアム三世は議会に対してフランスの攻勢に備えることを助言する演説を行なった.しかし,ウイリアム自身はルイ十四世と最後の決着をつけることはかなわず,翌年三月に世を去ることになる.

ウイリアム三世晩年の議会演説

貴顕ならびに紳士諸君,ここに会したる諸君は,正しくも全ヨーロッパが等しく感じている危機感を共有し,先のフランス国王の所業を憤っているものと確信している.そうした怒りは広汎な我が国民からの忠実にして理にかなった数々の奏上文によって余すところなく表現されている.僭称せる皇太子をイングランド国王と認め擁立しようとすることは,私と我が国民とに向けられたこの上ない侮辱であるばかりでなく,プロテスタントの信仰や現在および将来の国の平穏と幸福を思うすべての人に深く関係することであり,私に促されるまでもなく,諸君も真剣に心にとめ,プロテスタントの系統への王位継承を確かなものとし,あらゆる王位僭称者やその公然・隠然たる支持者の希望をくじくためにさらにいかなる効果的な方策を用いることができるかを検討してくれることであろう.
フランス国王は自らの孫をスペイン王位につけることによって,すみやかに有効な手を打たなければヨーロッパ全土を抑圧しうる態勢を整えたことになる.そのような王位の僭称によって,フランス国王はスペイン王領全体の真の支配者となった.スペインを完全にフランスに依存せしめ,自らの属領であるかのように扱い,それにより,名目上こそ平和が続くとはいえ,近隣諸国に戦時の出費と苦難を強いているのである.このことはイングランドに対して特に切実な問題となる.貿易はそのあらゆる分野において基盤がゆるがされ,国内の安全と平和は遠からずして乱されることであろう.そしてヨーロッパの自由を守るためにイングランドが果たすべき役割という意味でもきわめて重要な問題が突きつけられている.
フランスのこの途方もない覇権の脅威にさらされているキリスト教世界全般の危難を回避するため,上下両院からの勧めに従っていくつかの同盟条約を締結した.その条約はほどなくして諸君の前に提示されるよう指示するつもりである.諸君もきっとその条約の責務を果たすのに協力してくれるものと確信する.ほかにも交渉中の条約がいくつかあるが,それについても完結し次第,同様にして諸君に伝達されることになろう.
ヨーロッパじゅうの目がこの議会に注がれている.諸君の決意が明らかになるまで,あらゆる事態が足踏みするだろう.一刻たりとも無駄にするわけにはいかないのだ.神の恵みにより諸君にはまだ自らおよび子孫が宗教と自由をつつがなく享受できるよう手を打つ機会がある.それには諸君が自らに対する責務を果たし,イングランドという国に古来備わっている活力を発揮しさえすればよい.だが率直に言うならば,もしも諸君がこの機会を逃せば,次の機会はあるまいと思う.
我が国の責務を果たすには,海軍力を増強し,港湾における艦船の安全を図り,陸上兵力においても同盟国の兵力に見合った規模を維持することが必要となろう.下院議員の紳士諸君,私はこれらの事項を事態の重要性から求められる関心と熱意をもって検討するよう諸君に望むものである.
同時に,諸君には〔金融上の〕公的信用についても注意を払うよう求めたい.信用とは,議会の保証を信じたものがばかを見ないという基本的な金言を忠実に守ることによってしか保ち得ないものなのである.
国民に負担を求めることはいつでも残念なことではあるが,私が望むのは決して個人的な出費のためでないことはわかってもらえると思う.私が求めているのは,今のように危機的な時局にあって,国民自身の安全と名誉のためにできることをしてほしいということだけなのだ.認められた支出はすべて意図された目的に使われることを約束しよう.
国民を分断し,その力を弱めている不幸にして致命的な敵愾心を諸君がわきにおいて一致団結することができたなら,それはイングランドにとってまたとない大いなる恵みとなるだろう.私自身も,すべての臣民が安全であり,私の命を狙うような最も重大な犯罪人に対してでさえも寛容の心を持つことができるようにしたいと思っている.私はこれまでも国民すべての共通の父たらんと望んでいることを示してきた.今後もそうした態度をとるつもりだ.諸君にも,同じように党派や対立はわきにおいてもらいたい.これから先は,我々のうちで区別立てをしないようにしよう.あるのはただ,誰がプロテスタントの信仰の,そして現体制の味方であり,そして誰がカトリックの君主,そしてフランスによる施政を求めるかということだけだ.
最後に付け加えよう.もし諸君が真摯にイングランドがヨーロッパの勢力均衡の鍵を握るのを見ようとするならば,そしてプロテスタントの利益の先頭に立とうとするならば,それは諸君が現在の状況に正しく対処することによって現出することであろう


翻訳にあたってのテキストは King William on French Question にあるものを用いたが,一部欠落があり他のサイトから補った.
(C) 2005.5. 友清理士; 訳文の最終修正日2005.5.4
革命の世紀のイギリス〜イギリス革命からスペイン継承戦争へ〜    歴史文書邦訳プロジェクト   

inserted by FC2 system