リチャード3世関連小説

The Tudor Rose (Margaret Campbell Barnes)

エドワード四世の死の直前からリチャード三世の治世・ヘンリー七世の治世の前半を,ヘンリー七世妃となったエリザベス・オブ・ヨークの視点から描く.
表の歴史の流れとエリザベスの心情とが,機知に富む会話もあって平板にならず,うまくかみあわさって描かれており,一読の価値があると思う.
リチャード三世は有能だが冷徹な為政者である一方,エリザベスに対しては危険だが魅力あるおじさまという側面も見せる.そんなリチャードに対し,夫となるヘンリー七世のほうは,紳士的ではあるものの,公私ともに実利的で,エリザベスにちょっといいことを言ってもすぐ計算づくな発言をしてぶちこわしにしてしまうという描き方になっている.
本作の真骨頂は,歴史的事件に対するエリザベスの心情のこまやかな描写だろう.リチャード三世の敗死を聞いたときの複雑な心境とか,ヘンリー七世との新生活にはいったときの,愛情を示そうとするエリザベスと礼節を保ちながらも他者からの愛情を受け入れようとしないヘンリーとのすれ違いがその好例.また,王位僭称者パーキン・ウォーベックとの対面の場面では,諸国の宮廷が本物と認知したこともなるほどと思わせるような人柄を二人の会話から見事に浮かび上がらせている.(扱う時期が重なるJean Plaidy, Uneasy Lies the Headでは単に政治的な理由で認知したといった程度の扱いになっている.)
政治状況の説明など単調にならざるを得ない部分も,単なる説明のための会話というレベルを超えて,いろいろな登場人物に語らせてうまくバリエーションをつけている.(ボズワースの戦いを現場にいた登場人物に語らせる場面も見事.)
ロンドン塔の二王子を,おっとりした兄ネッドと利発な弟ディッコンと性格分けし,エリザベスがディッコンに特に愛着があったという設定にしていることが,全編をエリザベスの視点で貫く軸になっている.
エリザベス王女はフランス王大使との婚約を破棄され,その数か月後,父王エドワード四世が急死した.成り上がりの王妃エリザベス・ウッドヴィルは,ラドローにいる皇太子エドワードをロンドンに連れてくるのに弓兵を使おうとしたが,高官たちの理解を得られなかった.王妃はグロスター公リチャードを警戒していたのだ.王妃はもともと多くの人から嫌われていた一方,グロスター公は常々王妃にも慇懃に接していたので,エリザベスにはそれほどの警戒が理解できなかった.だが,王妃は皇太子と次男のリチャードを分けておくことで両名の安全が図れる,つまり一方に危害を加えたとしても王位を簒奪するには不十分というのが持論だった.だが,王妃の不安は的中し,新王エドワードを迎えに行った弟リヴァーズ伯らはグロスター公によって投獄され,グロスター公が新王の身柄を確保してしまった.王妃は子供たちを連れて聖域に避難した.
だがそこにもグロスター公の兵が押し寄せて次男リチャードの引渡しを求めてくる.聖域には手を出せないが,司教らも引渡しを助言する.未成年は罪を犯すことがないから聖域は適用されないという理屈まで持ち出された.王妃はしぶしぶながら同意するが,その数か月後にはエドワードではなくグロスター公が戴冠する手はずになっていた.王妃より前にエドワード四世が結婚していたため,王妃の子らは庶子とされたのだ.しかも弟リヴァーズ伯らは処刑され,会議でグロスター公の即位に反対したヘースティングズも即刻処刑された.エリザベスの幼馴染のトマス・スタフォード〔架空の人物らしい;本作ではバッキンガム公も初老に設定されている〕から警告され,王妃の先夫との子ドーセットは王妃のもとを離れて海外に逃れることにした.エリザベスはしばらくスタフォードと二人で話すことができたが,兄たちの好きなグロスター公妃アンが上京すると聞いて喜んだのもつかの間,兄たちはロンドン塔の政治犯の部屋に移され,行動の自由も制限されていると聞かされた.しばしスタフォードに手をゆだねて慰められるが,すぐ王族としての覚悟を取り戻した.後日,リチャード三世の戴冠式が行なわれたが,そこには王子たちの姿はなかったという.
またスタフォードが王女たちに会いに来たが,聖域への人の出入りも制限されて食べるものにも困っていると聞き愕然とする.それでも,テムズに舟を出したとき,ロンドン塔の王子たちを見たと報告することでエリザベスを力づけることができた.王子たちの生死さえ心配するエリザベスに,スタフォードの父バッキンガム公や当初反対していたスタンレー卿がリチャードの王位を支持する際,王子たちの安全を約束させたと説明した.スタフォードはエドワード四世の死を知ってからエドワード五世をロンドンに護送するまでのリチャードを直接見ていたが,当時は兄の死を悲しみ,本気でエドワード五世を守り立てるつもりだったと証言する.
体調がすぐれなかった王妃エリザベス・ウッドヴィルはしぶしぶランカスター側のリッチモンド伯妃の侍医ルイスの診察を受けたが,診察よりも伯妃からの内密の申し入れに希望を見出して元気を取り戻した.ランカスター家のヘンリーとエリザベスを結婚させるというのだ.ヨーク王家の正統な王女との結婚はヘンリーの立場を強めることになる.王妃にとっても,すでに裏切ったリチャードよりは昨日の敵のヘンリーのほうがまだ希望があった.
ロンドン塔で幽閉状態の兄エドワードは絶望から投げやりになる一方,利発なリチャードはなんとか慰めを見出そうとしていた.そこにリチャードが会いに来たと思うと,獄吏に不吉なことを言い残して去っていった.
エリザベスは兄の服を着て聖域を抜け出して舟でロンドン塔の王子らを見ようと思ったが,その矢先,ロンドン塔の王子たちが殺害されたという話が飛び込んできた.単なる噂かとも思ったが,リッチモンド伯妃から遣わされた医師ルイスが王妃に報告しており,事実だった.リッチモンド伯妃はリチャードの側近の夫スタンレー卿から知らされたのだった.ほかにも獄吏のブラッケンベリーが一晩だけ任を解かれたこと,その晩,ジェームズ・ティレルという者がロンドン塔に向かったことなど状況証拠はあった.
錯乱状態だった王妃が鎮静剤で眠っている間,冷静に話を聞いたエリザベスは,兄弟の死で自分が正統なイングランド女王となったことも自覚し,ヘンリー・オブ・ランカスターが上陸してリチャードを殺した暁には結婚するというリッチモンド伯妃へのメッセージを託した.
リチャード三世に従って北部に向かっていたバッキンガム公は息子スタフォードから王子殺害の話を聞いた.放蕩癖のあったエドワード四世に比べリチャード三世の手腕を買っていたバッキンガム公は,息子がリチャードの私生児のことなどを取り上げても弁護するのだが,さすがに王子の様子をリチャードに問いただすことはできなかった.リチャードの様子は平生と変わらず,反リチャードだったイーリー司教のモートンを釈放してバッキンガム公に託すから,協力するよう説き伏せてほしいと依頼した.バッキンガム公は疑いを深めつつ,領地のブレックノックに引き下がった.その途上,リッチモンド伯妃マーガレット・ボーフォートにも会って息子ヘンリーへの協力を求められたが,伯妃は医師を派遣してエリザベスを懐柔しつつあることまでは伝えたが,すべてがモートンの計画であることまでは話さなかった.
館では逆にモートンのほうがバッキンガム公を説き伏せにかかった.モートンはリチャードの徳税撤廃などの人気取り政策もじきに資金不足で行き詰るのは目に見えていると諭す.ロンドン塔の二王子の話になると,王子の叔母であるバッキンガム公妃も話に加わって,赤ばらと白ばらの統合により平和をと訴える.それはテューダーのばら(Tudor Rose)だと渋るバッキンガム公もいつしか反乱の立案に乗り出していた.リッチモンド伯ヘンリーの反応も素早く,リチャードが察知できたのは決起の一週間前だった.だが,リチャードの迅速な対応に悪天候が加わって反乱は失敗に終わり,バッキンガム公は処刑された(トム・スタフォードは私権剥奪されたらしい).だがそれ以外に対してはリチャード三世の処分は寛大だった.
反乱後,リチャードはエドワード四世の娘たちを手元に置くことを強く求め,結婚相手も先王の庶子にふさわしいよう自分で決めると言った.反乱の失敗で意気消沈している王妃も同意した.
エリザベスはリチャード三世妃のアン・ネヴィルの優しさに慰められたが,二王子の話になると,アンは知らないの一点張りで,どこかで安全に保護されていると信じて疑わなかった.(アンがロンドンの下町に隠れていたときのことも語るが,クラレンス公を恐れて自分から身を隠し,ジェーン・ショアが気づいてエドワード四世に訴え出,リチャードが駆けつけてきて救出されたということになっている.)
リチャードはエリザベスと話したとき,自分は最初から王位を取るつもりではなかったのに,ウッドヴィル派のほうが皇太子の身柄を奪おうとしたり,これ見よがしに聖域に避難したりするから態度を変えざるを得なかったと説明する.エリザベスは王子たちに何をしたのだと言ってリチャードの胸をたたくが,リチャードは国のために最善のことをしたと突っぱねる.あとで,エリザベスはその件をリチャードにあえて問いただしたのは自分が初めてだったのではないかと実感した.リチャードは特に罰したりはしなかったが,エリザベスが憎悪するスティリントン司教の庶子と結婚させることをほのめかす.心配になったエリザベスは「スタンレーおじさん」に相談するが,スタンレーは「グロスター」はそこまでプランタジネットの名をおとしめるつもりはないと安心させる.
(1484年)4月,エドワード四世の命日にリチャード三世と王妃アンの一人息子が亡くなった.まるで王子が殺されたと聞いたときのエリザベス・ウッドヴィルの呪いが成就したかのようだった.そのころからリチャードの王女エリザベスに対する態度がやさしくなった.クリスマスには王妃と同じ衣装をエリザベスに用意した.翌春,アンも亡くなった.
リチャードとエリザベスは舞踏会の場で二人だけで「俺に触れられるのを避けるのは兄弟たちを殺したからかな」「そんなこと言うなら二人に会わせてよ」などと言い合うほど気安くなっていた.そのうちリチャードはエリザベスに結婚を申し込む.リチャードは無理強いまではしなかったが,エリザベスとしても時間がほしいというのがやっとだった.
エリザベスはスタンレーにバッキンガム公のように決起してほしいと求める.スタンレーはそれ自身は否定せずに,リッチモンド伯ヘンリーのほうも慎重だから,イングランド国内で誰がどのくらいの兵を集めるといった約束を取り付けなければ挙兵はできないと説明する.誓詞を送るにも,スタンレーは(当時の他の貴族も似たり寄ったりだが)文字が書けないのだった.もちろんそんな重大なことを書記に書かせるわけにはいかない.エリザベスは自分が書いてやると言い,スタンレーもその申し出を受けた.ロンドンの居酒屋に抜け出してランカスターへの同調者の誓詞を手配して帰るエリザベスは,もし兄が生きているとしたら,自分がその王位をランカスター家に渡すことに加担したことになると悩む.宮殿に帰って気づかれぬうちに部屋に戻ろうとする途中,エリザベスは暗がりの中でリチャードにばったり会ってしまった.だがリチャードは,エドワードの服を着たエリザベスをエドワードの亡霊と思っておびえたように逃げていった.エリザベスは王子たちが殺されたことを確信し,もはや迷いはなくなった.
エリザベスとの結婚を企んでいるという噂を否定するため,リチャードはエリザベスをスタンレー卿の館に送り(そこでヘンリーの母リッチモンド伯妃から話を聞いた),さらには北部のシェリフ・ハットン城に送った.
ランカスター派の侵攻に備えるなか,スタンレー卿は体調を理由に領地に帰ることを願い出たが,リチャードは職責の代行のためとして息子を宮廷に残すことを要求した.
ランカスター軍の上陸がミルフォードと聞いてリチャードは南部のミルフォード港を警戒したが,上陸したのはウェールズのミルフォード・へイヴンだった.
エリザベスのもとにヘンリーの戦勝報告が届いた.リチャードの死に様を聞いたエリザベスは,リチャードは一人で一軍を相手に戦っていたようだとリチャードを称えるようなコメントをしてしまったが,慌てて今度は自分が殺される番になってどう感じたでしょうね,と言いなおすのだった.
どちらが勝っても,エリザベスは勝者の王妃になる宿命だった.だが,戴冠式が済んでもヘンリー七世はエリザベスとの結婚を進めようとしない.ウェールズの王族の子孫であるヘンリーは,(イングランド王位のような)近代の称号は不要と断言し,征服者としてイングランド王位についたのであり,エリザベスの血筋は必要ないとの立場を明確にした.
エリザベスは,リチャードに父バッキンガム公を処刑されランカスター側で参戦したトム・スタフォード,スタンレー卿の裏切りを防ぐためにリチャードの人質となっていたジョージ・ストレンジらからボズワースの戦いの詳細を聞き,叔父リチャードの悲惨な末路を聞いて,平和な国を築く決意を新たにするのだった.
冬になってようやくエリザベスとヘンリーの結婚式が行なわれた.政略結婚だと理解しつつも,ヘンリーのことを窮地から救い出してくれる騎士のように空想することをやめられないエリザベスはヘンリーとの会話で,礼節を保ちつつも計算づくな夫の態度に,テューダーのばらが縫い付けられた枕に涙するのだった.
エリザベスはすぐにも妊娠し,ヘンリー七世やその母リッチモンド伯妃は,テューダー家の祖先とされるアーサー王にならってウインチェスターで出産することを決めた.宿下がりの際にも北部平定に向かうヘンリーを案じるエリザベスだったが,ヘンリーはエリザベスの愛情を受け止めようとはしなかった.そして生まれた王子はアーサーと名づけられた.
エリザベスとヘンリーは,テムズ河畔の館を改修してリッチモンド(宮殿)と命名し,新居とした.王子誕生の際に約束された王妃の戴冠が一向に行なわれないことに母エリザベス・ウッドヴィルは腹を立て,かつてリチャードにしたようにヘンリーを罵り,ヘンリーの不在中にラヴェル(ボズワースの戦いで最後までリチャードに付き従ったが赦免された),リンカン伯(リチャードの甥)らと密談をめぐらせていた.いとこのウォリックはロンドン塔に収監され,何週間も公に姿を見せていなかったが,エリザベス・ウッドヴィルはリチャードが王子たちを殺したように,ウォリックも処分したのだろうと言う.
折りしもヘンリーは僭称者の対処にかまけていた.僭称者は最初はロンドン塔で殺害されたヨーク公,次いで収監中の身であるウォリックを名乗るが,ヘンリーはパン屋の息子ランバート・シムネルであるとの情報を得ていた.ヘンリーはロンドン塔のウォリックの姿を見せることで僭称者が偽物であることを暴き,ストークの戦いで勝利し,ラヴェルやリンカン伯は戦死した.だが首謀者でなかったシムネルは王位を僭称したにもかかわらず処刑されず,厨房で下働きとされた.エリザベスはヘンリーは愛することも憎むこともできない人間なのかと思うのだった.
シムネルの乱の片がついて,エリザベスは王妃として戴冠した.行事はヘンリー自身の戴冠式より華やかなものだったが,ヘンリーの愛情に欠けるコメントはいちいちエリザベスの喜びに水を差すのだった.エリザベスは,かつてリチャードが,自分以外の男と結婚したら別の形の残酷さを知るだろうと言ったことを思い出さずにはいられなかった.入念に身ごしらえをしてヘンリーを待った夜にすっぽかされたエリザベスは,翌晩,寝室にやってきたヘンリーを罵って追い返してしまった.
エリザベスはリッチモンド伯妃と話して,国のためだと納得することにした.ヘンリーのほうも仲直りの印に道化を贈ってくれて,パッチと名づけた.
まもなく王女が生まれ,義母にちなんでマーガレットと名づけた.
妹たちが結婚し,叔母〔エリザベス・ウッドヴィルの妹〕がジャスパー・テューダーと結婚し,トム・スタフォードはブルターニュの継承者との結婚が提案された.やがて次男ヘンリーが生まれた.エリザベスはトム・スタフォードと結婚していたらと空想することもあったが,今ではヘンリーの堅実な政策を理解するようになっていた.ヘンリーは国民が求めるフランスとの戦争を回避するために腐心する一方,フランスがブルターニュに侵攻したときには自ら出兵して食い止めた.だが,その後フランス王シャルルはブルターニュ継承者と結婚することで実利を得てしまった.
ヨーク公リチャードを名乗る僭称者がアイルランドに地歩を固めていた.ヘンリーがフランスに行ったときはフランス宮廷にまで受け入れられていたが,その後,フランスは条約に従って追放した.だが,僭称者はエドワード四世の妹であるブルゴーニュ公妃のマーガレットによって本物と認められてしまった.
ヘンリーはシムネルのときは本物のウォリックを見せることで簡単に僭称者を偽物と証明することができたのに,ヨーク公についてはそうもいかないと嘆く.そして無神経にもエリザベスに,君の一族で王子たちがどこに埋められたのか誰も知らないのかと尋ねるのだった.
エリザベスは王の不興を買って修道院で死の床にある母エリザベス・ウッドヴィルのもとを訪ねて,弟リチャードが生きている可能性はないのかと尋ねるが,母は,リチャードが一人を助けるような中途半端なことをする可能性はないと確信していた.僭称者を直接見た人がエドワード四世に似ていたと言っても,母はエドワードはあちこちで私生児を産ませていたから不思議はないとにべもなかった.そしてまもなく,ヘンリーの執拗な調査により,関係者のジェームズ・ティレルが自白し,王子たちが確実に殺されたことが判明した〔ティレルの自白を記述しているトマス・モアによるとこれは後年のこと〕.こうして王位の基盤を固めて,ヘンリーは長男アーサーとスペイン王女との結婚話を進めるつもりだった.だが,王子が生きていることを望む人々は多く,噂を打ち消すことはできなかった.エリザベス自身も,どこか僭称者が本物であってほしいと思う気持ちがあるのだった.
僭称者がパーキン・ウォーベックという者であることがわかった.だがスコットランド王はウォーベックを宮廷に迎え,王女と結婚させた.スコットランドからの侵攻に備えての徴税にヘンリーの人気は下がる一方だったが,イングランドに上陸したウォーベックの軍勢はすぐ打ち負かし,スコットランド王とも和解し,長女マーガレットがスコットランド王に嫁ぐことになった.
エリザベスはかつて厨房から鷹匠に取り立ててやったシムネルの協力でウォーベックが捕らわれている庭に忍び込むことができた.ウォーベックはたしかに王族のような気品があり,エリザベスもシムネルのときのように一蹴にすることはできなかった.ウォーベックは自分の僭称を否定も肯定もしないが,エリザベスは以心伝心で語り合える感覚を覚え,自分の夫婦関係のことまで話してしまう.ウォーベックの僭称を信じることはできないまでも,ウォーベックの人格は信頼して,エリザベスは庭の鍵をかけずに去る.
ウォーベックは逃走したが捕らえられ,ロンドン塔でウォリックの近くに収監された.ウォーベックはウォリックとともにロンドン塔を逃げ出そうとするところを捕らえられ,両名とも処刑された.ウォリックの死によってヘンリーの王位は磐石になり,スペインとの縁組が進められた.ヘンリーはウォーベックを利用して邪魔者のウォリックを排除したかのようだった.エリザベスはその後,ヘンリーが間接的に両名の脱獄を促したことを知って愕然とする.
アーサー王子とキャサリン・オブ・アラゴンが結婚したが,アーサーはまもなく急死した.エリザベスとヘンリーはつかの間,悲しみを共有して心が通じ合ったかと思ったが,実利的なヘンリーはすぐにキャサリンの持参金やスペインとの同盟のことを考え出すのだった.
寡婦となったキャサリン・オブ・アラゴンを慰めるために,ウォーベックの妻であったスコットランド王女のケイトと話していたエリザベスは,ウォーベックが門の近くまで来たときに猛獣の檻を開けに行って追っ手を混乱させたと話した.エリザベスはウエストミンスター寺院の聖域を出て行く弟にライオンを忘れないでと話したことを思い出して失神する.
エリザベスはまた妊娠していた.ヘンリーは次の出産はロンドン塔でと言う.環境が悪くて死んでしまうという妹に,エリザベスは,ヘンリーがキャサリンを手放さないために自ら結婚するため,それが目的なのではと勘ぐる.だがまもなく,ヘンリーは,キャサリンを次男のヘンリーと結婚させることでスペイン王室と話がついたと言ってきた.
エリザベスは,赤ばらと白ばらを統合したテューダーのばらのもとに国が栄え,次男ヘンリーが次の国王として頼もしく育ちつつあることに満足を覚えるのだった.


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