リチャード3世関連小説

Dickon (Gordon Daviot, 1953)

『時の娘』でリチャード三世の名誉回復を広めたあのジョゼフィン・テイが晩年に変名でリチャード三世善人説に立って描いた戯曲.第1幕はエドワード4世の死の直前からリチャード三世即位の直前までを,第2幕はリチャード三世時代を扱う.リチャードの信頼を受けながら裏切ったヘースティングズ,バッキンガム,スタンレーに脚光を当てることですっきりした一貫性を出せている.
各場面の概要は以下の通り.
第1幕第1場
1483年初頭,エドワード4世が夕食後にバッキンガム公,ヘースティングズ卿,エドワード王子,王子の教育係リヴァーズ卿,王妃エリザベスらと歓談する.遅れてきたグロスター公リチャードが王子を得意のゲームで負かすが,王子は負けても潔く,教育係に連れられて退出する.王妃はバッキンガム,ヘースティングズのエスコートで退出するが,反目しあうヘースティングズのことも「互いによく思っていないというのも一つのきずな」と言って受け入れる.王女エリザベスがはいってきて,リチャードに伴われて退出.
エドワードはリチャードと政治的意見が異なった際,二人の違いを端的にこう表現する.「お前は人はみな正直者だと思っていてそれが悪人だとわかると激怒する.私は人はみな悪人だと思っていてそれが正直者だとわかるとうれしくなる」
第1幕第2場
4月,リチャードが北部のミドラムで妃アンと過ごしていると,エドワード4世の訃報が届く.さらにバッキンガムが駆けつけ,ウッドヴィル一族が2000の兵で皇太子エドワードをロンドンに護送し,護国卿のリチャードをさしおいて勝手に戴冠式を進めようとしていると知らせる.だが,リチャードは2000の兵を伴ったことで動きが鈍くなると指摘し,ウッドヴィル一族にはちっぽけな陰謀がせいぜいだと余裕を見せる.
第1幕第3場
4月末,リヴァーズ卿らは少年王を早くロンドンで戴冠させようとストーニー・ストラトフォードまで来ていたが,リチャードが追いつく.そしてウッドヴィル一族の罪状を数え上げ,逮捕を宣言する.リヴァーズは2000の兵を擁していたが,人望のあるリチャードはすでに事情を説明して味方につけてあった.
第1幕第4場
リチャードを恐れて聖域にはいったエリザベス王妃は,イーリー司教ジョン・モートンの訪問を受け,エドワード4世が王妃より先にエリナー・バトラーという女性と結婚していたため,少年王は庶子であるという事実をバース司教スティリントンがリチャードに打ち明けようとしていることを知らされる.王妃はその事実は知っていたが,息子の将来のためにかつての仇敵ヘースティングズと手を結ぶことを了承する.三人はとりあえず議会開会を取り消してスティリントンの告白を阻止する時間を稼ごうとする.
第1幕第5場
枢密院の席上でリチャードはヘースティングズを断罪する. 証拠のないモートンはバッキンガム公の観察下に置くことにして言う.「かねがね計画していた我々の時代の歴史を書く時間もできるだろう.俺がどう描かれるかと思うとぞっとするね」
ヘースティングズが剣を抜いたときに呼応しなかったスタンレーは赦免されたが,リチャードは,陰謀は許せるが,ヘースティングズを見捨てたことは許せないと心情を述べる.
王子たちが庶子とわかったことで,リチャードが国王に即位する見込みとなり,エリザベス王妃も少年王の弟を聖域から出すことも承知すると思われた.

第2幕第1場
リチャード三世は善政に感謝する民から贈り物が相次ぐがみな断ってしまう.バッキンガムは重臣に回してくれればいいのにとぼやく.さらに,リチャードが息子の嫁にスペインの王女を迎えようとしていると知ると,我が娘をと考えていたバッキンガムは反発する.
捕虜の身のモートンはリチャード三世の廃位を勧め,バッキンガムが反発しても,「[考えを口にするのは]囚人に残された最後の自由.それに,輝く八月の午後に謀反を語るのは堪えられん.…斧を首のあたりに感じると陽光もひときわまぶしく感じるものだ」などと悪びれもしない.スタンレーが来るとモートンはスタンレーの義息ヘンリー・テューダーの来寇を話題にするが,スタンレーも一族のことを考えねばならないとして敬遠する.
第2幕第2場
反乱に失敗したバッキンガムが捕らわれるが,処刑前のリチャードとの最後の面会さえ認められない.スタンレーはバッキンガムの軍察長官の地位をリチャードから提供される.リチャードは,ヘースティングズの一件では有罪の証拠があったがあえて見逃した,バッキンガムの乱に加担しなかったことで忠節は証明されたと話す.スタンレーの妻マーガレット・ボーフォートは無罪というわけにはいかないが,リチャードは軍察長官に預けることで穏便にすませることを申し出たのだった.
第2幕第3場
1484年,ノッティンガム.王妃アンがエリザベス王女と話している.アンは下町の厨房で働かされたときのことを話す.エリザベスはスティリントンの告白で庶子だとわかったおかげで身分目当ての求婚者がいなくなるとさばさばしている.そこにリチャードとアンの息子エドワードの死の報せがミドラムから届く.
第2幕第4場
1485年春.フランスの支援を受けたヘンリー・テューダーのイングランド侵攻は必至と思われていた.リチャードは戦いは恐れなかったが,長引く警戒態勢は財政を圧迫していた.
妃アンが死に,リチャードが毒殺したという噂に続いて,リチャードが姪のエリザベスと結婚しようとしているという噂が立つ.リチャードはエリザベスをヨークシアに行かせることにし,エリザベスは名残りを惜しんだ.
第2幕第5場
ボズワースの戦いを前にリチャードとフランシス・ラヴェルが話している.リチャードはスタンレーが自軍と敵軍の中間に陣を張っていることに気づき,どちらに付くか態度を決めかねていると見透かしている.状況は有利だが,戦いに負ければ「永遠の汚名」が自分を待っている言い,モートンが勝者ヘンリーのために何を書くことかと嘆いてみせる.
ラヴェルは万一のときには名誉ある後退という道もあると指摘するが,リチャードはヘンリーのように丘の上から傍観するつもりはなく,この一戦で決着をつける意気込みを語る.


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