歴史小説でたどる英国史(など)

イギリスを中心に歴史小説を紹介します.

古代

Tim LaHaye and Jerry B. Jenkins, Luke's Story: The Jesus Chronicles
聖書の『ルカ伝』と『使途行伝』の著者とされるルカを主人公にした小説.

Taylor Caldwell, Dear and Glorious Physician
聖書の『ルカ伝』と『使途行伝』の著者とされるルカを主人公にした小説.

●Emmanuel Carrère, Le Royaume (2014)
キリスト教成立初期の歴史を,熱烈に異国に布教活動をするパウロとイエスの穏健な弟子たちとの確執をルカが冷静に見つめるという形で描く大作だという.ちょうど上記2冊を読んだときに,2014年11月16日の朝日新聞別刷GLOBEのG-13面で本書がフランスでベストセラーになっていると知った.未読だが,歴史的真実の再構成をするという態度を取っておりルナンの『イエスの生涯』にも依拠しているというので,私の興味の方向に一致する.amazon.frの読者レビューを拾い読みしたところ,全体的には高い評価が多いものの,脱線の多さについていけないという読者も少なからずいるようだ(特に,冒頭150ページで著者自身がかつて熱烈なカトリック信者でありながら信仰を捨てたという心の遍歴が詳述されるらしい).実は私も上記のCaldwellの作品を読みはじめたとき,聖書に全く関係ないルカの家族などの物語が語られるのに同じような感覚を覚えたが,読んでいくうちにだんだん引き込まれていった.さて,本作はどうだろうか.邦訳が出たら読んでみたい.

中世

●Noel B. Gerson (aka Samuel Edwards), The Conqueror's Wife
ウイリアム征服王の妃の話らしい.

●Margaret Campbell Barnes, The Passionate Brood
リチャード獅子心王の話らしい.

●Margaret Campbell Barnes, Isabel the Fair
エドワード2世妃イザベラ・オブ・フランスの話らしい.

●Margaret Campbell Barnes, Within the Hollow Crown
リチャード2世の話らしい.

リチャード三世・ばら戦争

「リチャード3世&ばら戦争・関連小説」参照.

16世紀

●Margaret Campbell Barnes, The King's Fool
ヘンリー8世時代の話らしい.

●Margaret Campbell Barnes, Brief Gaudy Hour
アン・ブーリンの話らしい.

Margaret Campbell Barnes, My Lady of Cleves
ヘンリー8世の4番目の妃クレーフェのアンの物語.

A.C.H. Smith, Lady Jane
「九日間の女王」ジェーン・グレーを描いた映画のノベライズ.

17世紀

Margaret Campbell Barnes, Mary of Carisbrooke
ワイト島でのチャールズ一世と王党派の活動を描く.

Samuel Edwards (aka Noel B. Gerson), The White Plume
イングランドの大内戦時に王党派の騎兵を率いて活躍し,王政復古後は提督,のち海軍トップにまでなるルーパート王子の話.

Margaret Campbell Barnes, With All My Heart
チャールズ二世妃キャサリン・オブ・ブラガンサの物語.

Jean Plaidy, The Pleasures of Love
チャールズ二世妃キャサリン・オブ・ブラガンサの物語.

●Margarett Campbell Barnes & Hebe Elsna, The Lady on the Coin
チャールズ二世の愛妾フランシス・ステュアートの話らしい.Wikipediaによれば他にKathleen Winsor, Forever Amber (1944), Doris Leslie, The Sceptre and the Rose (1967), Maeve Haran, The Painted Lady, Marci Jefferson, Girl on the Golden Coinがあるという.

Samuel Edwrads (aka Noel B. Gerson), The Queen's Husband
名誉革命でイギリス王位についたオレンジ公ウイリアムとその妃メアリーの物語.

アメリカ

●Noel B. Gerson (aka Samuel Edwards), Daughter of Eve
ポカホンタスの話らしい.

●Noel B. Gerson (aka Samuel Edwards), Old Hickory
アンドルー・ジャクソンの話らしい.

ジーン・プレイディーの作品

ジーン・プレイディー(1906-1993;本名エリナー・ヒバート)はいくつかのペンネームのもとに200作近い作品を残し,歴史小説だけでも数十を数える (Wikipedia, Alreighさんのサイト).以下,歴史小説に限ってリストしておくが,大昔に読んだ記憶に基づいて書く部分もあることをお断りしておく.
刊行されたタイトルを年代順に見てみると,1961年まではルクレツィア・ボルジア,フェルナンド&イサベラ,ヘンリー八世,エリザベス女王とレスター伯,メアリー・ステュアート,チャールズ二世の妃と愛妾,マリーアントワネットなど,イギリスに限らずポピュラーな人物を書いていたが,その後,英国王室史に絞ってその間を埋めるようにテューダー朝,ステュアート朝,ジョージ朝(1967-1972)と書き進め,ヴィクトリア女王の生涯(1972-1974)を書き終えた段階で,ノルマン朝三部作(1974-1976),プランタジネット・サーガ(1976-1982)に取り組んで英国史全体をつなげ,晩年にクイーンズ・オブ・イングランド・シリーズ(1983-1993)を書いたという流れが見える.

ノルマン朝三部作

The Bastard King (1974)
ウイリアム征服王の話.

The Lion of Justice (1975)
ウイリアム征服王の三人の息子であるノルマンディー公ロベール,ウイリアム赤顔王,「公正の獅子」ヘンリー一世の話.

The Passionate Enemies (1976)
ヘンリー一世の娘マティルダと甥スティーヴンの愛憎を描く.Ken Follet, The Pillars of the Earthも同じ時代を扱っている.

プランタジネット・サーガ

The Plantagenet Prelude (1976)
フランス王妃からイングランドのヘンリー二世妃となったアリエノール・ダキテーヌの話らしい.

The Revolt of the Eaglets (1977)
息子たちの反乱に悩まされたヘンリー二世の晩年の話らしい.

The Heart of the Lion (1977)
リチャード獅子心王の話らしい.

The Prince of Darkness (1978)
ジョン王の話らしい.

The Battle of the Queens (1978)
ジョン王の妃でヘンリー三世の母イザベラと,フランスのルイ九世の妃ブランシュの話らしい.

The Queen from Provence (1979)
ヘンリー三世妃エリナーの話らしい.

Edward Longshanks (1979) (The Hammer of the Scotsとして再刊)
エドワード一世の話らしい.

The Follies of the King (1980)
同性愛にかまけ殺害されたと噂されたエドワード二世の話らしい.

The Vow on the Heron (1980)
百年戦争を開始したエドワード三世の話らしい.

Passage to Pontefract (1981)
早世したエドワード黒太子とその子リチャード二世やジョン・オブ・ゴーントの話.ばら戦争の源流.

The Star of Lancaster (1981)
ヘンリー四世妃メアリーのロマンス,ヘンリー四世によるリチャード二世の廃位とその治世,ヘンリー五世の生涯を扱う.

Epitaph for Three Women (1981)
ヘンリー五世に先立たれた妃キャサリン・オブ・ヴァロワ,幼いヘンリー六世の次の王位をねらうグロスター公妃エリナー,ジャンヌダルクの物語

Red Rose of Anjou (1982)
ヘンリー六世妃の生涯を軸にばら戦争の発端からテュークスベリーの戦いまでを描く.

The Sun in Splendour (1982)
ばら戦争後半戦の通史.

テューダー・サーガ

Uneasy Lies the Head (1982)
ばら戦争で生き残った登場人物たちの「その後」とヘンリー八世の少年時代を描く.

Katharine, the Virgin Widow (1961)
キャサリン・オブ・アラゴンがヘンリー七世の皇太子アーサーと結婚したが皇太子の死によりのちにヘンリー八世妃となるいきさつを,狂女王フアナとしても知られるその姉もからめて描く話らしい.

The Shadow of the Pomegranate (1962)
キャサリン・オブ・アラゴンがヘンリー八世妃となってから王の愛妾が私生児を挙げるころ(1519)までを,夫ヘンリー八世と父であるスペイン王(1516没)の板ばさみになる境遇もからめて描くらしい.

The King's Secret Matter (1962)
ヘンリー八世がアン・ブーリンを見初めてからの王妃キャサリン・オブ・アラゴンを描くらしい.

Murder Most Royal (1949)
ヘンリー八世の二番目の妃アン・ブーリンと五番目の妃キャサリン・ハワードの話らしい.

Saint Thomas' Eve (1954)
トマス・モアの話らしい.

The Sixth Wife (1953)
ヘンリー八世の六番目の妃キャサリン・パーの話らしい.

The Thistle and the Rose (1963)
ヘンリー八世の姉でスコットランド王に嫁いでメアリー・ステュアートの母となるマーガレット・テューダーの話らしい.

Mary, Queen of France (1964)
ヘンリー八世の末の妹メアリーの,政略結婚で嫁がされた老いたフランス王との短い結婚生活と,チャールズ・ブランドンとの愛を描くらしい.このメアリーについては,上記のMargaret Campbell Barnes, My Lady of Clevesで回想として少し言及されていたが,非常に印象的だった.

The Spanish Bridegroom (1954)
フェリペ二世と三人の妃(二番目がメアリー・テューダー)の話らしい.

Gay Lord Robert (1955) (Lord RobertA Favorite of the Queenとしても再刊されている)
エリザベス女王との仲が取り沙汰されたレスター伯ロバート・ダッドレーの話.

メアリー・ステュアート・シリーズ

Royal Road to Fotheringhay (1955)
The Captive Queen of Scots (1963)

ステュアート・サーガ

The Murder in the Tower (1964)
ジェームズ一世の皇太子ヘンリーの愛人フランセス・ハワードの話らしい.

The Wandering Prince (1956)
チャールズ二世の前半生を,ルーシー・ウォーター(モンマス公の母)と妹ミネットを中心に描く.

A Health Unto His Majesty (1956)
チャールズ二世の治世を愛妾ネル・グイン,ルイーズ・ド・ケルアルらを通して描くらしい.

Here Lies Our Sovereign Lord (1957)
チャールズ二世の治世を妃キャサリン・オブ・ブラガンサと愛妾カスルメーヌ伯夫人を通して描くらしい.

The Three Crowns (1965)
オレンジ公ウイリアムとその妃メアリーが名誉革命で王位につくまでを描く.

The Haunted Sisters (1966)
名誉革命からウイリアム三世の死までを,王位を追われるジェームズ二世の娘アンを中心に描く(姉メアリーはThe Three Crownsで扱われる).アンの周辺の主要人物に焦点が絞られており,歴史的事件の展開と宮廷の人物像のバランスがよく取れており,名誉革命の過程の詳細についても,忠実に史実を追う作者のいつものスタイルが手堅い成功を収めている例といえる.

The Queen's Favourites (1966)
スペイン継承戦争の時期と重なるアン女王の治世を,サラ・チャーチル,アビゲイル・マサムといった寵臣を中心に描く.

ジョージ朝(ハノーヴァー朝)サーガ

The Princess of Celle (1967)
イギリスにハノーヴァー朝を開くジョージ一世の父エルンストがその兄ヴィルヘルムと時に争いながらもハノーヴァー家の礎を築くいきさつから,ジョージ一世妃のスキャンダルまでを描く.

Queen in Waiting (1967)
ジョージ二世妃キャロラインの前半生を描く.ドイツの小国アンスバッハに生まれたキャロラインは幼くして父母を喪くすが,聡明な女性に育ち,軽薄で見栄っ張りのハノーヴァーの太子ジョージと結婚することを受け入れるものの,表向き夫に立てつつ,内実は主導権を握る.ハノーヴァー家によるイギリス王位継承をはさんだ微妙な政治情勢のなか,イギリスの政治家たちもキャロラインの力量に気づき,キャロラインは彼らの協力も得て太子と不仲の父との対立を乗り越え,夫が国王となる日に備える.初めて読んだジーン・プレイディー作品でもあり,主人公のキャロラインはもちろん,その夫も含め登場人物が魅力的で,ジーン・プレイディーの作品の中で私が最も好きなものの一つ.

Caroline, the Queen (1968)
ジョージ二世が即位したあとの妃キャロラインの後半生.ジョージ二世が父王と不仲だったように,皇太子も両親に反抗し,野党と結託して困らせる.晩年,ジョージ二世の安否がわからなくなったときに,日ごろ見下していた夫に対する愛に目覚める場面にぐっときた記憶がある.

The Prince and the Quakeress (1975)
ジョージ三世が国王になる前に恋したハンナ・ライトフットの物語.史実がほとんどわかっていないので,大半が創作だという.

The Third George (1969)
ジョージ三世とその妃シャーロットの物語.祖父の死により若くして王位についたジョージ三世はよき夫,よき国王になろうと決意していたが,ドイツから輿入れしてきた妃は不美人で,アメリカは独立してしまうし,皇太子を筆頭に息子たちは放縦で……と災難が続き,精神に異常をきたしてしまう.ジョージ朝サーガでは議会政治についての言及も多いが,本作ではアメリカ人を擁護する論陣を張ったチャタム伯ウイリアム・ピットが印象的だった.

Perdita's Prince (1969)
ジョージ四世の皇太子時代の愛人の一人メアリー・ロビンソン(パーディタ役で人気を博した女優)の話らしい.

Sweet Lass of Richmond Hill (1970)
伊達者のプレイボーイだった皇太子時代のジョージ四世が熱烈にフィッツハーバート夫人に求愛する話.ファッションにうつつをぬかし,放蕩を尽くしたジョージ四世の評価はあまり高くないが,本作での純愛ぶりでは愛すべき人物と思えた.

Indiscretions of the Queen (1970)
ジョージ四世妃キャロラインの物語.そこそこの美人なのになぜか夫は一目見たときから毛嫌いして,娘シャーロットができたら務めは果たしたとばかり寄り付かなくなる.反発するキャロラインは突飛な行動を繰り返す.

The Regent's Daughter (1971)
摂政時代のジョージ四世の一人娘シャーロットの物語.シャーロットはファッション界のリーダーである父の皇太子を誇りに思っているが,皇太子のほうは妃を思い出させる娘のことを好きになれなかった.そんな父に反発を感じつつも,普通の父娘のようにうちとけたいと願わずにはいられない.ナポレオン戦争のさなか,政治的事情で父がやさしくしてくれると,ポーズだとはわかっていてもやはりうれしい.そんなシャーロットもついにドイツの小国の青年と恋に落ちるが―― ヒロインの境遇とその葛藤が切なくて,ジーン・プレイディーの作品の中で私が最も好きなものの一つ.

Goddess of the Green Room (1971)
摂政の弟クラレンス公の愛人ドロシー・ジョーダンの話.

Victoria in the Wings (1972)
皇太子(摂政)の一人娘が急死して直系の王位継承者がいなくなったことで皇太子の弟クラレンス公が急遽結婚したヴィクトリア(ヴィクトリア女王の母)の物語.

ヴィクトリア女王四部作

The Captive of Kensington Palace (1972)
ヴィクトリア女王の少女時代
The Queen and Lord M (1973)
ヴィクトリア女王とメルバーン卿
The Queen's Husband (1973)
ヴィクトリア女王とアルバート公
The Widow of Windsor (1974)
ヴィクトリア女王の晩年

クイーンズ・オブ・イングランド・シリーズ

イングランドの女王・王妃の生涯を一人称で語るシリーズ.
Myself My Enemy (1983)
チャールズ一世妃ヘンリエッタ・マライアの物語.

Queen of This Realm (1984)
エリザベス女王の物語.

Victoria Victorious (1985)
ヴィクトリア女王の物語.

The Lady in the Tower (1986)
アン・ブーリンの話.

The Courts of Love (1987)
アリエノール・ダキテーヌの話らしい.

In the Shadow of the Crown (1988)
メアリー・テューダーの話.

The Queen's Secret (1989)
ヘンリー五世の未亡人となって再婚したオーエン・テューダーとの間の孫がヘンリー七世としてテューダー朝を開くキャサリン・オブ・ヴァロワの話.

The Reluctant Queen (1990)
リチャード三世妃アンの物語.邦訳『リチャード三世を愛した女』.「リチャード三世」といえばシェークスピアの悪逆非道なイメージしか浮かばない人には,それと対極的な本書のようなリチャード三世善人像も一興だろう.

The Pleasures of Love (1991)
チャールズ二世妃キャサリン・オブ・ブラガンサの物語.

William's Wife (1992)
オレンジ公ウイリアムの妃でもあるメアリー二世の物語.

Rose Without a Thorn (1993)
キャサリン・ハワードの話.

ルクレツィア・ボルジア・シリーズ

Madonna of the Seven Hills (1958)
Light on Lucrezia (1958)

イサベル&フェルナンド三部作

スペインを統一した女王イサベルと国王フェルナンドの話.
Castile for Isabella (1960)
Spain for the Sovereigns (1960)
Daughter of Spain (1961)

カトリーヌ・ド・メディチ三部作

Madame Serpent (1951)
The Italian Woman (1952) (The Unholy Womanのタイトルでも刊行された)
Queen Jezebel (1953)

フランス革命三部作

Louis the Well Beloved (1959)
The Road to Compiegne (1959)
Flaunting, Extravagant Queen (1957)

その他

The King's Pleasure (1949)
アン・ブーリンの話らしい.

The Goldsmith's Wife (1950) (aka The King's Mistress)
リチャード三世に対する謀反の連絡役を務めたとして処罰されるジェーン・ショアの物語.ヘースティングズの純粋ぶりがかっこよく,その最期も印象的.「ジェーン・ショア」「ヘースティングズ」の名前にぴんとくる人にはおすすめ.

Defenders of the Faith (1971)
ヘンリー八世の晩年からメアリーの治世のイングランドとスペインを舞台とする架空の話らしい.

The Scarlet Cloak (1957)
フェリペ二世のスペインでの宗教裁判,フランスでのユグノー弾圧,イングランドでの反カトリックといったカトリックとプロテスタントの抗争を背景に,スペイン人主人公の活躍を描くフィクションらしい.

This Was a Man (1961) (The King's Adventurerとして再版)
ポカホンタスの話らしい.

Evergreen Gallant (1965)
フランスでブルボン朝を開いたアンリ四世の話らしい.

The Queen of Diamonds (1958)
マリーアントワネットの首飾り事件の話らしい.

Madame du Barry (1959)
『ベルサイユのばら』でもおなじみのルイ十五世の愛妾デュバリー夫人の話らしい.

Milady Charlotte (1959)
イギリスの女優シャーロット・ウォルポールがマリーアントワネットを救おうとする物語らしい.



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