リチャード3世関連小説

The Sunne in Splendour (Sharon Kay Penman, 1982)

シャロン・ケイ・ペンマンによる,原書で900ページを超える大作.作者が「ウインザーを舞台にするとすれば登場人物がその日にウインザーにいたとわかっているときだけ,水曜日と言えば実際に水曜日であったことを確認している」と断言するだけあって,全体的に緻密な描写に満ちている.(ただし,捕囚になったエドワード4世とウォリック伯の対面シーンの舞台をミドラムにしたことなど,dramatic license[劇作上の特権]もあることは作者も自認している.)もちろん,リチャード3世をめぐっては決定的な史料の不足から毀誉褒貶の論争が激しいのであるが,そうしたさまざまなミステリーも,学者の研究をふまえた上での作家の想像力によって実に説得力のある描写となっている.(フィクションではリチャード3世を善人扱いするのが主流だというが,本作もそうである.)
大部なのはだてではなく,登場人物がみな丁寧に扱われている.裏切りや変心に至る動機についてもいちいち納得させられてしまう.また,心情描写も,単に「再会できてうれしい」「修道院に閉じ込められてかわいそう」などというストレートな描写にひとひねり加えたものになっている.
時間があればじっくり読んでみたい一冊である.一方で,特定のトピックについて本作がどのように扱っているかを知りたいときには,下記のような各章の1行サマリーも簡易索引代わりとして有用ではないかと思う.
各章の1行サマリー

第1部 エドワード
1.リチャード,エドマンド,エドワードの日常とブロア・ヒースの敗報
2.ヨーク軍,ラドローに到着後,退去;ランカスター軍が占領
3.ウェークフィールドの戦い;エドマンドの死
4.少年リチャードらはブルゴーニュに避難;ランカスター軍の接近におびえるロンドンにエドワードが到着
5.マーガレット・オブ・アンジューの視点;タウトンの戦い
6.ヨーク軍の前にバンバラ陥落;サマセット,捕らわれるも釈放
7.ミドラムで学ぶフランシス・ラヴェルとリチャード
8.エドワード4世の結婚発覚
9.ウッドヴィルの伸長
10.エッジコットの戦いと国王捕囚
11.ウォリック城でのエドワードの降服
12.エドワード,ミドラムで捕囚生活を送るも,形勢逆転
13.ウォリックを赦したことへの王妃の不満
14.ウォリック亡命の報せ
15.ウォリックとマーガレットとの同盟の報せ
16.エドワード,亡命へ
17.市長ラヴェルがセシリーに会見
18.王妃エリザベス出産
19.海上でのイザベルの流産;結婚を渋るアン
20.ブルゴーニュのエドワード;ブルゴーニュ公の敵意
21.エドワード,ブルゴーニュ公を味方につけ,ジョージの処遇を考える
22.エドワードがイングランド上陸の報
23.エドワード上陸の実情とヨーク入り
24.ウォリックの窮状とクラレンス公の造反
25.エドワードのロンドン入り
26.バーネット前夜
27.バーネットの戦い
28.バーネットの敗報を受けたマーガレットら
29.イザベルの出発前
30.テュークスベリー前夜のエドワード陣営
31.テュークスベリーへの行軍
32.テュークスベリーの戦いと戦後処理

第2部 アン
1.アンとリチャードの再会
2.アンをめぐるジョージとの対立
3.ヘンリー6世暗殺
4.リチャードをアンに会わせまいとするジョージ
5.反乱者処刑後のリチャード
6.アン,ジョージと対立して失踪
7.リチャード,クラレンス邸に
8.アンの捜索とジョージの詰問
9.下町のアン
10.リチャードがアンを発見
11.その後のリチャードとエドワード
12.結婚を待つリチャードとアン,ジョージへの譲歩
13.ジョージを交渉に乗せる
14.アンとリチャードの結婚

第3部 北部卿
1.リチャード,ケイトに別れ
2.アンの懐妊
3.ビューリーでの母の孤独と解放
4.ジェーン・ショア
5.フランス遠征前夜;ヴェロニクの恋
6.ピキニー条約
7.子供たち
8.イザベルとブルゴーニュ公の死
9.アンカレット・トウィンホーの処刑
10.ベッドフォード公位とクラレンスの逮捕
11.やけになったジョージとエドワードの秘密
12.ジョージの処遇について
13.ジョージの処刑を実行するか
14.ヨーク公妃の口添え
15.リチャード,最後の直訴
16.ジョージの死
17.エドワード,リチャードを訪問
18.マーガレットの訪英;ヨーク公妃との和解
19.エドワードの死

第4部 「神の恩寵により…リチャード」
1.エドワード4世の訃報
2.少年王エドワード5世の身柄の確保
3.体制作り:聖域にいるウッドヴィル派
4.体制作り:バッキンガムとヘースティングズの反目
5.ウォリック伯エドワード少年;スティリントンの告白;リチャードの即位に対するアンの熱意
6.王位を受けるかどうか迷うリチャード;ヘースティングズの寝返り
7.ジェーン・ショア;ヘースティングズ処刑
8.ジェーン・ショアの悔恨
9.第二王子のヨーク公,聖域を出る;謀反人処刑
10.リチャード,2王子を訪問
11.2王子失踪
12.ネッドの立太子式
13.バッキンガム造反の報
14.エリザベス・ウッドヴィルの心算
15.バッキンガムの苦境
16.反乱の終わり
17.2王子の死を知る王妃
18.エリザベス,聖域を出る約束
19.リチャードとアンの息子の死
20.リチャードとアンの罪悪感
21.アンの病
22.エリザベス王妃,テューダーと接触してベスとリチャードのことをきく
23.ベスとリチャードの結婚の可能性
24.アンの死
25.リチャードとベスの別れ
26.審判を求めるリチャードの心境
27.テューダーを待ち受けるリチャード
28.「ボズワース」の戦い
29.残された人の立場
30.エリザベスとヘンリー・テューダー
31.ラヴェルらのその後
32.作られるリチャード像


リチャード3世&ばら戦争・関連小説   リチャード三世のホームページへ inserted by FC2 system