リチャード3世関連小説

The Queen's Secret (Jean Plaidy, 1989)

ヘンリー五世の未亡人となって再婚したオーエン・テューダーとの間の孫がヘンリー七世としてテューダー朝を開くキャサリン・オブ・ヴァロワの話.
作者はEpitaph for Three Women (1981)でも同じキャサリンを扱っているが,本作は王妃が一人称で語るクイーンズ・オブ・イングランド・シリーズの一作で,ところどころ筋運びも違っている.
1. Bermondsey Abbey
夫や子供たちと引き離された元イングランド王妃キャサリンは,35歳の若さで生きる希望を失い,これまでの激動の生涯を回想する.
2. The Hotel de St.-Paul
幼いキャサリン(カトリーヌ)はきょうだいとともにサンポール館で暮らしていたが,父王シャルルはたびたび狂気の発作を起こし,国政はオルレアン公が牛耳っていた.王妃もオルレアン公の愛人となって豪奢な生活にうつつをぬかしていた.ところがオルレアン公がブルゴーニュ公に暗殺されて政情が不安定になり,国王の子らのうち男子は王妃に引き取られ,女子はポワシーの修道院に入れられた.
3. Poissy
イングランド王リチャード二世に嫁いでいた姉イザベルは,リチャード二世がヘンリー四世によって廃位されたのち殺されたあと帰国していたが,暗殺されたオルレアン公の跡を継いでオルレアン公となっていたいとこと結婚する.そこそこの幸せを見出すが,出産を機に亡くなる.一方,キャサリンは母が使わした画家によって肖像画が描かれた.
4. A Marriage is Arranged
王妃はキャサリンをヘンリー四世の息子に嫁がせるつもりだった.姉イザベルが結婚させられそうになっていやがっていた相手だ.ヘンリー四世の死で少し時間ができた.
ヘンリー五世は放蕩者だと聞いていたが,国王になって行ないを改めたとも聞いた.ヘンリーはフランス王位継承権を主張し,アジャンクールの戦いでフランス軍に大勝したが,和解を求める度量も見せた.だがキャサリンとの結婚のほか,領土や莫大な持参金も求めるその要求は高く,フランス側がのめるものではなかった.
アジャンクールの戦いの直後,キャサリンの兄ルイとジャンが相次いで急死し,弟シャルルが王太子となった.王妃は愛人の不敬が目に余り,正気に返った王に追放されたが,ブルゴーニュ公と通じて王政を牛耳るようになった.
ブルゴーニュと対立するアルマニャック派についていた王太子は,和解のためブルゴーニュ公を呼び出し,殺害してしまった.ブルゴーニュ公位を継ぎ復讐に燃えるフィリップはキャサリンの姉ミシェルの夫だった.
ヘンリー五世はこれを利用してブルゴーニュ公を味方につけ,フランスは追い詰められた.キャサリンはヘンリーと結婚し,シャルル六世の死後はヘンリーがフランス王位を継ぐことも決められた.キャサリンはヘンリーとは一度会っただけだったが,惹かれるようになっており,結婚を喜んだ.
5. Queen of England
ヘンリーは結婚二日後から再び戦役のことを考え出した.大切にしてはくれるが,第一は戦争だった.イングランドの統治は弟のグロスター公ハンフリーに任せていたが,帰国が必要になった.
イングランドでも,ヘンリーは懐妊したキャサリンをポンテフラクト城に残して戦費調達のための巡幸に行ってしまう.ポンテクラフト城は姉イザベルの夫リチャード二世が殺されたとされる地だ.そこでキャサリンは亡きイザベルを思い出し,さらにその二番目の夫で捕虜になっていたオルレアン公とも会えた.オルレアン公は政治のしがらみから解き放たれて詩作にふける今の生活に満足しているようだった.
まもなくヘンリーが帰ってきて,出産までついていてくれると言うが,そこにフランスで弟クラレンス公トマスが戦死したとの知らせがもたらされた.アジャンクールの戦いのような手柄を立てようとはやったのだ.ヘンリーはすぐフランスに行くと言い出した.
ヘンリーは子供はウインザーで生んではならないと言い置いて行ったが,キャサリンはウインザー城が気に入っており,ずるずると滞在しているうちにウインザーで元気な男の子を生んだ.王は,モンマスのヘンリー(ヘンリー五世のこと)は短い治世に多くを得るが,ウインザーのヘンリーは長い治世にすべてを失うという予言を気にしていたのだ.
息子ヘンリーの洗礼式の際,ジャックリーヌが代母になった.エノー,ホラント,ゼーラント,フリースラントの継承者でありながら弱気な夫のせいで領地を叔父に奪われてしまいイングランドに身を寄せていた人物である.キャサリンはジャックリーヌが不満をこぼすのを聞くのにいささかうんざりしていたが,ジャックリーヌは幼いヘンリーを預かることになった国王の弟グロスター公ハンフリーと意気投合したようだった.〔Epitaph for Three Womenではジャックリーヌのブラバント公との離婚にハンフリーがかんでいたことになっていたと思うが,本作ではハンフリーと知り合う前にジャックリーヌがみすみす領地を奪われた夫に愛想を尽かして離婚を勝ち取ったことになっている.〕
キャサリンはヘンリーに呼ばれて大陸に渡った.
ヘンリーは体調の悪いのを押して同盟者ブルゴーニュ公に加勢に赴こうとしたが,赤痢にかかり,重体になってヴァンセンヌにいたキャサリンのもとに運び込まれ,まもなく世を去った.
6. True Love
キャサリンはヘンリーを運び込んだ従者の一人オーエン・テューダーとヘンリーのことを話すことに慰めを見出した.帰国したが,その間,クラレンス公ハンフリーがジャックリーヌと結婚していた.ヘンリーが生きていたら許されなかっただろう.だがそのおかげでキャサリンのことは忘れられ,キャサリンはしばらく息子と一緒の生活を楽しむことができた.
オーエンのことは衣裳係に任命してなにかとよく話すようになった.
10歳のころ捕虜になって身代金が払われるまでとしてイングランドに滞在していたスコットランド王ジェームズはすでに立派な青年になっていた.ウインザーにやってきたジェームズはクラレンス公妃の娘ジェーンと恋仲になる.それを見てキャサリンは,ヘンリーは自分のことを大切にしてくれはしたが,ヘンリーにとって第一は戦いであり,あれは愛ではなかったと思うようになる.
一年ほどして幼いヘンリーが帝王教育のために母のもとから引き取られることになった.覚悟はしていたつもりだったが,やはりつらく,オーエンに会わずにはいられなかった.折しもジェームズとジェーンがスコットランドに旅立っていったばかりだった.二人はたとえ周囲に認められなかったとしても幸せだろうというオーエンの一言をきっかけに,キャサリンは自分の気持ちをはっきり意識し,オーエンと恋仲になった.
7. Dangerous Love
キャサリンとオーエンの関係は,お付きの者たちを心配させたが,みな応援してくれた.
ウィンチェスター司教ヘンリー・ボーフォートが訪ねてくる.グロスター公ハンフリーがジャックリーヌの領地エノーなどを取り戻すために大陸に赴き,ブルゴーニュ公がグロスター公に決闘を挑んだという.イングランドの同盟国ブルゴーニュがエノーに力を割けば,対フランス戦が苦しくなる.キャサリンに,ブルゴーニュ公妃である姉ミシェルに手紙を書いてくれというのだ.キャサリンの母にもとりなしを依頼するなど,あらゆる手を尽くしているという.その甲斐あって,イングランドとブルゴーニュの同盟瓦解は回避できた.〔Epitaph for Three Womenではこれがベッドフォード公の機転のおかげという筋運びになっている.〕
グロスター公はエノーをあきらめて帰国した.キャサリンはいよいよグロスター公の目がヘンリーに向けられるかと案じるが,グロスター公はボーフォートとの政争にはいる.ベッドフォード公が一時帰国すると表面上は和解したが,ベッドフォード公とボーフォートはフランスに渡った.
我が子ヘンリーを迎えてのクリスマスのこと.苦手なダンスでよろけたオーエンをキャサリンが抱きとめたときの様子で二人の仲が一部で噂になった.
キャサリンは妊娠が分かり,ベッドフォード公の許可を得て人気のないハタムに少数の供とともに移り住む.やがて二人だけの子エドマンドが生まれた.
8. The Secret Marriage
キャサリンはオーエンと結婚した.
次の子を懐妊していたとき,ヘンリーの戴冠式に出るよう要請されたが,病を偽って欠席した.次男ジャスパーは無事生まれた.
9. The Maid
フランスで田舎娘がフランス人を鼓舞していた.キャサリンの弟シャルルが戴冠したが,ヘンリーもフランスで戴冠することになった.キャサリンも今度は断るわけにはいかなかった.
フランスに渡ったが,ベッドフォード公はすっかり老けこんでいた.ジャンヌダルクはブルゴーニュに捕らわれたとのことだった.
ルーアンでは旧知のベッドフォード公妃アン(ブルゴーニュ公の姉妹)と再会した.
ルーアン付近にまでフランス兵が出没しているので,戴冠のためにランスに行くのは慎重になり,いたずらに月日が過ぎて行った.
その間,ジャンヌダルクが身代金と引き換えにイングランドに引き渡され,ノルマンディーの首都であるルーアンに連れてこられた.幼いヘンリー六世はジャンヌが神の使いではないかと真剣に悩む.
だが,神もフランス王も助けようとはせず,ジャンヌは処刑された.
その後,パリで戴冠式を行なうことにして,パリ入りした.キャサリンは母と再会したが,平気で我が子シャルルのフランス王位を否定する母に唖然とするのだった.母は最終的にはイングランドが勝つと信じてイングランドに肩入れしているのだ.
その後,ヘンリーはパリのノートルダム聖堂で戴冠したが,大赦などのフランスの慣例を守らなかったことで民衆の不満は高まり,ルーアンに戻った.だがルーアンではいまだ処刑されたジャンヌダルクの記憶が新しかった.キャサリンやヘンリーはイングランドに帰国した.
10. A Visit from the King
グロスター公は文芸の造詣が深く,ヘンリーの気性に合っていたが,ウォリック伯やボーフォート枢機卿の影響を除くためにまだ幼いヘンリーに親政を勧めていた.それを懸念した枢機卿からキャサリンは,母親として国王はまだ自分で政治ができる年ではないと諭すよう頼まれた.キャサリンは子供たちを別の屋敷に避難させてヘンリーを迎え,納得させた.
11. Death in France
グロスター公がキャサリンを訪ねてきた.国王に対してグロスター公の言うことを聞かないよう諭したのに抗議しにきたのだった.そのときはそのまま帰ったが,オーエンとの関係を疑っているような様子だった.
折しもフランスとブルゴーニュがアラスで和解しそうな矢先にベッドフォード公が亡くなった.ブルゴーニュ公はフランス王と和解することにし,イングランドは重要な同盟相手を失った.グロスター公はカレー救援に向かったが,ボーフォート公の甥が先んじて活躍の場はなかった.キャサリンはまた妊娠した.
12. Bermondsey Abbey
グロスター公が帰国して間もなく,国王の命ということでオーエンが逮捕された.しばらくしてキャサリンはバーモンジー大修道院に,子供たちは別の大修道院に移された.希望を失ったキャサリンは死を願うようになり,オーエンが脱獄したとの知らせは聞きつつも,オーエンや子らの幸せを願いつつ死を迎えようとしていた.


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