歴史小説

The Three Crowns (Jean Plaidy, 1965)

オレンジ公ウイリアムとその妃メアリーが名誉革命で王位につくまでを,ジェームズ二世の二人の妃アン・ハイド,メアリー・ベアトリスとオレンジ公妃メアリーなどを通して描く.多数の登場人物の個々のエピソードに紙数が割かれ,散漫な印象になってしまっているのが残念.メアリー・ベアトリスとオレンジ公妃メアリーという,いずれも若くして泣く泣く嫁いだ二人が夫を受け入れるようになる様子などは興味深く描かれている.名誉革命については続編のThe Haunted Sistersのほうがわかりやすい.
1 The Birth of Mary (p.9)
王政復古なったイングランド,ヨーク公ジェームズと結婚したアンは娘メアリーを生む.
2 The Family of York (p.17)
兄王に似て浮気性のジェームズが関係したデナム夫人が急死し,毒殺の噂が流れる.検視では毒は検出されなかったが,ヨーク公妃の関与が取りざたされる.父が大好きだったメアリーは,浮気のことで父と母が口論するのを聞いてしまい,父のことが少し怖くなる.
3 Faith and Death (p.48)
チャールズ二世の庶子モンマス公がメアリーと親しくなる.ヨーク公妃は胸を患って死期を感じてカトリックに改宗し,ジェームズも病をきっかけに妻と親密になりカトリックに傾倒する.チャールズもカトリックに共感は覚えており,フランス王弟妃となっている妹アンリエットが訪英した際に資金援助と引き換えに「適当と判断したときに」カトリックに改宗する約束をする.アンリエットは帰国直後急死する.
4 The Bride from Modena (p.77)
ジェームズが愛人に本気になり結婚したいと言い出したことをきっかけに,ジェームズの再婚相手を探すことに.いくつかの候補を当たったのち,15歳にもならないモデナ公女メアリー・ベアトリスに白羽の矢が立てられ,修道院にはいりたがっていた公女は母らに付き添われてイングランドに渡る.ジェームズがどんなにやさしくしても心を開かないメアリー・ベアトリスだったが,チャールズ二世の気さくな態度には笑顔を見せた.ジェームズの訪れを毎夜恐れていたメアリー・ベアトリスだったが,ジェームズが愛人のもとに通って訪れなくなると,ジェームズを欲している自分に気づくのだった.
5. The Passionate Friendship (p.115)
メアリーはアン・トレローニー,アンはサラ・ジェニングズと親友になる.メアリーを見下していたエリザベス・ヴィリアーズは押しつけがましいサラがアンの心をつかむのを見て己の非を悟るが,すでにメアリーに嫌われていた.
ジェームズがカトリックの公女と再婚したためチャールズ二世は娘たちの教育をプロテスタントのコンプトン司教に任せることにする.チャールズの庶子モンマスはプロテスタントを売りに正当な王位継承者であるジェームズに対抗心をむき出しにする.モンマスの提案で,リッチモンド宮殿で暮らしていたメアリーらの宮廷デビューも兼ねて王の前でバレエを演じる.女官が80ポンドもする借り物のダイヤをなくしてしまい困り果てているのを見かねて父に相談すると,ジェームズが助けてくれることになった.しかし,この日は,妻帯者であるモンマスが別の女官といちゃついているのを目撃してしまい,一方,フランシス・アプスリーというすてきな年上の女性と出会ったという,メアリーにとっては重要な日となった.さらに数年が過ぎ,15歳になったメアリーにオレンジ公ウイリアムとの縁談が持ち上がろうとする.
6. The Three Crowns(p.150)
メアリーとオレンジ公ウイリアムとの縁談が持ち上がるずっと前,チャールズ二世の妹メアリーはウイリアムを生んだが,その数日前に夫のオレンジ公は他界していた.産婆のタナー夫人はウイリアムが生まれるときに三つの王冠を表わす光を見たという.
7. Young William(p.155)
ウイリアムはまたいとこのエリーザベト・シャルロッテと仲良くするよう仕向けられるが,年上で生意気なエリーザベト・シャルロッテが気にいらない.イングランドで王政復古がなったが,母は訪英中に亡くなってしまう.ウイリアムが青年になったころ,イングランドに招待されるが,バッキンガム公のいたずらで飲まされて醜態をさらしてしまう.
8. The Orange Bridegroom(p.185)
オランダを侵攻するフランスにイングランドまで加担した.オランダでは国民のデ・ウィットへの反感は高まり,ウイリアムが指導者となる.イングランドからはヨーク公女メアリーとの縁談の打診が来るが,攻め込まれた立場のウイリアムは結婚する状況ではないと言っていったん断る.戦争が長引き,厭戦気分も高まる.フランスからルイ十四世の私生児との縁談を打診されたのに怒ったウイリアムはそれを断ると,イングランドとの縁組を本気で考えるようになり,親オランダのテンプルを通じてイングランドに招待された.
9. The Reluctant Bride(p.201)
イングランドに渡ったウイリアムはメアリーを気に入る.メアリーがあからさまに結婚を嫌がるのは許せなかったが,イングランドの王位に近づくため,こらえることに.
10. At the Orange Court(p.233)
メアリーは二度流産してしまう.ウイリアムに見下されているようなのがつらかった.父ヨーク公が追放同然の身でオランダにやってくると聞くと,断固として歓迎する意向を見せ,ウイリアムを警戒させる.
11. The Unfaithful Husband(p.257)

メアリーはウイリアムとエリザベス・ヴィリアーズが関係を持っていることを聞いてしまうが,子供っぽく騒ぐことはしないことに決める.ただ,フランシス・アプスリーを理想の夫に見立てて手紙を送り続けるのだった.
12. The Zuylestein Scandal(p.273)
オレンジ家の血を引くザイレステインがメアリーの女官に結婚の約束をして妊娠させたので,メアリーは牧師ケンの力も得てザイレステインに結婚させる.ウイリアムは怒るが,メアリーは正しいことをしたと譲らない.イギリス王位継承のことも考えて,ウイリアムは外面上はメアリーに相談をもちかけるなど構うようになり,その上で自分に従わせるように努める.
13. Romance at The Hague(p.287)
モンマス公がライ・ハウス陰謀事件に関与して愛人のヘンリエッタ・ウェントワースとともにハーグに亡命してくる.ジェームズからは抗議が来るが,ウイリアムとメアリーは歓待することにする.ウイリアムはモンマス公との親密さを見せつけることでプロテスタント擁護の姿勢をアピールするのだった.メアリーはモンマス公と一緒だと子供のころのように楽しい気分になり,つい同じいとこであるウイリアムと比べてしまう.
ある年,ウイリアムは,チャールズ一世処刑の日に喪に服すことを禁じた.王権神授説を奉じて議会と対立して処刑されたチャールズ一世と一線を画すこともウイリアムのアピールだった.
チャールズ二世薨去の報が届き,モンマス公は父の死を心底悲しんだようだった.イギリス大使からはモンマス公の引き渡しが申し入れられ,ウイリアムも表面上は承知したが,ひそかに連絡して逃亡させた.まもなくモンマスは王位を要求してイギリスに上陸したが失敗し,処刑された.
14. The Wife and the Mistress(p.307)
ジェームズ二世は娘メアリーをウイリアムと離婚させたがっており,駐オランダ大使を通じてウイリアムの情事をメアリーに知らせた.ウイリアムはメアリーに直接知らせたアン・トレローニーらを帰国させる.メアリーは,ウイリアムの留守中,エリザベス・ヴィリアーズに父への手紙を託すとしてイギリスに送り出す.エリザベスはイングランドの実家で手紙を開封して破棄し,オランダに舞い戻る.
15. The Vital Question(p.329)
体制批判でイングランドを追われたバーネット司教がハーグにやってくる.バーネットはウイリアムとメアリーの間にある溝に感づく.ウイリアムがひそかに気にしていたのは,メアリーがイングランド王位を継承したとき,自分の地位はメアリーの気持ちにかかっているということだった.バーネットの仲介でメアリーはウイリアムに,何事にも夫に従うつもりでおり,自分が女王になるのならウイリアムを王にして実権はゆだねると約束した.安堵したウイリアムはいつになくやさしくなり,メアリーは幸せな家庭の気分を味わうのだった.
16. King William and Queen Mary(p.351)
ウイリアムはメアリーと別れを惜しんでイングランド遠征の途につく.ジェームズは信頼していたチャーチル将軍,グラフトン公はもとより,女婿のデンマーク公,アン王女にも去られ,妃メアリー・ベアトリスだけが慰めとなった.妻子をフランスに逃れさせたジェームズは自らも亡命し,メアリーとウイリアムはイングランドの君主として迎えられるのだった.


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