歴史小説でたどる英国史(など)

The Pleasures of Love (Jean Plaidy)

チャールズ二世妃キャサリン・オブ・ブラガンサの物語.
同じ主人公を扱ったMargaret Campbell BarnesのWith All My Heartを読んだのを機に,大昔に読んだ本書を読み返してみた.キャサリンについての史料は同じらしく,特に初期のエピソードはほぼ共通しているが,本作のほうが歴史上の宮廷人たちのエピソードをあれもこれもと欲張って盛り込んでいる感じで,キャサリンやチャールズとの関連が薄い話も含めて王政復古時代の通史を対話形式で読んでいるような印象になってしまう.カトリック陰謀事件の描き方がその好例で,Barnesがおそらく史実を整理・再構築してドラマチックに仕立てているような描写なのに対し,本作は入り組んだ事態の進展を忠実に追っている印象.小説としての完成度ならBarnesのほうが上だが,個人的に興味のあったチャールズ二世の没後のキャサリンについては,本書の淡白な歴史の描写が興味深かった.

あらすじ

ポルトガル王女キャサリンが二歳のとき,父ブラガンサ公は周囲の要望を容れてスペインからの独立を宣言する.キャサリンの母である王妃ルイサの手腕もあってポルトガルは地歩を確立していく.キャサリンが七歳のころイングランド王子チャールズとの縁談があったが,その後イングランドでは国王が処刑され,チャールズも放浪の身となった.だが王妃はイングランドとの縁を信じてキャサリンへの縁談を断り続けた.王政復古がなって結婚が決まって,ようやくサンドイッチ伯が迎えに来たが,ポルトガルは持参金をスペインからの防衛に使ってしまっていた.王妃の機転でかろうじて支払い条件を受け入れさせ,キャサリンは渡英する.
チャールズは魅力的でやさしく,ハンプトン・コートでのハネムーンは幸せだった.だが,チャールズが愛妾のカスルメーン伯夫人をキャサリンの女官に取り立てようとしていさかいになる.大法官ハイドに諭され,認めないまでも黙認することにしたが,宮廷でチャールズから不意打ちのように夫人を紹介されたときには鼻血を出して失神した.
皇太后ヘンリエッタ・マライアがフランスからやってきて,自分の父アンリ四世も女好きだったと話し,彼らの女癖はどうしようもないが,王妃の地位は愛妾とは比べ物にならないと諭す.キャサリンはカスルメーン伯夫人に愛想よくするよう努め,チャールズも喜んだが,ハイドから今度は親しくしすぎると批判された.
フランシス・ステュアートという子供っぽい美少女が宮廷に現われ,チャールズも心を奪われ,おかげでカスルメーン伯夫人の影が薄くなる.夫人はチャールズの庶子ジェミーと親しくするようになったが,おそらくそれを牽制するためにチャールズはジェミーをモンマス公に叙し,結婚させた.
キャサリンは妊娠してタンブリッジ・ウェルズに湯治に行く.チャールズも同行してくれて,チャールズが愛情を示してくれると,キャサリンはつい心から愛されていると信じたくなってしまうのだった.
フランシスがいつまでもなびかないためチャールズがカスルメーン伯夫人とよりを戻したと聞いてキャサリンは再び失神する.そして生死の境をさ迷い,流産してしまうが,チャールズが心底心配してくれたと聞いて幸せを感じた.
フランシス・ステュアートが誰にもなびこうとしないので,バッキンガム公は泥酔させてチャールズにものにさせようと画策するが,カスルメーン伯夫人から注進を受けたキャサリンが未然に防いだ.だがその直後,チャールズが作ったというpleasures of loveの歌を歌っていたバッキンガム公から,主馬頭エドワード・モンタギューとの関係を揶揄された.ピューリタン風の生真面目さのある主馬頭はチャールズ二世の宮廷の放蕩には批判的で,キャサリンによく仕えてくれたのだが,その直後,罷免され,英蘭戦争で戦死した.彗星が現われ,疫病が流行した.疫病が下火になったと思ったらロンドンが大火に見舞われ,オランダ艦隊による本土侵攻も受けた.
フランシス・ステュアートは相変わらず誰にもなびかず,アン・ブーリンと結婚するために王子を生めなかったキャサリン・オブ・アラゴンと離婚したヘンリー八世のことが取り沙汰された.義妹アン・ハイドからチャールズがカンタベリー大主教とも相談しているという「噂」を聞いた直後,大法官ハイドが会いに来て,離婚までは口にしないながら,フランシスに結婚させるよう勧めた.折りしもカスルメーン伯夫人がフランシスがリッチモンド公と二人でいるところをチャールズに見せてチャールズが怒っていた.キャサリンは女官のフランシスにリッチモンド公との結婚を勧め,フランシスはリッチモンド公のもとに走った.
国王以下,宮廷の放蕩ぶりは目を覆いたくなるほどだった.チャールズはモル・デーヴィスという女優と昵懇になったかと思うと,次はネル・グインに乗り換えた.カスルメーン伯夫人は容色衰えたとはいえ,いまだ国王のお渡りがあった.
王弟ジェームズがカトリックの信仰を公然にしたことにより,王位継承の懸念から,キャサリンを離縁する話が蒸し返された.若い後妻を脅威に思うカスルメーン伯夫人の警告を受け,キャサリンはチャールズに率直に話し,チャールズも離婚をきっぱりと否定してくれた.愛しているというチャールズの言葉を額面どおりに受け取るわけにはいかないが,チャールズなりの仕方で愛しているとはいえた.
チャールズの妹でオルレアン公妃となっているアンリエットがドーヴァーに来て久しぶりの再会を楽しんだ際,チャールズは機が熟したらカトリックに改宗するとの約束でルイ十四世から資金援助を受ける条約を結んだ.キャサリンは国民のカトリック嫌いを危惧するが,チャールズは自分が生きている間は機が熟することはないと承知で約束したのだった.
フランスに帰国した直後にアンリエットが急死した.チャールズは毒殺だと確信し,ルイ十四世に対する不信感を募らせるが,ルイはチャールズが目をつけていたアンリエットの女官ルイーズ・ド・ケルアルを送ってきた.だがキャサリンはルイのスパイではないかと思った.
フランスとの密約に基づき,オランダと戦争し,講和した.カトリックのジェームズへの反感を抑えるため,ジェームズの娘メアリーはオレンジ公ウイリアムと結婚した.
カトリック教徒が陰謀を企てているという告発があり,チャールズはでまかせだと確信していたが,調査を任せたダンビーは自らの不祥事から目をそらさせるために本格的に調査した.
チャールズはやすやすと証言の矛盾を突き,片が着いたかに思われたが,告発された一人コールマンが実際にフランスのスパイだったことを示す証拠がみつかり,さらに疑惑を枢密院に取り次いだ治安判事ゴドフリーが変死したことで国民の関心が高まった.告発者タイタス・オーツは救国者ともてはやされ,王妃の周辺にも疑惑は向けられたが,チャールズは断固として王妃を擁護する姿勢を示した.キャサリンは,不実な夫とはいえ,信頼できる友だと感じるのだった.
オーツは王妃を反逆罪で告発するまでになり,キャサリンは処刑の可能性さえ心配したが,怒ったチャールズはオーツを収監させた.だがカトリックを憎む国民の支持のあるオーツを釈放せざるを得ず,オーツの告発はキャサリンの侍医にまで及んだ.だが裁判官はだまされず,無罪となって,それを機にオーツの評判は下がった.一方,シャフツベリーら急進派のプロテスタントは王弟ジェームズを王位継承から外そうと議会で動いていた.
だがオーツはあきらめず,スタフォードを処刑に追い込んだ.死刑令状に署名したことを悔いるチャールズは,今まで議会に抗って処刑された父の二の舞を避けようと臆病になっていたと反省し,びくびくしながら生きるくらいなら亡命の危険も厭わないとして,断固として議会を解散させた.
健康を誇ったチャールズだが,誰も予想しなかったほど急に体調を崩したかと思うと崩御した.キャサリンはホワイトホール宮殿からサマセットハウスに移った.公然たるカトリックのジェームズは,王位を継承する際,国教を変えないことを制約した.一方,カトリック陰謀事件を起こしたオーツは厳しく処罰された.
モンマス公が反乱を起こしたがたちまち失敗に終わった.
キャサリンは,親しくしていたフェヴァシャム卿とあらぬ噂を立てられたことでポルトガルへの帰国を考えたが,自分に与えられるべき財産に触れたことでジェームズや国民の反感を買ってしまった.
国民はジェームズのカトリックの施策を受け入れず,その娘メアリーとその夫オレンジ公ウイリアムが来寇し,味方に見捨てられたジェームズは国を去った.ジェームズが軍勢を率いてアイルランドに上陸したとき,キャサリンは自分のチャペルではジェームズに対する勝利の祈祷を上げさせなかったため,メアリーに咎められ,改めて帰国の意を固めた.
数年後,弟ペドロが治めるポルトガルに帰国したキャサリンは,国民がキャサリンのおかげでスペインのくびきから脱することができたことで大歓迎を受けた.チャールズが作ったthe pleasures of loveで終わる詩をいとおしく思い返しもした.
数年がたち,病身のペドロが静養のため国政をキャサリンの手にゆだねると,自分でも意外なほどにうまくいった.
キャサリンは国王と愛の喜び(pleasures of love)に支配されたチャールズ二世の宮廷に思いをはせるのだった.


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