オレンジ公への招請状(1688)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

オレンジ公への招請状:Invitation to the Prince of Orange
1688年春,ジェームズ二世のカトリック傾倒に危機感を覚えたイングランド貴顕がジェームズの甥であり娘婿であるオレンジ公ウイリアムに助力を求めて接触したところ,ウイリアムはイングランドのしかるべき立場の人からの要請があることをイングランド遠征に乗り出す条件とした.それに応えて六月,イングランド貴顕七名が連名でオレンジ公にイングランドへの武装しての来寇を要請した.
なお,署名も含めて人名に暗号数字が使われているので注意.

殿下のご意向を35〔ラッセル〕,そしてその後ザイレステイン氏より承りました.両名によると殿下が我々に進んでご助力くださる用意があるよし,欣快に堪えません.目下の情勢では,事態は日を追うごとに現在より悪化するばかりで,身を守ることは難しくなる一方であることは明白であります.それゆえ,我々が自ら解放に尽くすことができるうちに改善を見出す幸に与ることを切に願っております.しかし,こうした願いは抱きつつも,この件につき殿下ご自身の判断を迷わすような期待をさせることは決していたしません.そのために我々にできる最善の助言は,現時点におけるこの地での情勢と考えられる困難の両方を真実の形で殿下にお知らせすることであります.
第一の点については,人々は,彼らの宗教,自由そして財産に関して(いずれもが大いに侵害されており)政府の現在のやり方についての不満が広がり,みな展望は日々悪化していると見なしており,そのため殿下には,王国全体の人民の二十人のうち十九人までもが変革を望んでいることを確信いただいてよろしいかと存じます.人々は,決起したとき,自らを守れる態勢に至る前に殲滅させられる危険から守ってくれるに足る好意的な保護さえあれば,必ずや進んでそれに尽くすでありましょう.貴族および地主階級の大部分が大いなる不満を抱いていることも同じく確かです.ただし,その多くの者に事前にうち明けることは安全ではありませんが.そして彼らのうちの最も重要な何人かは殿下が最初に上陸し,兵を募り集めるやただちに殿下のもとに身を投じるだろうことは疑う余地がありません.彼らの影響力をもってすれば,保護を与えることさえできればいつでも多くの人数を集めることができましょう.そして集まった人々をある程度取りまとめることができるまでの間,自らおよびそれらの人々を守るに足るだけの兵力が上陸すれば,正規軍がすべて忠誠を保ったとしても,その兵力はたちまちにしてこの地にある軍隊に倍するまでに増員されるであろうことも疑問の余地がありません.そうなれば正規軍の間では意見の分裂が生じるものと信じる至極もっともな根拠がありますが,士官の多くも不満を抱いており単に生活のためだけに任を続けているという状況で(それに加えて,一部の士官の同調はすでに得ています),一般兵士の実に多くも日々カトリック教への嫌悪を示しており,しかるべき機会さえあれば多大な数の脱走者が発生することは十分すぎるほどの可能性があります.そして水兵に関してはそのような戦争において政府のために戦う者は十人に一人もいないことはまず確かと言えます.
これらすべてに加えて,現在の情勢があと一年のうちに大いに悪化しないとはとても考えられません.軍ではきっと士官にも兵士にも大きな入れ替えがなされるでしょうし,その他もろもろの変更も予想されます.選挙工作された議会からばかりでなく,(我々の現在の状況においては)どんな議会の開会であろうと,この地での彼らの企みの主たる妨害者とみなされる者に対して議会が持ち出す施策からもそのような変更に至ると予想されます.議会的な方法で望みどおりの展開が得られないとなればより暴力的な手段によって他の施策が実行に移されるであろうことはもちろんのことです.そしてそのような企みは当然不満を高めるでしょうが,その際には,我々が自らを解放するためのあらゆる可能な手だてを封じるような手段がきっととられることでしょう.
これらの考察より,今後ではなく今こそが,我々自身の安全に貢献できる可能性が高い時期であるとの見解に達しました(ただし,この一点に関しては我々と異なる判断をする者もいることは殿下に申し上げておかなければなりませんが).そのため,状況を見て,今述べたような状況下からの解放に十分な助力を本年じゅうに与えることのできる状態で,時機を得て殿下がこの地に至ることができるとお考えになるならば,本状に署名する我々は殿下の上陸時には必ずや参上し,そしてこのような性質の事情をうち明けるのは事態が公になる時期に近づくまではあまりに危険が大きいものですが,そのような行動の性格上可能な限り,他の者にも用意を整えさせるようあたう限りの力を尽くすものであります.しかし,先に申し上げましたように,我々の困難をも殿下にお伝えしなければなりません.それは主として,この遠征に向けての殿下の準備がいかなる警戒を呼び起こすか,あるいは殿下が連邦議会に対して事前にどこまで告知をする必要があるであろうかということであります.いずれの手段によっても,この地の政府の情報あるいは疑念によって殿下の上陸前に我々が捕らわれることにもなりかねません.そして僭越ながら,例の子供(この地では千人に一人も王妃の子とは信じておりません)の誕生に際して殿下が祝辞を送られたことで殿下の信頼に若干の傷がついたこともお知らせしなければなりません.あの子供を王妃に,そして国民に押しつけるまやかしは,この地における民衆の限りない憤懣の種であるばかりでなく,殿下が武力を率いて本王国に上陸することを宣言する際によって立つべき殿下の側の主な大義の一つであることは確かです.我々の側からも他に多くの理由を挙げることはできますが.
これら諸般の状況をご賢慮の上で殿下があえて計画を敢行するか,あるいは少なくともそのために必要となる準備を行なうことを適当とお考えになるならば(我々はそう願っておりますが),一刻の猶予もなりません.それに関する殿下のご決意を,そしていつならすべての準備が整うとあてにしてよいか,そしてまた,この地の政府を警戒させ,その結果軍備を増強したり殿下に合力すると疑われる者を捕らえたりさせることなく準備を進めることができるとお考えかどうか,お知らせいただきたく存じます.弾薬や大砲,臼砲,予備の銃器などといったものについては何も言う必要はありません.殿下が何事かを実行に移すことが適当とお考えになる以上,こうしたものは十分に用意し,若干の優れた技師もご同道になることでしょう.それに我々はH氏〔ハーバート〕にこうしたいっさいのことがらについて殿下と相談するよう依頼しておきました.書き連ねるにはあまりに煩瑣な,そして殿下からの次なる連絡をいただくまでははっきりした決断のしようのない多くの細々したことについても同氏に我々の考えを伝えてあります.

25.〔シュローズベリー〕 24.〔デヴォンシア〕 27.〔ダンビー〕 29.〔ラムリー〕 31.〔コンプトン〕 35.〔ラッセル〕 33〔シドニー〕


翻訳にあたってのテキストは次の箇所にあるものを用いた.
http://www.jacobite.ca/documents/16880630.htm
些末なことだが最後の署名は私の見たオリジナル文書の写真では横一列になっているのでそのようにした.〔 〕はもちろん訳注.

(C) 2004.10. 友清理士; 訳文の最終修正日2004.10.21
革命の世紀のイギリス〜イギリス革命からスペイン継承戦争へ〜    歴史文書邦訳プロジェクト   
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