オレンジ公の宣言(1688)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

オレンジ公の宣言:Declaration of the Prince of Orange
オレンジ公ウイリアムが名誉革命に乗り出すにあたって,その正当性を主張した文書.イングランドの貴顕から来寇を要請されたオレンジ公ウイリアムは,兵を率いてイングランドに上陸するにあたり,その理由を述べた宣言を1688年10月10日に作成した.その後,ジェームズ二世が部分的な譲歩を示したため,それに対応すべく10月24日に第二の宣言を作成した.
ここに訳出するのはその第二の宣言である.

余がこの余の宣言を用意し,印刷したのち,これらの王国の宗教ならびに法律の転覆者たちは,彼らに対して人民を支援するための余の準備を聞いて,それまで僭取してきた恣意的で専制的な権力の一部の撤回を開始し,その不当な判断や政令のいくつかを取り消した.罪悪感,そして自軍の兵力への不信から,彼らはロンドン市に対して,一見,多大なる抑圧からの解放とも見えることを提案せざるを得なくなった.それによって人々を静め,人々が余の兵力の庇護のもとにその宗教と法律の確固とした再建を求めることを防ごうというねらいである.彼らはまた,余がこの国を征服し,隷属させようとしていると称している.それゆえに余は先の宣言に若干の追加をすることにした.
余は確信をもっている.この大業において,余は臣民の宗教の,そして自由と財産の決着を確かな基礎の上に獲得し,それによって以後いかなる時においても同様な悲惨にこの国が陥る危険がなくなるようにすることを意図するものであり,何人もそれ以外の何らかの計画をもっていると想像するほど余に対して厳しい考えを抱く者はいないであろう.そして余が率いてきた軍勢はこの国を征服するなどというよこしまな計画には全くもって不十分である.仮に余がそれを企てることができたとしても,実に大勢の人品においても財産においても抜きん出ている貴族およびジェントリーが,この遠征において余に同行したのみならず,熱心にそれを懇請したことからも,余に対するそのような悪意あるあてこすりに対して余の潔白を示してくれるだろう.彼らは,イングランドの宗教界,政界において清廉と熱意において知られる人たちであり,そしてその多くは常変わらぬ王冠への忠節によって傑出している.それというのも,余を招いた人々にしろ,すでに余の助力に駆けつけた人にしろ,彼らがよこしまな征服の試みに加担し,自分たちの名誉,財産,利害に対する法に則った権利を無にするなどと想像するには無理がある.
余はまた確信をもっている.今なされる約束や契約について,いささかの重みも認めてはならないことは誰しもわかっているだろう.過去の最も厳粛な約束についてさえ,ほとんど重視されなかったのである.そして今提案された不完全な是正については,余が述べた政府による違反を認めたものにほかならず,その欠点をいささかなりとも隠蔽できるものではない.それというのも,取り上げる気のないものについては何も約束されていない.そして彼らはその抑圧すべての,そして政府の完全なる転覆の根元であった恣意的な専制権力に対する主張を完全に留保していながら,そのことについては何も触れていない.それに議会においてこれまで侵害されてきた家臣の権利の宣言以外の形で,いかなる是正や救済が提供されるはずもないことは明白である.窮地に立たされてやむを得ず打ち出したまやかしの恩典法によるものではない.それゆえに余は宣言する.余はいっさいを合法的な議会におけるこの国の自由な会議にゆだねるものである.
ハーグの宮廷において自筆捺印して作成.一六八八年十月二十四日.
オレンジ公ウイリアム・ヘンリー

翻訳にあたってのテキストは,Parliamentary History of England 掲載のものを用いた.
(C) 2003.10.24(オレンジ公の第二の宣言315周年記念日) 友清理士; 訳文の最終修正日2003.10.22
革命の世紀のイギリス〜イギリス革命からスペイン継承戦争へ〜    歴史文書邦訳プロジェクト   

inserted by FC2 system