レイスウェイク条約
(大同盟戦争の講和条約, 1697)

(歴史文書邦訳プロジェクト)

レイスウェイク条約(ライスワイク条約):Treaty of Rijswijk, Treaty of Ryswick, Treaties of Rijwijk, Treaties of Ryswick
大同盟戦争(アウクスブルク同盟戦争,プファルツ継承戦争,オルレアン戦争,九年戦争ともいう)の講和条約.1697年9月20日,フランスと同盟側(イングランド,オランダ,スペイン)との間にそれぞれ二国間条約として締結され,神聖ローマ皇帝も指定された期限ぎりぎりの10月30日,調印に応じた.
ここでは英仏間の講和条約の訳と英仏条約/仏蘭条約の対照表を掲げる.

大ブリテン国王たる最もやんごとなく力ある君主ウイリアム三世およびフランス国王陛下たる最もやんごとなく力ある君主ルイ十四世の間の平和条約.一六九七年九月十/二十日,レイスウェイクの王宮にて締結.施政官閣下らの命により印刷された文書より再録.

第一条〔友好関係〕
大ブリテン国王たる最もやんごとなく力ある君主ウイリアム三世およびフランス国王たる最もやんごとなく力ある君主ルイ十四世,その世継ぎや継承者の間,また両者の王国,諸邦,臣民の間に,普遍的かつ永続的な平和,そして真の誠実な友好が来たるべきである.そしてそれは誠実かつ侵されることなく保たれかつ培われ,一方は他方の利益,名誉,利点を促進し,両陣営における誠実なる隣人関係および平和と友好の真実なる遵守が日ごとにいや栄え,増すべきである.

第二条〔敵対行為の中止〕
前記大ブリテン国王および前記フランス国王,その臣民の間のすべての敵意,敵対行為,不和,戦争は停止し,放棄され,今後はいずれの側も陸上,海上,水上を問わず,あらゆる場所において,そして特にそれぞれに属する領土,属領,地点の全広がりにおいて,それがいかなる条件であろうと,あらゆる形で,略奪し,荒廃させ,害をなし,傷害し,悩ませることは慎み,控える.


第三条〔免責〕
前記大ブリテン国王やその臣民あるいは前記フランス国王やその臣民が戦争中に互いからこうむったあらゆる加害,傷害,損害は忘れられるものとする.そのためいずれの側も,またいずれの側の臣下も,それを理由として,あるいは他のいかなる大義や主張のためであろうとも,今後自分でもまた他の者を使ってでも,秘密裏にでも公にでも,直接にでも間接にでも,権利の旗印に基づいてでも既成事実によってでも,いかなる敵対,敵意,妨害,障害の行為を互いに命令したり,あるいは逆になされることを許したりはしない.

第四条〔イギリス王位への不干渉〕
そしてフランス国王は平和が確固として侵されざるものたることを何にも増して望んでおり,前記国王は自分自身およびその継承者について前記大ブリテン国王が現在享受している王国,国土,土地,属領を自由に領有することをいかなる理由であろうと決して乱さないと約束し,協定する.よって,国王の信義と名において,前記大ブリテン国王のいかなる敵に対しても直接間接を問わずいかなる助力をも与え,供しないこと,そしていかなるしかたであろうとなんらかの反逆者もしくは不満をもつ人物らがなんらかの場所において前記国王に対して喚起あるいは画策するかもしれない共謀や陰謀を肯定することもしないことを約する.そしてその目的のため,武器,船,弾薬,軍需物資,金銭その他いかなる方法においても,陸上海上を問わず,今後いかなる主張のもとであれ,前記大ブリテン国王のその王国,国土,土地,属領の自由にして完全なる領有において前記大ブリテン国王を乱したり妨害したりするような人物もしくは人物らを支援しないことを約束し,約する.大ブリテン国王は同様に,自分自身と継承者たる代々の大ブリテン国王について,前記フランス国王とその王国,国土,土地,属領に対して同じことを侵すことのできない形で行ない,遂行することを約束し,約する.

第五条〔航海と通商〕
前記両国王の臣民の間では,自由な航海と通商がそれは以前の平時において,そして先の戦争の宣戦以前にそうであったように実践されるものとし,誰もが自由に前記両国王の王国,市場,港,河川に商品を持って来たり,その地にて妨害されることなくとどまり,交易することができ,厳粛なる諸条約および古来の慣習によって認められているすべての自由,,免責,特権を享受するものとする.

第六条〔司法〕
通常の裁きの施行が両国王の王国と属領を通じて復活され,再開するものとする.それにより両国王のすべての臣民にとって,それぞれの王国の法,体制,制定法に従って権利,主張,訴訟を求め,獲得することが自由にできるようになる.

第七条〔領土の相互返還〕
フランス国王は前記大ブリテン国王に対し,このたびの戦争の宣戦以前にイングランドが有していたあらゆる国土,島,砦,植民地をどこに位置するものであろうと返還するものとする.そして同様にして,大ブリテン国王はフランス国王に対し,前記宣戦布告以前にフランスが有していたあらゆる国土,島,砦,植民地をどこに位置するものであろうと返還するものとする.そしてこの返還は双方の側において,六か月以内に,あるいはできるならばそれより早くになされるものとする.そしてその目的のために,本条約の批准後ただちに,前記国王のそれぞれは互いに対し,あるいはその目的のために国王の名において権限を与えられた委員たちに,しかるべく作成された適正な形のすべての特許証書,文書,必要な命令を届ける,あるいは届けるようはからい,それらが効力をもちうるようにするものとする.

第八条〔ハドソン湾地方〕
前記両国王の一方がハドソン湾に位置する諸地点に対してもつ権利と主張を調査し,決定するため,双方の側において委員が任命されるものとする.しかし,戦争に先立つ平時の間にフランスによって奪取され,この戦争中にイングランドによって再奪取された諸地点の領有権は,前条の効力によりフランスに残されるものとする.一六九六年九月五日のイングランド人の降伏文書はその形と趣意に従って遵守されるものとする.そこに言及されている商品は返還されるものとする.そこで奪取された砦の長官は,もしすでに解放されているのでなければ,解放されるものとする.前記降伏文書の遂行に関して生じた意見の相違は前記委員によって審査され,決定される.その委員たちは本条約の批准後ただちに,双方の側において前条の効力によって返還される土地の限界と境界を定めるための,また同様に両国王相互の利益と利点につながるような土地の交換のための十分な権限を授けられるものとする.
そしてこの目的に向け,そのようにして任命された委員たちは本条約の批准の時点から三か月以内に都市ロンドンにて集まり,その最初の会合から起算して六か月以内にこの件に関して生じるあらゆる意見の相違や紛争を決着させるものとする.そののちは,前記委員たちが協定した条項は両国王によって批准され,本条約のうちに一語一語挿入されている場合と同じ力と効力をもつものとする.

第九条〔拿捕免許状の無効化〕
いかなる理由であれいずれかの側においてこれまでに認可された敵国船拿捕および返報としての拿捕免許状は,すべて無意味で無効で,そうあり続けるものとする.この種の免許状は今後前記両国王のいずれによっても相手側の臣民に対して認可されることは,権利が否定されたということがまず明白にされない限り,ないものとする.そして権利の否定は,敵国船拿捕免許状の認可を希望する人物の陳情が,希望されるそれらの免許状の対象となっている臣民の側の国王の名においてその地に駐在する公使に呈示され,公使が四か月以内にそれを反証するための調査を行なったり,訴えられた当事者から原告に対する補償をすみやかに獲得することができるようにしたあとでない限り,認められないものとする.しかし,要求されている拿捕免許状の対象となっている臣民の側の国王がその地に公使をおいていない場合には,敵国船拿捕免許状は陳情がなされ,希望されている拿捕免許状の対象となる臣民の国王に,あるいはその枢密院に提出された日から起算して四か月を経たのちまで認可されないものとする.

第十条〔拿捕品の返却〕
一方の側が講和締結後,その報せが届く前に他方の陣営より奪取され,差し押さえられたと申し立てる船,商品,その他の動産の回復に関して生じるかもしれないあらゆる紛争と論争のもとを取り除くため,本条約の調印と公表後にいずれかの陣営によって奪取されたあらゆる船,商品,その他の動産は,セントヴィンセント岬までの英国近海および北海の場合は十二日以内,前記岬を越えて等分線すなわち赤道よりこちら側ならびに大洋および地中海では十週間以内,最後に前記の線〔赤道〕を越えた全世界については六か月以内になされたものについては,例外なく,また時間や場所についてのさらなる区別なく,またその返還や補償についていっさい考慮されることなく,現有者に属し,そうとどまるものとする.

第十一条〔事故による和平崩壊の防止〕
しかし,もしも不注意,無思慮,あるいは他の何らかの原因により前記両国王の臣民の何人かが,陸上,海上,水上と場所を問わず,本条約に反する,あるいはそのいずれか特定の条項が履行されないようなことをなしたり,犯したりしたとしても,前記両国王の間のこの平和とよき交流はその理由によって中断されたり,破られたりせず,それ以前の効力,有効性,拘束力をもち続け,前記の臣民だけが自らの行為に対して責任を問われ,諸国の慣習と法に従って処罰を受けるものとする.

第十二条〔戦争再発時の国民への猶予〕
しかし,前記両国王の間で今沈静化した意見の相違がある時点で新たにされ,公然たる戦争に発展した場合であっても(そのようなことのなからんことを),両陣営の船,商品,そしてあらゆる種類の動産で敵対側の港や属領にあった,あるいはとどまっていたものが没収されたり,何らかの不都合を受けたりはしないものとし,〔断交の日から起算して〕完全に六か月が前記両国王の臣民に認められ,その期間中に彼らは前述の物や他の所有物であるいかなるものをもその地から望むところへいかなる妨害もされることなく運び去り,あるいは輸送することができるものとする.

第十三条〔オレンジ公領〕
オレンジ公領ならびに前記大ブリテン国王に属する他の土地や属領に関することについては,一六七八年八月十日にフランス国王陛下と連邦共和国の連邦議会との間で締結されたネイメーヘン条約の別記条項がその形と趣意に従って完全に効力をもつものとし,これまでに新たに取り入れられ,変更されたすべての事項は現状に復されるものとする.前記条約にいかなるしかたであれ反する,あるいはその締結後に作成されたあらゆる布告,勅令その他の証書はいかなる種類のものであろうと,無意味で無効であるとみなされ,将来復活されたり意味をもったりすることはないものとする.そしてすべては前記国王に,前記ネイメーヘン条約で終結した戦争の期間中に奪われる以前に有し,享受していた,あるいは前記条約に従って有し,享受するべきでるのと同じ状態,同じ様式にて返還されるものとする.そして,それに関して生じるかもしれないあらゆるいさかい,意見の相違,訴訟,問題に終止符を打つべく,前記両国王はともに,完全にして即決の権限をもってこれらすべての問題を調停し,決着させる委員を任命する.そして,フランス国王の権威によって大ブリテン国王が,ネイメーヘン条約の締結後このたびの戦争の宣戦までフランス国王の勢力下にあったオレンジ公領ならびにその他の属領からの歳入,権利,利益の享受を妨げられたことに関しては,前記フランス国王は,前記委員たちの前でなされる宣言と確認に従って,それらすべての歳入,権利,利益を,実効をもってしかるべき利子を付けて返還し,実際に返還されるようはからう.

第十四条〔ブランデンブルク選帝侯〕
一六七九年六月二十九日にサンジェルマン・アン・レーにてフランス国王と故ブランデンブルク選帝侯との間で締結された講和条約〔しばしばネイメーヘン条約の一部に数えられる〕はそのすべての条項において回復され,神聖なるフランス国王陛下とブランデンブルク選帝侯殿下との間で以前の拘束力をもちつづけるものとする.

第十五条〔サヴォイ〕
一六七九年八月九日に神聖なるフランス国王陛下とサヴォイ殿下の間で締結された条約が遵守されることは,公共の平穏に資するところ大であるため,前記条約は本状により確認されるものとすることが合意された.

第十六条〔その他の参加国〕
批准書の交換前,あるいはその後六か月以内にいずれかの側によって指名される者は,双方の合意によってこの平和条約のもとに包含されるものとする.しかし,その一方,大ブリテン国王たる最もやんごとなく最も力ある君主ウイリアムおよびフランス国王たる最もやんごとなく最も力ある君主ルイは,スウェーデン国王たる最もやんごとなく最も力ある君主カールによって用いられた誠実なる斡旋と不断の尽力,そしてその仲介の介入が神の支援のもとこの幸いなる和平の大業を望まれた結末に導いたことを感謝をもって認めるものであり,そしてその同様な愛情を示すため,すべての陣営の同意により,前記神聖なるスウェーデン国王陛下は,そのすべての属領,国土,属州,権利とともに本条約に含まれ,最善のしかたで講和に包含されることが規定され,合意された.

第十七条〔批准書の交換〕
最後に,しかるべき形において作成された本協定および提携の厳粛なる批准書は,双方の側において発行され,調印の日から起算して三週間以内に,あるいは可能であればより早くに,ホラント州のレイスウェイクの王宮において相互的にしかるべく交換されるものとする.

これまでに述べられたすべての各事項の証として,そしてそれらがより大いなる効力をもち,しかるべきあらゆる拘束力ならびに完全な権威をもつため,下名の特命大使および全権は,高名にして最も秀逸なる特命大使にして調停者とともに,本講和の文書に署名し,封する.

イングランドとフランスの大使,そして調停者によって調印される

別記条項〔帝国の参加期限〕
本日九月二十日に調印された平和条約によって締結され,規定されているすべてのことに加え,さらに本別記条項により以下の通り合意され,それは一語一語前記条約に挿入されている場合と同じように同じ力と効力をもつものとする.フランス国王は皇帝および帝国は,来たる十一月一日までの間,その間に皇帝陛下および帝国とフランス国王陛下との間に別の協定がなされるのでない限り,先ごろフランス国王によって本月一日になされた宣言に従って提案された和平の条件を自由に受け入れることができるものと誓約し,協定するべきであり,本条により誓約し,協定する.そしてあらかじめ定められた期間内に皇帝陛下がそれらの条件を受け入れない場合〔であっても〕,皇帝陛下および帝国とフランス国王陛下との間で別の協定がなされるのでない限り,前記条約はその完全なる効力をもつものとし,その形と趣意に従ってしかるべく執行されるものとする.そして大ブリテン国王が直接間接を問わず,またいかなる理由もしくは原因に基づくものであろうと,前記条約に反する行動をとることは不法とする.

翻訳にあたってのテキストはA Collection of Treaties between Great Britain and Other Powersの英語訳(抄訳らしい)を利用した.


英仏条約と仏蘭条約の対応

英仏条約 仏蘭条約
第一条〔友好関係〕
第二条〔敵対行為の中止〕
第1条〔友好関係〕
第三条〔免責〕 第2条〔免責〕
第四条〔イギリス王位への不干渉〕
第五条〔航海と通商〕 ※仏蘭間には通商条約が別途結ばれている
第六条〔司法〕
第七条〔領土の相互返還〕 第8条〔領土の相互返還〕
第9条〔捕虜の釈放〕
第八条〔ハドソン湾地方〕
第九条〔拿捕免許状の無効化〕
第十条〔拿捕品の返却〕
第10条〔徴発の停止〕
第十一条〔事故による和平崩壊の防止〕 第11条〔あらゆる野心の放棄〕
第12条〔司法〕
第13条〔事故による和平崩壊の防止〕
第十二条〔戦争再発時の国民への猶予〕 第14条〔戦争再発時の国民への猶予〕
第十四条〔ブランデンブルク選帝侯〕 第15条〔ブランデンブルク選帝侯〕
第十五条〔サヴォイ〕 第16条〔サヴォイ〕
第十六条〔その他の参加国〕 第17条〔調停者スウェーデンを和平に含めること〕
第18条〔フランス側の指定する他の参加国〕
第19条〔オランダ側の指定する他の参加国〕
第20条〔調停国スウェーデンによる保証〕
第十七条〔批准書の交換〕 第21条〔批准書の交換〕
第22条〔公布〕


『世界歴史大系 ドイツ史2』(山川)によると,フランスと皇帝・帝国との条約の概要は次の通り.
・フランスはプファルツ継承問題での請求権を放棄
・フランスはライン川右岸の領地を返還
・フランスはアルザスの外の「再統合」地を返還
・返還された「再統合」地では,フランス統治の間に導入されたカトリックを維持(「交渉の最後にほとんど詐欺的に挿入されたいわゆる『ライスワイク条項』」)


(C) 2003.10. 友清理士; 訳文の最終修正日2003.11.28
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