リチャード3世関連小説

The Last of the Barons (Edward Bulwer Lytton, 1843)

『ポンペイ最後の日』で有名なリットン卿がばら戦争を扱った小説(1843).キングメーカーとして伝統貴族たちの信望も厚く,権勢を誇るウォリック伯リチャード・ネヴィルが国王エドワード4世と疎遠になり,一時は国王を放逐までした末にバーネットの戦いで斃れるまでを描く.歴史上の人物のほか,ウォリックの親族マーマデューク・ネヴィル,蒸気機関を研究する学者アダム・ウォーナー,その娘でヘースティングズ卿と恋仲になるシビルといった人物が登場する.架空の人物の活躍を別にすれば大筋で史実に沿っているが,出来事を簡略化したり作者独自の解釈を入れたりしている部分はある模様.
物語は1471年にエドワード4世がウォリック伯とランカスター派を破ったところで幕を閉じるが,最後はリチャード3世による王位簒奪の暗示で結ばれている.
「国王が立つ右手には〔王妃〕エリザベスが赤ん坊の男の子(イングランドの世継ぎ)を腕に抱いており,その肩ごしには〔ヨーク〕公妃の誇らしげな顔が見えた.エリザベスの隣ではグロスター公爵〔リチャード〕が剣を杖にして立つ.エドワードの左には誓いを破ったクラレンスが喜ぶ群衆にその美しい顔で会釈していた!勝ち誇る国王,麗しい王妃,そして何よりもヨーク朝の系統が末永く続くことを約束する幼き男子の世継ぎの姿に,群衆は心からの叫びを上げた.『国王陛下とご子息に栄えあれ!』何の気なくエリザベスはうるんだ目をエドワードからその弟に向け,その瞬間,母親の予言本能とでもいうように,赤ん坊をぎゅっと胸に引き寄せた.エリザベスが見たのは,グロスター公リチャード(その時点ではヨーク家の若き英雄,将来には冷酷にウォリックの仇を取る人物)のぎらつく不吉な目が罪のない命に注がれているところだった.その赤子こそ非情な知性の野心がイングランドの王位を相続するか弱い障害となる運命にあるのである!」
目次
第1巻 青年マーマデューク・ネヴィルの冒険
第2巻 国王の宮廷
第3巻 物語は国王の宮廷から学者の部屋に移り,世事に口を出したことで賢者に降りかかる危難を語る
第4巻 エドワード4世の宮廷の陰謀
第5巻 父祖の殿堂における貴族たちの最後
第6巻 みなよりも高みにある者とみなを高めようと望む者に伴う後記の運命が一部瞥見される.愛,民衆扇動,知―みな等しく,同じ多産な幻想の末裔である―すなわち,いやしき心(地上の大半)は永遠に受難し,多くを望まない気高き心の希望および苦悩に値する.
第7巻 民衆の反乱
第8巻 キングメーカーと国王の最後のきずなが切れる
第9巻 さまよえる亡命者
第10巻 キングメーカーの帰還
第11巻 キングメーカーの新たな立場
第12巻 バーネットの戦い
あらすじ(歴史にまつわる部分を中心に)
1467年,ウォリック伯はフランス宮廷訪問を控えていた.親フランスのウォリックは国王エドワード4世の妹マーガレットとフランス王ルイ11世の弟との縁組を提案していたのだった.国王は,数年前にウォリック伯の意に反して身分の低いエリザベス・ウッドヴィルと結婚したことはあったが,いまだ貴族たちの抑えのためにウォリック伯を頼りにしていた.しかし,国王としてはロンドン商人層からなる新興の中産階級がフランスとの同盟を好まないのが気がかりだった.ウォリック伯は国王の意思を再確認したうえでフランスに向けて出発したが,国王はウォリックの支配をうとましく思い始めていた.
宮廷では,フランス訪問中のウォリックの行動を怪しむ声も出る.ヘースティングズはウォリック伯への個人的なうらみは忘れてフランスをランカスター派から引き離す利を指摘するが,リヴァーズ卿は現地のスパイからの報告の都合のいいところだけを読み上げ,国王の印象を悪くすることに成功する.ウォリックはフランス王に,エドワード4世にはフランス王との約束を違えることはできないと言ったというのにエドワードは反発したのだが,省かれた部分でウォリック伯はエドワード4世が信義を重んじる人間だからだとその真意を述べていたのだった.ウォリック伯が話をまとめて帰国すると,マーガレットはブルゴーニュ公の公子たるシャロレー伯との縁組が決まっていた.ウォリック伯は地盤のミドラムに帰り,貴族たちもウォリックに従う姿勢を見せる.
ランカスター派の貧乏学者アダム・ウォーナーは蒸気機関の発明に腐心していた.ロバート・ヒルヤードの依頼で機関のデモにまぎれてロンドン塔に捕らわれているヘンリー6世と連絡を取ろうとするが失敗.逃亡したヒルヤードはロビン・オブ・リーズデールとして農民の反乱を引き起こす.国王の弟クラレンス公ジョージとグロスター公リチャードのとりなしで反乱は終息する.ジョージはウォリックの長女イザベルと,リチャードは(ひそかに)その妹アンとの結婚を望んでいたのだった.しかし,国王はジョージとイザベルとの結婚に反対する.それにもかかわらず,再び反乱が起こると,オルニーで窮地に追い詰められた国王のもとにウォリック伯が駆けつけた.しかし,ミドラム城でのウォリック伯の権勢を見た国王は,農民たちに対し,あたかもウォリック伯が国王を裏切ったかのように見せた.
ウォリック伯の娘アンにも目をつけた国王は,アンを宮廷に呼び寄せたが,アンは好色な国王から逃れた.あまりの事態の急変に,ウォリック伯は,イザベルがぞっこんになっているクラレンス公ジョージも伴ってフランスに亡命せざるを得なかった.
ウォリック伯は仇敵ランカスター派のマーガレット・オブ・アンジューと同盟を結ぶことになった.それにはフランス王の仲介ばかりか,娘アンがマーガレットの息子エドワードと幼なじみだったことが助けになった.クラレンスとイザベルの結婚と同時に,エドワードとアンも婚約した.
ウォリック伯はエドワードを放逐し,ヘンリー6世を復位させることに成功する.だが荒天のためマーガレット王妃らはフランスに留まり,武人ウォリックは政治のかじ取りに手を焼いていた.エドワード4世がイングランドに上陸すると,みるみる支持を集め,クラレンスも兄王のもとに走った.ウォリックは娘イザベルをクラレンスのもとに送ってやった.
エドワード4世は首都を奪還し,バーネットでウォリック率いるランカスター軍と対峙した.戦闘のさなか,ランカスター派のオクスフォード伯の旗印が誤認されたことから同士撃ちになり,ウォリックは逃走を潔しとせず,弟とともに討ち死にした.エドワード4世のヨーク朝は安泰なものになった.

原文   要約

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