リチャード3世関連小説

Epitaph for Three Women (Jean Plaidy, 1981)

イギリス王室にまつわる多数の歴史小説で知られるジーン・プレイディーによる「プランタジネット・サーガ」第12作.
第一部(キャサリン・オブ・ヴァロワ),第二部(ジャンヌダルク),第三部(グロスター公妃エリナー)という構成.だが,第一部,第三部はいずれもキャサリンとエリナー両者がクローズアップされる.第一部のキャサリンとオーエン・テューダーとの出会いの描写はやや月並み.第二部はよく知られたジャンヌダルクの生涯を描いて比較的独立性があるが,ジャンヌダルクを処刑する立場になる,ヘンリー五世の弟ベッドフォード公の存在が第一部,第三部との橋渡しになっている.
第一部 キャサリン・オブ・ヴァロワ
1. The Welsh Squire (p.13)
ヘンリー五世が急死し,フランスにいた妃キャサリンはイングランドの幼い我が子(ヘンリー六世)のもとに行く.夫の死を聞いたときにそば近くにいたウェールズ出身の従者,若きオーエン・テューダーに親しみを覚え,イングランドに行く家臣に加える.
2. Burgundy (p.35)
グロスター公ハンフリーがブラバント公妃ジャックリーヌの領地(エノー,ホラント,ゼーラント)を目当てに,ジャックリーヌとブラバント公の結婚無効を対立教皇から取り付けて結婚する.ジャックリーヌも占領されている領地を取り戻してくれる強い男を求めていたのだ.だがブラバント公はブルゴーニュ公と関係があり,ブルゴーニュ公の機嫌を損ねることは避けねばならなかった.折しもブルゴーニュ公シャルルがフランスで暗殺され,跡を継いだブルゴーニュ公フィリップはフランス王シャルル七世を憎んでいた.グロスター公の兄ベッドフォード公は取り急ぎブルゴーニュ公を訪問してうまく事情を打ち明けることに成功し,しかもブルゴーニュ公の妹アンを妃に迎える話も取りまとめた.
3. A Scottish Romance (p.61)
スコットランド王ジェームズ1世が20年来のイングランド捕囚を終えてイングランド王族ジェーン・ボーフォートと結婚して帰国.それを見たキャサリンはオーエン・テューダーへの思いをふくらませる.
4. The Marriage of Bedford (p.71)
ベッドフォード公がブルゴーニュ公フィリップの妹アンと結婚.打算でなくアンを愛する公は,流血を嫌うアンの願いを聞き入れ,長らく抵抗した末に開城したオルセーの指導者を赦す.
5. The Duke's Mistress (p.78)
グロスター公ハンフリーは「妃」ジャックリーヌの権利を主張して大陸に渡り,兄のベッドフォード公ジョンを慌てさせる.だが,ブルゴーニュ公が断固阻止の構えを見せると,増援を用意すると偽ってジャックリーヌを残して帰国した.だが愛人のエリナーは連れ帰った.
6. The Duke and the Bishop (p.86)
帰国したグロスター公ハンフリーはウィンチェスター司教のヘンリー・ボーフォートと対立して騒ぎを引き起こし,ボーフォートとウォリック伯リチャード・ビーチャムはベッドフォード公をフランスから呼び戻す.だがボーフォートは大法官位返上を余儀なくされる.
7. The Queen Plights her Troth (p.98)
キャサリンとオーエンの件は公然の秘密となり,妊娠がわかると二人は結婚の決意をする.一方,幼児でなくなったヘンリー六世は母のもとから取り上げられ,グロスター公のライバル,ウォリックが担当となる.
8. Orleans Besieged (p.113)
ベッドフォード公率いるイングランド軍はオルレアン包囲に着手する.包囲軍に補給を届ける部隊がフランス軍に狙われたが,ジョン・ファストルフは防備を整えて待ち受け,快勝する(ニシンの戦い).キャサリンはオーエンと結婚し,子エドマンドをもうけるが,グロスター公が議会を動かして王妃に無断で結婚することを禁じる法を制定したので,秘密にする.そのころ,フランスではある乙女の噂が出ていた.
第二部 ジャンヌダルク
1. Early Days in Domremy
ドンレミ村のダルク家のジャネットは聖人カタリナの話に感激する敬虔な女の子だった.その間,フランスはイングランドのヘンリー五世に破れ,フランス王とヘンリー五世が相次いで亡くなるとイングランドは幼いヘンリー六世をフランス王として宣言したが,ジャネットは王太子シャルルこそがフランス王だと確信していた.
2. Voices
友人と遊ぶより教会で祈るのが好きなジャネットは天使の声を聞くようになるが,両親はそんなジャネットを心配する.叔父だけはジャネットの話を真剣に聞いてくれてヴォークレールの代官ボードリクールのもとに連れて行ってくれたが,天使の予言通り相手にされなかった.戦乱を逃れてヌフシャトーに滞在していた間,かつてジャネットと結婚の約束を交わしたという青年が来たときは両親も喜んだが,ジャネットは遠方の役所まで一人で出向いて婚約を否定した.ジャネットはフランスを救うために処女のままでいる決心をしていたのだった.
3. The Meeting at Chinon
叔母の出産を手伝うのを機に家を出られたジャネットは,叔父にヴォークレールに連れて行ってもらう.ジャネットの噂は広まっており,ボードリクールの配下の二人もジャネットを神の使いとして信じていた.ロレーヌ公から呼び出しがあったときにはジャンヌは喜んだが,単に魔術を使うようだから病気を治してほしいというもので,全くの時間の無駄だった.ボードリクールはジャネットを助けるのにやぶさかではなかったが,万一ジャネットを宮廷に送って失敗したら笑い物だ.宮廷の許可を取るような意味合いも込めて宮廷に護衛の弓兵を送ってもらい,ジャネットをシノンの宮廷に送り出した.
並いる貴人の中でジャネットが王太子に話しかけると,貧相な顔立ちの王太子はもっと堂々とした別の者を指して王太子はあちらだと言ったが,ジャネットは動じなかった.王太子の姿を事前に見ていたとは思えない.おそらく,王太子の貧相な顔立ちを聞いていたのだろうと思った.だが,開口一番,ジャネットは王太子はフランス王の真の後継者であると告げる.王太子は,狂人の父と愛人をとっかえひっかえしている母との間に生まれ,母からは私生児だと告げられていたので,今までは自分に国王たる資格があるのかどうか疑問に思っていたのだが,その思いを真っ先に言い当てられて,ジャンヌを信じる気になった.
4. Victory at Orleans
オルレアンではすでにジャネットのことは知れ渡っており,ジャネットはオルレアン入りした.指揮官のデュノワは亡きオルレアン公の私生児だったが,忠実で有能な指導者だった.デュノワが援軍を迎えに行った後,フランス軍はイングランド軍の拠点に攻撃を開始した.ジャネットが肩に負傷して後退すると,奇跡伝説もこれまでだとイングランド軍の意気が上がったが,ジャネットは自ら矢を抜いて再び陣頭に立った.イングランド軍は浮足立ち,フランス軍は勝利した.こうしてオルレアンは解放された.
5. Triumph at Rheims
フランス宮廷は勝利に沸き立っていたが,ジャネットはオルレアンを解放したあと,王太子をランスで戴冠させるのが神から与えられた自分の使命だと思っていた.そして,使命を果たしたあとは裏切りに会って死ぬ運命だと自覚しているジャネットに,デュノワは感銘を受ける.敵勢力下を通ってのランスでの戴冠には反対もあったが,ジャネットの説得に王太子も納得した.途中の町も難なく開城し,ランスも王太子を迎え入れ,戴冠に成功した.そしてデュノワのはからいでドンレミの家族が迎えに来てくれていた.ジャネットはドンレミの村人が困っている税の免除を国王から認めてもらったが,一緒に帰郷することはせず,イングランド人をフランスの国土から追い払う決意だった.
6. Disaster at Compiegne
ジャネットはパリ攻撃に失敗し,イングランド軍はパリをブルゴーニュ軍の手にゆだねた.ジャネットは包囲を受けたコンピエーニュにはいるが,打って出たところ失敗する.しかもまだ城外にいるうちに城門が閉じられてしまい,ジャネットはブルゴーニュ公の配下のルクセンブルク伯の捕虜となった.コンピエーニュの守備隊長はジャネットの政敵の縁戚だったのだ.ジャネットは脱走を試みるが失敗し,より堅固な城に移された.今度は神の加護を信じて塀から飛び降りるが,墜落して生死の境をさまよった.
看病してくれたのはルクセンブルク伯の叔母と妃で,二人ともジャネットの純真さを理解してくれた.叔母はルクセンブルクの領地の権利者で,ルクセンブルク伯にジャネットの身柄をイングランドに移すのを禁じたが,まもなく亡くなり,ルクセンブルク伯はジャネットをイングランドに引き渡した.ブルゴーニュ公も,ベッドフォード公にフランドルとの禁輸をちらつかされて配下のルクセンブルク伯が身代金と引き換えにジャネットの身柄をイングランドに売り渡すことを認めたのだった.
7. Finale at Rouen
ジャネットはルーアンに連れてこられて宗教裁判にかけられる.ジャネットを有罪にするのは簡単だったが,ベッドフォード公ら上層部は誰の目にも疑いのない形でジャネットを魔女として貶めたがっていた.一年以上にも及ぶ詮議の末,ジャネットは疲れ果てて差し出された文書に署名の×印を付けるが,その直後,聖カタリナと聖マルガレータに語りかけられ,自分は死によって魂の救いを得ると思い出す.ジャネットは宗教裁判所から世俗の権威に引き渡され,火刑に処せられた.
第三部 グロスター公妃エリナー
1. The Witch of Eye
9歳になったヘンリー六世はイングランドでの戴冠のほかフランスでも戴冠することになり,フランスに渡ってイングランド勢力下のノルマンディーの首都ルーアンに滞在した.ルーアンでは,同じ城にジャンヌダルクが捕らわれており,魔女だと聞かされて怖がっていたが,牢獄を覗き見してその姿をかいま見ると,悪人ではないと思うようになった.ランスはジャンヌダルクの登場でフランス勢力圏になってしまったので,ヘンリーはパリで戴冠し,帰国した.
ウィンチェスター司教ボーフォートも帰国し,グロスター公と対立した.低い生まれからジャックリーヌの侍女となり,今やグロスター公妃になっていたエリナーは,いつか王妃になることを夢見ていた.エリナーは公との間に子ができないことが悩みで,アイ地区の魔女と呼ばれる,かつて媚薬を処方してくれた女を訪れた.
2. The Death of Bedford
ベッドフォード公はジャンヌダルクの処刑以来すっかり老けこんでいた.戦況も思わしくなく,ブルゴーニュ公の姉妹であった妃アンも亡くなってしまう.心の空白を満たすために,数か月後にルクセンブルクの若く溌剌としたジャケッタと再婚するが,これがブルゴーニュ公を怒らせることになる.その一方で,フランス王はブルゴーニュ公に対して,先代のブルゴーニュ公殺害犯の断罪など魅力的な申し出をする.今やブルゴーニュ公にとって,フランス人でありながらイングランドと同盟しているのは,ベッドフォード公との約束のためだけだった.だがベッドフォード公もやつれ果てて世を去る.ブルゴーニュ公は約束から解放され,フランス王家と和解した.
3. The End of an Idyl
グロスター公妃エリナーはその後も「魔女」を訪ねていた.ベッドフォード公が亡くなった今,少年王ヘンリーの次の王位継承者はグロスター公だった.エリナーはヘンリーの呪詛を依頼する.
キャサリンのもとを15歳になったヘンリーが少数の供回りと訪ねてきた.ベッドフォード公の死去を受け,教育係だったウォリック伯がフランスに摂政として赴くという.キャサリンはふとオーエンの名を出したときにヘンリーがなつかしそうにしたのをきっかけに,自分の今の幸せはオーエンのおかげであると打ち明け,ヘンリーが理解を示すと,結婚していること,四人の子があることを伝え,オーエンも呼んで家族の時を過ごした.
グロスター公は浅はかで野心的な一方,学問好きの側面もあって,ヘンリー六世はその影響で学問好きになっていたが,公妃エリナーは苦手だった.
グロスター公は少年王ヘンリーから,オーエンと会ったことを聞いた.公はキャサリンがオーエンとの隠棲に満足していることを理解していたが,公以上に野心的な公妃エリナーに唆されて,オーエンを逮捕することにした.まもなくオーエンは投獄され,キャサリンは子供たちとも引き離されて修道院に入れられ,死を願うようになった.
ニューゲート監獄に入れられていたオーエンは脱出してキャサリンに使いを送るが,使いが着いたとき,キャサリンはこときれていた.ヘンリー六世はオーエンを自由の身と宣言するが,グロスター公は少年王の宣言など意に介さず,再びオーエンを捕らえ,ニューゲート監獄に送る.オーエンは再び脱出して今度はウエールズに逃れた.
4. The Reckoning
グロスター公妃エリナーは魔女の効力がないのにしびれをきらし,さらに二名の占い師を紹介してもらい,国王を亡きものにするために,国王の蝋人形を作ってゆっくりと溶かしていく.だが三人は捕まった.次期王位継承者グロスター公の関与が疑われ,三人はエリナーの名を白状した.三人には死刑判決が下され,エリナーは国王の義妹ということもあって終身の幽閉を言い渡された.
少年王ヘンリーはグロスター公を警戒するようになり,グロスター公の影響力は低下した.老齢のボーフォートよりも手ごわいサフォーク公が王の信頼を得るようになっており,フランスと和平を結んでフランスからヘンリー六世の妃を迎える話も進められた.
グロスター公は議会に妃の釈放を願い出ようとしたが,グロスター公が軍を集めているという根も葉もない噂が政敵によって流されており,グロスター公は国王の配下によって宿所に留め置かれた.その間にグロスター公は体調が悪化し死去した.暗殺の噂も立ったが事実は闇の中だった.それを聞いたエリナーは自分の釈放の望みが消えたことを知るのだった.


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