「ばら戦争」という呼称を広めたとされるウォルター・スコットの小説(1829).ヨーク朝のエドワード4世の王位が確立して亡命したランカスター派のオクスフォード伯ジョン・ドヴィアがブルゴーニュ公の支援を求める旅をスイス史を背景として描く.
「ばら戦争」の呼称についてテキストを検索すると,たしかにthe wars of the White and Red Rosesという表現が1度だけ使われている.ただ,本作以前にも,1646年のパンフレットにThe Quarrel of the Warring Rosesというものがあり,ヒュームの『イングランド史』(1762)でもthe Wars of the Two Rosesの表現があるという.
●歴史上のオクスフォード伯ジョン・ドヴィア(1443‐1513)
オクスフォード伯はエドワード4世に仕えていたが,不興をこうむり,1469年にウォリック伯とともに亡命し,1470年のランカスター朝再興に貢献した.1471年のバーネットの戦いでも主力の一つを率いたが,敗れ,再びフランスに亡命した.1473年には小規模の兵力で何度かイングランド上陸作戦を繰り返し,コーンウォールの小島
セントマイケルズマウントを占領した.国王軍の包囲に耐え続けたが,翌1474年初頭には助命を条件に降伏した.カレーの近くの城に収容された.(ちょうどこの物語の期間に当たる.)
リチャード3世即位後の1484年に脱獄し,ランカスター系のヘンリー・チューダーがボズワースの戦いでリチャード3世を破るのに貢献した.
唯一の息子ジョンは亡命中にロンドン塔で死去し,オクスフォード伯位は甥のジョンが相続した.