リチャード3世関連小説

The Goldsmith's Wife (Jean Plaidy, 1950)

エドワード四世の愛人で,のちにドーセット侯(王妃エリザベス・ウッドヴィルの前夫との子)やヘースティングズの愛人となり,ウッドヴィル一族とヘースティングズの連絡役としてリチャード三世に対する謀反に関与したことで罰されたジェーン・ショア(Jane Shore)の物語.
ジェーンがどのようにしてドーセット侯,ヘースティングズの愛人になったかは(どちらが先かも含めて)史実としては不詳らしいが,そのあたりもジェーンの視点からそれなりの説明が付けられている.実際のジェーンは後年トマス・ライノムと結婚して中流の生活をしたようだが,本作ではその点は大きく変更されていてむしろロンドン塔の2王子を心配する立場が描かれている.リチャード3世については冷たく近寄りがたいが誠実な人物として描かれている.
各章の概要は以下の通り.
1. チープサイド (p.7)
チープサイドの織物商の娘ジェーン・ウェインステッドは有力貴族のヘースティングズに見染められる.ヘースティングズに唆されて侍女ケイトはジェーンに眠り薬を飲ませてしまうが,思い直して父親に知らせて事なきを得る.怒った父親がケイトを追い出すのを止めるため,ジェーンは父の勧める金匠ウィリアム・ショアとの結婚を承諾する.
2. ロンバード街(p.51)
ロンバード街の金匠の妻となって2年.ウォリック伯を破って(1471)王位を安泰にしたエドワード王の凱旋行列を見たときにジェーンはヘースティングズの姿を見る.ヘースティングズは訪ねてきて執拗に交際を迫るが,夫が追い払ってくれた.その後,エドワード・ロングという商人が店に来てジェーンに惚れる.宮廷にも出入りするメアリー・ブレイグの家で何度か会って親しくなるが,メアリーに連れられて行った宮廷舞踏会でエドワードが国王だと知る.愛することのできない夫との生活に耐えられなくなったジェーンは迎えに来た国王の馬車に乗り込む.
3. ウェストミンスター宮殿(p.109)
ウェストミンスター宮殿で国王エドワード4世の愛妾として暮らすジェーン.王をジェーンに会わせたのはヘースティングズの金匠に対する復讐だったと知る.ジェーンへの真実の愛に目覚めたヘースティングズは親族の娘を使って国王の気を引き離そうとするが,ヘースティングズの政敵である王妃エリザベスはジェーンを励ます.
ジェーンは,王弟クラレンス公ジョージがメアリー・ブレイグとひそかに会っていたと侍女ケイトから聞いて,失踪中のアン・ネヴィルがメアリーがサザークで営んでいる売春宿に捕らわれているとぴんときて王弟グロスター公リチャードに知らせるが,国王はジェーンの干渉に腹を立てる.アンは売春宿にはみつからなかったが,エドワードが他の愛人をみつけたとき,ジェーンは下町に出かけて今度こそアンをみつけ(アンは売春宿から逃げ出していた)リチャードに伝えた.アンとの結婚を望むリチャード,アンの財産をねらって保護者面するジョージ,アンを親族と結婚させたい王妃の間で険悪な情勢になり,エドワードはアンがみつからないほうが好都合だったと不満をぶちまける.ジェーンは自分が愛したエドワードは本当のエドワードではなかったのではないかと悩み,思い切ってアンを発見したのは自分だと告白する.すると,それまで息巻いていたエドワードは笑って許してくれた.
4. ロンドン塔(パート1)(p.149)
リチャードとアンが結婚して3年がたっていた.ジェーンはフランス遠征(1475)から4か月ぶりに帰ってきたエドワードがすっかり中年っぽくなったのに驚き,ハンサムなドーセット卿に惹かれてしまう.さらに2年が過ぎ,クラレンス公ジョージの行状がエドワードにとって目に余るようになる.
ジェーンはよく王妃の二人の息子の面倒を見ていた.まだ5歳の弟のリチャードが結婚するときも励ましてやる.結婚式にはグロスター公リチャードも任地の北部から上京して参列したが,ロンドン塔に収監されていたクラレンス公ジョージの姿はなかった.エドワードはジョージを許すつもりで会いに行くが,ジョージはエドワードがかつてエリナー・バトラーと結婚の誓いを立てており,王妃との結婚が無効だと知っていた.エドワードは王妃,次いでリチャードに事情を話す.リチャードは王子たちの王位継承に不利な事情を話すエドワードの率直さにあきれつつ,自分の野心がはやる気持ちは抑えて,ジョージを処刑したりすべきではないと助言する.エドワードはジェーンのところにやってきて事情を話し,眠れない夜を過ごす.その夜,ぶどう酒で寄ったジョージのもとに二人の男が現われてぶどう酒の樽でジョージを溺死させた.
5. ロンドン塔(パート2)(p.187)
王妃の連れ子ドーセットと,王妃の政敵であるヘースティングズがジェーンをめぐって対立する.そんなころ,国王は両者を和解させて崩御する(1483).エドワードを失ったジェーンはドーセットの肉体的魅力に逆らえず,ドーセットの愛人となり,ロンドン塔に居を移す.エドワード4世はグロスター公リチャードを少年王の保護者に任じていたが,王妃とドーセットはリチャードを出し抜こうとする.
リチャードが機先を制して主導権を握り,ドーセットは身を隠す.ジェーンは肉欲に負けてこっそりドーセットを訪れ,外の情報を伝えたり王妃との連絡を取り持ったりする.スティリントンが王妃の結婚無効を枢密院で宣言したと知ると,ドーセットはヘースティングズを味方につけるようジェーンに説く.ジェーンに思いを寄せているヘースティングズならジェーンの言葉には耳を貸すだろうというのだ.
ジェーンは反発しながらも,ヘースティングズ邸を訪れる.ジェーンは,後ろ盾の国王を失った自分をヘースティングズが見下したりしないのがありがたかった.一方,ヘースティングズは,ジェーンがヘースティングズのことを憎んでいたのに生前のエドワードに讒言などしなかったことを評価していた.ジェーンは,ヘースティングズを愛しているのか憎んでいるのかわからなくなり,いつか捨ててやるくらいの気持ちで愛人となったが,ヘースティングズを愛していることに気づく.
ヘースティングズはリチャードの友だった.リチャードは冷たく,近寄りがたいところがあったが,気高さもあった.スティリントンの話を受け入れたのは,心底信じたからだと思われた.それでもヘースティングズは,少年王の立場を案じるジェーンに共感し,少年王の王位を守るためにスティリントンの告白をでっちあげだと信じる面々を集めるようになる.
そうして1週間ほどしたころ,ヘースティングズが目をかけていて信頼していたケーツビーがリチャードに密告する.枢密院の会合でリチャードは反逆者を逮捕させ,なかでも親友と信じていたヘースティングズだけは即刻処刑を命じた.結婚してロンドン塔に住んでいたケイトから事情を聞いたジェーンはロンドン塔に駆けつけ,ヘースティングズに愛していると告げる.ヘースティングズは最後の一週間の幸せを胸に堂々と処刑された.
6. ラドゲート(p.233)
ジェーンは衆目にさらされて公の悔悟をさせられる.その後放免されたが,エドワード四世から与えられた屋敷には何も残っていなく,メアリー・ブレイグの甘言に唆されて世話になることにした.しかし,メアリー・ブレイグは,ジェーンの債権者への返済のためにジェーンを売春宿で働かせるつもりだった.それを知るとジェーンは着ていた服も返すと,もとのボロをまとってメアリーの家を出て,ケイトを頼る.しかし,メアリーの密告でジェーンはラドゲート監獄に入れられた.
悲惨な状況の中で,ジェーンは負債を負って投獄されたとある女性の罪のない娘に外で職を与えることを頼むために,視察に来た法務次官トマス・ライノムと知り合う.少年王に代わってリチャード三世が王位にあると聞いたのもライノムからだった.後日,少年王と弟が殺されたという噂も聞くが,ケイトに尋ねてデマだとわかる.ライノムはジェーンとの結婚を望み,国王の許可を願い出,リチャードも王妃アンの気持ちも考えて許すことにした.
外では,王族の血を引くバッキンガム公がモートンに唆されてドーセットやヘンリー・テューダーと結託し,リチャード三世に反旗を翻したが,反乱は失敗に終わり,ドーセットは逃亡,バッキンガムは処刑された.
一度はライノムの申し出を受ける気になったジェーンだが,ライノムは善良で愛してくれるとはいえ,愛することはできなかった.監獄から出るために結婚しても,金匠ショアとときと同じ失敗になりそうだった.ジェーンはライノムの申し出を断ったが,ライノムは無条件にジェーンの負債を払い,ジェーンを自由にしてくれた.
7. イーストチープ(p.279)
1484年初頭.ロンドン塔の豪華な部屋に監禁されたも同然の王子たちはジェーンの来訪を楽しみにしていた.リチャードの王位が確固たるものになり,監視も緩くなったが,それでも二人の少年は牢獄にいるような気分になってきていた.元王妃エリザベス・ウッドヴィルは聖域にいながら長女エリザベスのヘンリー・テューダーとの将来の結婚を承諾したが,それを知ったリチャードは寛大な申し出をしてきた.王妃は娘をリチャードの妃にと考えるようになり(リチャードの息子は亡くなり,妃アンは病弱で長くはもたないと思われた),野心的な娘もその気になり,聖域を出てウェストミンスター宮殿にはいった.ジェーンからそれを聞いたロンドン塔の王子たちは自分たちも解放される日を待ち望む.
ヘンリー・テューダーが上陸し,リチャードはボズワースの戦いで臆病なヘンリー・テューダーに対して一気に決着をつけようとするが,スタンレーの裏切りで忠実な友たちともども敗死する.ヘンリー・テューダーがヘンリー7世となり,ジェーンはヘンリーの王位継承権を脅かす二人の少年のことが心配になるが,王子たちは姉エリザベスが王妃になればいよいよ自分たちも解放されると楽しみにする.だが刺客たちの手によって窒息死させられ,ロンドン塔の秘密の部屋に葬られる.
ジェーンは赤貧のうちに生き続け,ヘンリー8世のアン・ブーリンへの恋慕が取り沙汰されているころ世を去る.


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